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結末が残酷な死に方なので棚ぼた玉座は遠慮します!なのに、最大の敵が溺愛してくるんです!  作者: 幻燈 カガリ


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✣ 11話 淑女は生きる電卓でねじ伏せますの






 ─────バシッ!



 か細い腕が振り上がり、これでもかってくらいの力で手の平をテーブルへと叩き付け、高らかに宣言する。


「9853484ですわ!!」


「あ、また正解です!1ポイント追加!!」



 どうも。皆さん。

 ご機嫌いかがでしょうか?


 悪逆非道暴君女王エスティアこと、私です!!



 え?いきなり何始めたの……ですか?


 ふふっ。

 ────それはですね。




 早押しッ!

 計算大会ですの!!




 ただいま、ナイジェルの面目をコテンパンに叩き潰している最中でございますの。




 あ、ダミアンが問題を読み上げますわ。




「では、次は……258479と369875を……」



「か、紙をく、れ!!」



 私の隣で慌てふためく、野郎を横目で一瞥しまして、

 再度、腕を上げテーブルへと落とす。



 ────バシン!




 その音で、更にナイジェルの顔から血の気が引きますのよ。




「628354ですわ。そうでしょう?ダミアンさま」




 目の前で多量に書面を抱えているダミアンへと視線を送る。

 私の視線に気付いたダミアンは肩を大きく震わせ、眼鏡を掛け直す。



 書面へと視線を落とすと、ダミアンは壊れた人形のように首を縦に振った。



「せ、正解です!1ポイント追……」


 ダミアンの声を遮るようにノルドが手を挙げた。組んでいた長い足を戻すと、すくっと立ち上がった。



「……ナイジェル。もう実力はお前より上だって理解しただろう?」


「ま、まだだ!あと一問だ!次こそは私が────とってみせる!」



 手を肩に乗せ、ノルドは長い睫毛を伏せ、首をゆっくりと横に振った。



「もう、終いだ。さっきので何問目だ?」



 ノルドは顔をダミアンに向けた。

 ダミアンは息を吐くように告げる。



「168問目です……もう、これ以上やってもナイジェルは勝てないでしょうね」




 アハッ!

 どうよ、ナイジェル?

 馬と呼んだ私に負けたご気分は?



 馬に負けた貴方を何て呼んだら良いのかしら?




 苦虫を噛み潰したようなお顔のナイジェルを見下ろす。湧き立つ笑みを堪えようとするが、口端がぴくぴく暴れるのはどうしようもない。



「私の、ぐふっ……失礼。ナキジェル、…いえ、ナイジェル。私の勝ちでよろしくて?」



 優雅にそっと腕を組み、指先を顎へと添える。

 眉頭が勝手な行動を取ろうとするのを戒め、目を細めた。



「……うぐっ。……わ、私の負けだ」



 膝の上で、拳を震わせる。その上にひとつの雫が落ちた。



 あへ?この方、もしや……?



 ───次の瞬間。



「ウワァアアアアアン───負けちゃったよお母たまッ」



 天井へと咆哮が穿った。仰ぎみる顔は大口を開け、涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっている。



 大の大人が……凄まじいですわ。



 私は異様に冷めた目で黙って見つめた。




 ✣✣✣✣




「ぐしゅん……」



 しゅんと肩を縮こませ、まだ落ち着かないナキジェル……じゃなかった、ナイジェルにハンカチを差し出す。



 頬杖を付き、顔は向けない。


 これから食事にする、とノルドとダミアンは料理を取りに部屋を出て行った。ナイジェルを放置して。

 私たちはふたり残された。



 指先からハンカチが滑るように持っていかれた。



「……ありぎゃ、とう、」


「いえ」



 なんか、

 新人ちゃんのことを思い出すわ。


 あの時もこうやってハンカチを……




 ぐじゅ──────んっ!!




 へ?

 固まった首を右へと動かす。


 ナイジェルさ両手で鼻を押え、ヒラヒラと舞う私の白いハンカチ。



 私のハンカチが……

 穢されたぁああぁあ──!?



 仰け反る私と目が合い、ナイジェルはそのハンカチを躊躇うことなく差し向けた。




 い、いらねーよ!!



 全力で首を振り、腕を伸ばし指の先まで力を込めた。席から腰が浮く。



「いら……差し上げますわ」


 顔を背けたまま、口元を手で隠しながら素っ気なく零す。


「い、良いのか?」



 ん?何か……耳赤くない?

 まあ、泣いてたもんね。

 血流も活発に巡り巡ったってとこ、かしら?



「やさ、しいのだな。ソナタは」



 え、そうかしら?

 大人の対応だと思いますよ。



 ん?右から凄い圧を感じる。



 鼻息が荒い気がするのは気のせいよね?




 ───ガチャ。



 扉が開いた。

 一気に部屋中に飛び広がるジューシーなお肉のお匂い!


 香ばしく焼き上げ焦げ目がなんと食欲をかき立てる。


 お腹ペコ虫も、もう我慢が出来ないと今にもお腹から割って出てきそうですわ!!



「待たせたな。ほら、たくさん食え」


 袖を肘まで捲し上げたノルドが私の前へと立つ。

 湯気が上がるお皿が遂に……



 ───────テーブルに着ドン!



 あぁ、最高のビジュ!

 付け野菜は見た事ないのもありますが、

 今はどうでも良いのです!!



 ダミアンが背後から、ナイフとフォーク、そして、シャンパングラスが置かれた。

 慣れた手つきでシャンパンがグラスに注がれる。

 煌びやかなシャンパンゴールドがシュワシュワと細かい泡が立ち上がる。


 フレッシュな柑橘系が鼻先をくすぐった。


 ああ、お酒まで。

 口の中のヨダレが止まりませんこと!



 ギィィと椅子を引く音。


 すみませんと謝るダミアン。



 皆が席に着いた。

(なんで、私の前がノルドなの?)


 ノルドの長い指がステムと伸び、絡み合った。

 手に取り、軽く上に上げる。


「では、頂こう。我が商団の新しき風の入団を祝して」


 皆がグラスを掲げ、口へと運ぶ。

 私もグラスを唇に付けようとした途端、腕を掴まれた。


 身を乗り出してまで、阻止したのは目先にいたあの男。


「お前は飲むな」


 それだけ言い捨てると、グラスを掻っ攫っていった。

 私の手元にあったシャンパンはノルドの喉へと流された。



 クソッ!実年齢は私の方が上だ!!

 返せ!私の酒っ────!!



 睨みつけるが、ノルドは気にも留めない。

 フッと鼻であしらい、黙々とシャンパンを口にする。



 なんて奴っ!!

 しかも、絵になりやがるっ!

 解せぬぅぅぅ!!


 もう、お肉食べよ。



 フォークとナイフを手に取り、ステーキへと視線を落とす。 フォークをステーキに突き刺そうと指先に力を入れる。だが、そのフォークは刺さるどころか跳ね返してきた。



 え?なにこれ?

 ゴムの親戚ですの?



 片眉が跳ねた。

 顔も無意識に傾き始めた。



 肘を両側に突き出し、ギゴギゴ音をかき鳴らす。

 やっとひと口大に切れた頃には腕がパンパンに。


 揺れ動くフォークに刺さったお肉をやっとの思いで口で食む。



 私は固まった。




 お母さん……



 ──────お肉が、石のようです。





 その後の記憶は消し飛びました。

 顎が、とにかく痛いです。





 ✣✣✣✣





 顎のつけ根を揉みほぐしながら、あの部屋を出た。


 男連中はどうやら強靭な顎の持ち主らしく、肉の形をした石をゴリゴリ食べていた。



「私には出来ない芸当ですわね……」


 肩を落としながら、二階へと戻ろうとすると扉の閉まる音がした。


 誰かが出てきただろうが、気にせず先を急ぐ。



「おい、待て」



 この声は───?!

 聞こえないふりして帰─ろ!


 素早く足を動かし、階段の前まで来た。

 そこから、二段飛ばしで階段を上がろうとした途端、足が引っかかった。



 何で、この身体ッ!

 いつもこんな時に転ぶのよッ!



 走馬灯のようにゆっくりと天井を見上げた。

 背後から香る白檀と柑橘系の匂いが濃くなった。


 見下ろすふたつの蒼玉の瞳。

 少し顔が赤みを帯びた顔が、目に飛び込んた。


「全く……危なっかしいな。お前は」



 吐息が顔に掛かる。

 ひょいと身体が浮き、そのまま視界が動き始めた。



 え?私、荷物ですか?


 脇に抱えられ階段を一段一段上がって行く。



「見張ってないと何しでかすか、分からねーな。このジャジャ馬は」



 言葉とは裏腹にノルドの声は愉快な声音だ。



 二階へと辿り着くと、ふわっと床につま先がついた。そのまま、腕が離される。


「周りを良く見て動けよ?」


 額に軽く指の背で叩かれる。

 痛いようで痛くない。

 胸が少し騒がしい。



「飯、あんまり食べてなかっただろ?ほら?」


「なんですか、これ?」


 叩かれた額を指先で撫でながら、突き出された紙袋を見た。


「変なモノは入れてない。とにかく、明日から頼むぞ」


 それだけ言うと、ノルドは階段を降りて行く。数段降りてから、足が止まった。


 そのまま顔だけを向け、落ち着いた声で言葉を投げた。



「おやすみ。いい夢を」



 いつものようにふざけた表情ではなく、目元を緩めた優しい穏やかな顔をで。

 それだけ伝えると、スタスタ降りて行ってしまった。


 頬がポッとした。

 たった一言なのに、顔が熱い。



 良い顔だから、ただそれだけよ!


 手に力を入れると、カシャカシャと音が立った。

 渡された紙袋を覗く。



「サンドイッチだ……いつ作ったのかしら?」



 もう見えなくなったノルドの行った先を眺めた。サンドイッチを手に取り、ひと口頬張る。


 ジャムサンド。

 甘くてちょっぴり酸味。

 そのあとに来る淡い苦味は、

 どこか、あの男を彷彿させる味だった。



 私の好みの味だった。



 この世界に来て常にヒリついていた感覚が、少し和らいだ気がした。













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