第8話 親子討論
執事のクルードから報告のあった『教会に縁がある者』は、十八歳から二十八歳までの孤児院出身の男女四名だった。
二十一歳の元大工職人のサムは事故で片足を失い、技術はあるのに片足を欠損した事を理由に働けず、路上生活を送っていた。
手先が器用で孤児院にある家具は全てサムが作った物だった。
(技術がある。なのに、使えない。——前世なら、こんな理由で仕事を失わずに済んだのに)
現在は教会で備品の修繕を担当している。
十八歳のケイトは孤児院にいた時はケントという名前だった。
昔から可愛い物が好きで男子と遊ぶより女子と遊ぶことが多い子供で、孤児院を出る際にケイトと名乗るようになり、女性として住み込みで針子の仕事をしていた。成長期に入り、声変わりや体の変化により男である事が知られ、解雇され路頭に迷っていた。
(自分らしく生きようとしただけで、居場所を失ったなんて……)
現在、教会では炊事を担当している。
二十三歳のウエインは個人商店で勤務していた。愛想も良く、頭の回転も速い商人として評判も良かった。
しかし、勤務先の後継ぎである息子に目を付けられ、横領の冤罪をかけられる。教会から領主であるお父様に再調査の依頼があり、ウエインの冤罪が晴れるまで二年の歳月が流れていた。
(教会の人達が声をあげてくれて良かった……それでも失った信用と二年は戻らない)
現在、教会では食材の管理や運営費の帳簿を担当している。
二十八歳のナタリーは商家に嫁いだ過去がある。
不妊を理由に三行半を突きつけられ行き場を失っていた。
慣れないマナーや教養を必死に身につけてきたのだろう。
(不妊は理由にならない。なのに、この世界にはそれを守る仕組みがない。——この人は、ずっと一人だったんだ)
礼節のしっかりとした女性で、現在、教会では子供達の世話係を担当している。
四名とも、能力ではなく不平等によって人生を狂わされた人達だった。
(この人達の力を借りれば、子供達の未来が変わる)
◇
その話を執事のクルードから聞いた時、私は次の計画も実行できると確信した。
領主であるお父様に計画案を説明する。
「まず、この四名を子供達の先生として教育します。その後、四名には基本的な読み・書き・計算とは別にそれぞれの得意分野を子供達に教えていくことによって、孤児院を出る時には職に就くための知識と技能を身につけられると思います」
お父様は執事のクルードから受け取った報告書を見ながら話を聞いていた。
「なるほど。しかし、誰がこの四名に指導するんだ?クルードは侯爵家の執事の仕事もあって多忙なんだ。孤児院のことばかり任せるわけにはいかないんだよ?」
(きた!この展開を、ずっと待っていた)
「お父様、四名の教育はこのエリカ・ルフェランが行います!」
トモエと情報共有するためには、教会に行く機会を作りたかった。
孤児院の問題解決だけでなく、この課題もクリアできる方法は、この機会を逃せば他にはない。
娘が自ら孤児院に出向くと思っていなかったお父様は、領主としての顔から、心配する父親の顔へと変わった。
「エリカが行かなくても家庭教師を雇えば……」
「侯爵家令嬢の私でも週一回来て頂ける程度なのに、孤児院の教師を引き受けて下さる先生などいません」
「クルードに行かせれば……」
「クルードは侯爵家の執事の務めがあります!」
「貴族の子供が定期的に市民街に出かけるなんて、誘拐してくれと言ってるようなものだ!」
(この反論も、想定済みよ)
私は机にルフェラン領の地図を広げる。
「大丈夫です!地図上では、我が家の使用人の住まいの先にある森の先が孤児院ですよね?」
私が指差した方向を見て、お父様は眉間にしわを寄せた。
「そこに通路を作れば市民街は通りません」
実際、前世を思い出す前のエリカは使用人の目を盗んで孤児院に通っていた。
馬車で教会に行くには車道のある市民街を通るため、遠回りをして行かないといけない。
しかし、直線距離では森を抜けた先が教会の裏にある孤児院になるのだ。
ルフェラン家の敷地には、お母様の出身地である隣国リップル王国の熱帯植物が多く植えられている。人工的に植林された森は均等に木々が植えられているので、視界が開けている。
エリカが一人で孤児院に行く事が、なぜ可能だったのか分かった。
「坊ちゃま、お嬢様はよく考えておられます」
執事のクルードがニヤリと微笑みながら、お父様にこっそり耳打ちする。
(クルード、あなたも共犯者よ)
「……クルード、坊ちゃまはやめてくれ。分かった、ターニャと護衛の騎士は必ずつけるように」
こうして私は、正式に孤児院へ通う理由を手に入れた。
(これで、トモエにも会いにいける)




