✣ 18話 淑女、誤解される
どうも、皆さま。ご機嫌麗しゅうございますわ。
お風呂から上がったばかり、の私です。
前の人生では腕を通した事のない、バスローブを着て無駄に長い髪をタオルで巻き上げるスタイルでごめんないね。
なんせ、私、今世は……
──────王女、ですので。
(すみません、調子乗りました)
立派な座椅子に腰掛け、足を組み、差し出された葡萄を三つの指でひと粒もぎ取る。
艶やかな葡萄を口へと運ぶ。
噛むとジュワッと口内を蹂躙するジューシーな甘み。
あ─、乾いた喉に染み渡るぅ〜
と、葡萄を堪能中したところで……
目前で正座するラッキー男を見下ろします。
折り畳んだ両膝がぷるぷると震わせ、その上に拳を乗せておられます。
彼の額は赤く、後頭部は若干腫れてますわ。
「……本当に、すまなかった。お前の悲鳴を聞き、何事かと……」
申し訳なさそうに私から視線を逸らし、そう仰りました。
組んでいた足を戻し、スクッと立ち上がる。
近くに寄ると、赤くなったところが痣になっておられす。
うわ…こりゃ、痛いわ。
まぁ……
あの叫び声を聞いて
一目散に助けに来て下さったわけですよね。
……咄嗟のことで、
私もやり過ぎ?たかも、ですわ。
腰を前に折り、落ちてきた長い髪を耳に掛けた。
カーディアスの前へと腕を伸ばす。
「……私も、気が動転して、お兄様に怪我を負わせてしまいましたし……ここは、お互いに忘れましょう?」
「エス……。お前がそう、言うのなら」
翠緑玉が私を真っ直ぐ見つめてこられたので、
私は小さく、ええとだけ告げましたわ。
私の手に戸惑うように添えた指先。
重ねた瞬間、皮の厚みを実感しました。
思わず、石?!岩?!って、口から溢れそうになるのを止め、よーく拝見しましたら、切傷でしょうか。
細かい傷痕がありましたの。
遠目から見たら、キラキラで苦労のくの字も知らなそうに見える王子様。
だけど実際は、
────かなり苦労したんでしょうね。
なんか、鼻の奥がツーンとしますわ。
あら、イヤだわ。……心の汗が。
「ん?どうした?」
「……いえ。ただ、ゴミが」
私は何事もなさそうに、指の背で払う。
心配だと顔に書いてあるカーディアスが、膝を立てる。
「見せてみ、……はッ、」
腕を強く引かれ、視界がグラつく。
エッ、ま、まさか!?
カーディアスの足下へと視線を落とす。
そこには、
軸を失った足が、ございました。
やっぱり!!
頭にポンッと出た時には、……時すでに遅し。
微力な私の細腕が、
二十歳そこそこの男性を支えられるわけもなく……
そのまま、一緒に床へと倒れ込みました。
ドッ、────ドン。
不意に床に突いた私の腕に衝撃が骨を伝う。
その傍にはカーディアスの首筋。
どこか痛むのか、歪む顔。
フワッと鼻へと通る石鹸の香り。
サラッと流れた髪。
髪先がカーディアスの頬を掠めた。
う、ウソ……私。
────床ドン、カマしてもうた!!
「すまない。……足が、痺れて」
曇りひとつない澄んだ瞳が私を見上げた。
いや、こっちこそ、支えられなくて、
ご、ごめんなさい!!
今、離れるから───ッ。
カツ。
……カツ。
視界の端で見知らぬ靴先が見えた。
顔を上げる前に、頭上から声が落ちた。
「……痴女?」
その言葉に、私は石像の如く固まった。
これまで生きてきた中で身に覚えのない、衝撃が身体中に駆け巡った瞬間だった。
違うっ!
違うのよ!
お母さん、コレは……
不可抗力だから───っ!




