第7話 年相応になりましょう
ルフェラン領の救貧方法を考える前に、手短な孤児院の改善から取り組む事にした。
現在の孤児院はその日の食事だけで精一杯な暮らしで、教会に割り当てられた金額でやりくりしている状態。
子供達は十五歳まで雨風凌げる環境には置かれるが、孤児院を出た後に生きていくための力がない。
十五歳までにある程度の知識と技能を身につける必要がある。
子供達の世話をするのは教会シスターが中心となっているが、炊事・家事は子供達が分担して行っているようだ。
子供達の修業時間を確保するには人材が必要となる。
また、健康面では食料不足から栄養が足りていない。明るく振る舞ってはいたが、子供達だけではなく神父やシスターも痩せすぎだ。
(問題をあげれば切りがない……)
何より、ルフェラン領主であるお父様に協力してもらわなくてはいけない。
お父様は家族を愛しているが良識がある人だ。
教会改善案にもある程度の根拠と計画案が必要になるだろう。
侯爵家令嬢とはいえ、十四歳の少女が出来る事には限りがある。
(なら、十四歳にしかできない事をすればいい)
そこで、私は子供という立場を使う事にした。
この国の貴族の子供達は、王立学園に通うまでの間、屋敷に家庭教師を招き、座学やマナーを学ぶのが風習となっている。
国の貴族の子供達の数を考えると授業は週一回程度。
あとは、家ごとにどのような教育をするかが決められている。
我が家では、お母様が外国語を教えてくれたり、歴史やルフェラン領に関する知識は執事が担当している。
私が狙いをつけたのは執事だ。
執事のクルードは――お祖父様が当主だった頃からルフェラン家に仕えており、幼少期のお父様の世話をしていたせいか、お父様を「坊っちゃま!」と諭す場面も見られる。
クルードはルフェラン家の影のブレインだと私は思っている。
◇
今日はルフェラン領の経済についての勉強をする事になっている。
「――以上が近年のルフェラン領の経済の動きとなります。エリカ様、何かご質問はございますかな?」
授業終わりは必ずこう聞いてくるので、私は自分がやりたい事を実現するためにはどうすれば良いのか聞く事にした。
まずは食料問題。
前世の知識を活かして考えたのがフードロス削減からのフードバンク。
「まず、飲食店や食料品店から廃棄間近の商品を寄付してもらう。寄付してもらった食べ物を孤児院の食事として利用して、孤児院で消費以上の寄付があった場合は教会の炊き出しに使用する」
「ゴミが減ればゴミ処理費用が削減される。この費用を福祉費用として捻出すれば少額でも予算となると思うの」
「なるほど。しかし、協力してくれる飲食店や食料品店に何の得があるのでしょうか?美徳で生活は成り立ちませんよ」
執事のクルードは、私の考えを聞きながらも現実的な問題を指摘する。
そう、美徳はお金にならない。
しかし、お金に代わるものがあれば考え方も変わる。
私が考えたのはルフェラン領主からの感謝状だ。
「お金に代わるものがあれば、考え方も変わると思います。ルフェラン領主からの感謝状よ」
「感謝状……?」
「貴族が平民を感謝するというのは、お金では買えない価値があると思うの。たとえ紙一枚の賞状でも、領内で信用と知名度を高める効果は、商売をしている者にとっては十分な動機になるはずよ」
「……お嬢様、素晴らしい!このクルード、感激しております!」
そう言いながらも、もう頭の中では動き始めているのだろう。私は、前世の知識を話しただけだったが、クルードは私が返事をする前に、すでに手帳を開いていた。
そこからの執事のクルードは早かった。
お父様への報告、ルフェラン領商工会への協力要請、教会に縁のある者達の雇用も進み、次々と手順が整っていった。
実施後の成果は、執事のクルードからの話を聞くだけだったが、どうやら無事に運用されているようだった。
◇
ある日、執事のクルードを通して、お父様の書斎に呼ばれた。
「エリカ、今日は父親ではなく、領主として君と話したい」
(父親ではなく、領主として——つまり、今から私は娘ではなく、提案者として話すということだ)
「クルードから話は聞いている。この度の孤児院の食料問題解決、見事だった。エリカは、まだやりたい事があるんだろう?」
最近、執事のクルードの授業の半分は孤児院の話だった。
孤児院の食料問題の後に考えていた子供達の教育問題。
十五歳を迎えた子供達が安定した職に就くためには、読み・書き・計算は最低限必要となる。
これを実行するにはどうするか?
この場合はどうするか?
クルードに提案をして指摘を受ける事を繰り返したおかげで、案はまとまっていた。
(今日が改革の第一歩よ!)
「孤児院の子供達の修業時間の確保が可能になりました。子供達に読み・書き・計算を学ばせようと思います」
(子供達の人生は続いていく)
「子供達が孤児院を出た後、安定した職に就ければ、生活困窮者の増加を防ぐことになり、いずれはルフェラン領の納税にもつながりますから」
「……教師はどうするつもりだい?」
執事のクルードから報告を受けていた孤児院の食料問題の際に採用された『教会に縁がある者』の経歴を見た時、私は確信した。
(この人達なら、子供達の先生になれる)




