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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第68話 物語は変えられない

 数日後――。


 私は、再びハーデン公爵家の宰相執務室に招かれていた。


 前回の面談の続きだろうか。

 そう思いながら案内された先は、応接室ではなく隣室の書斎だった。


「申し訳ありません。少々準備がありますので、こちらでお待ちください。」


 そう言われ、私は首を傾げる。

 言われるまま部屋に入ると、なぜかお父様もいた。


「どうして、エリカがここにいる?」


「お父様こそ。お父様も呼ばれた理由は聞いてないの?」


「ああ。」


 これは、珍しいことだった。

 ハーデン公爵は用件を明かさない人物ではない。


「少し嫌な予感がするな。」


 お父様が珍しく眉をひそめた。


 その時だった。


「ハーデン公、今日は何の用ですか?」


 隣の部屋から聞こえてきた声に、私は息を呑んだ。私は声の方を見る。

 最初は偶然だと思っていた――。

 間違いなく、アイゼン王太子の声だった。



「殿下に確認したいことがございます。」


 ハーデン公爵の落ち着いた声が聞こえる。


「この後、会議があるので手短に頼む。」


「それでは、単刀直入に聞きましょう。なぜエリカ・ルフェラン侯爵令嬢なのですか?」


 自分の名前が聞こえ、私は息を呑んだ。

 隣に座っていたお父様の手がわずかに動いた。


「今さら何を言っている?」


「我が娘でも良かったのではありませんか?マーガレットは、幼少より王妃教育を受けております。我が娘の方が国母に相応しいはずです。」


「関係ない。」


 アイゼン王太子の言葉に少しだけ嬉しくなる。

 しかし――ハーデン公爵は止まらない。


「では、何故エリカ・ルフェランなんですか?」


「……何度も言わせるな。」


「恋愛に溺れた国王など、臣下も民も誰もついて来ません。」


「……。」


「家臣達は納得するのですか?」


「納得させるさ。」


「感情論で?」


「違う。」


「では、私を含む家臣達に殿下のお考えをお聞かせ願えますか?」


 沈黙が流れる。

 そして――アイゼン王太子の声が少し低くなった。


「ルフェラン侯爵家は中立派だ。」


『ルフェラン家は貴族派閥の中立派』


 以前にトモエが言っていた【恋蜜こいみつ】のエリカとアイゼンの設定が頭を過る。


『侯爵家というちょうど良い家柄』


「家柄も申し分ない。」


 心臓が痛い。


『リップル王国王妃の親戚』


「母親はリップル王国王妃の姪だ、外交上の価値も高い。」


 嫌な汗が流れる。

 聞きたくないのに耳を塞げない。


「そして――。」


 アイゼン王太子は続けた。


『素直で扱いやすそうだったから』


「貴族らしからぬ素直さがある。」


 その言葉に身体が固まった。

 世界が止まった気がした。


「違う、そうじゃない」とそう言って否定して欲しかった。

 だけど、並べられる理由は私が知っているものばかりだった。


 中立派の侯爵家の娘、エリカ。

 外交上の価値がある、エリカ。

 扱いやすい駒である、エリカ。


 それは、以前トモエから聞いた【恋蜜こいみつ】の設定そのもの。


 それは、私じゃない。ゲームの中のエリカ。


 私は違う理由でアイゼン王太子に選ばれていると思いたかった。二人は違う未来を歩いていると信じたかった。

 なのに――。アイゼン王太子が挙げた理由は、【恋蜜こいみつ】のアイゼン王太子がエリカを選んだ理由、そのままだった。



 カチリ。

 ハーデン公爵は、懐中時計を閉じる。


「殿下。今のお言葉、本気ですか?」


 ハーデン公爵の声。


「当然だ。」


 その瞬間――、隣の部屋の扉が開いた。



「なっ……。」


 アイゼン王太子が立ち上がる。

 そこにいたのは私とお父様だった。


「エリカ……それに、侯爵まで?」


 アイゼン王太子の顔から血の気が引く。

 私は何も言えなかった。

 何を言えばいいのか分からなかった。


 今聞いた言葉は、全部知っていた。

 全部――【恋蜜こいみつ】と同じだったから。



 私はゆっくりとスカートの裾を持ち上げた。

 王太子妃教育で何度も練習した。

 完璧なカーテシー。


 不思議と怒りはなかった。

 悲しみも、悔しさも、全部どこか遠く感じて、ただ胸の奥だけが痛かった。

 まるで最初から決まっていた結末に嘲笑われたようだった。


「今までありがとうございました。」


 震える声が出ないように。

 必死に押さえる。


「エリカ、違う!」


 アイゼン王太子が立ち上がる。

 だけど私は顔を上げる。

 涙が止まらなかった。


「お幸せになってくださいませ、殿下。」


 束の間の王太子妃として、最後まで美しく……。

 そう思ったのに、涙だけは隠せなかった。



 私は踵を返す。


「待て!」


 背後からアイゼン王太子の声が聞こえる。

 

「失礼いたします!」


 後を追おうとするアイゼン王太子の前に、お父様が立ちはだかった。


「ルフェラン侯爵!」


「申し訳ありません、殿下。私は、娘を優先させて頂きます。」


 その声は静かだった。


 そして、私は振り返らなかった。



 あの日、ハーデン公爵は最初から私達に聞かせるつもりだった。


 国のために。娘マーガレットのために。


 そして――愛よりも正しいものがあると、ハーデン公爵は信じていた。

 あとがき


 拙者、すれ違い大好き侍。

 故に、これが書きたくて、この作品を書いたと言っても過言ではありません。


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― 新着の感想 ―
読了しました(*´ω`*) すれ違い恋愛っていいですよね。 もどかしい、この胸に残るキュッとした想いが次の物語をより面白くしてくれる感情であるわけで!!
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