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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第64話 家族になるということ

 

 私はラウルモンドの寝顔を見つめていた。

 薬で眠らされていただけだと聞いている。

 命に別状もない。それでも胸の奥が苦しかった。


「私が間違っていたのね……。」


 誰に向けた言葉でもなかった。

 今まで私は、ラウルモンドを守っているつもりだった。

 平民のままでいい。エディとターニャと離れなくていい。好きな研究をして、好きなように生きればいい。それがラウルモンドの幸せだと思っていた。

 けれど現実は違った。

 才能という甘い香りは人を惹きつける。

 善意も悪意も関係なく誘惑する。

 隠してきたつもりでも、ラウルモンドの才能は隠しきれなかった。その結果が今回の事件だ。


「エリカ。」


 アイゼン王太子が声をかける。


「……私、どうしたらいいのか分からない。」


 初めてだった。

 前世知識も、この物語せかいの設定も、領地経営も役に立たない。


 権力は違う。


 今回、セザールが一緒だったことで影は動いた。もし、ラウルモンドだけだったら?


「アイゼン……ラウルモンドを守りたいの。」


 アイゼン王太子を見上げる。


「でも、ラウルモンドをエディともターニャとも離れさせたくない。どうしたらいい?」


「……そうか。」


 アイゼン王太子は短く答えた。


「方法はある。」


「え?」


「権力で守るんだ。影が動かなくてはいけない存在になればいい。」


 私は息を呑んだ。

 アイゼン王太子は静かに続ける。


「今回の件で証明された。今のままでは限界がある。」


「……。」


「あの少年は優秀過ぎる。」


 その言葉に反論は出来なかった。


「今後もドレアスのような人間は現れる。」


「次はセザール第二王子だけではなく、エリカ君も巻き込まれるかもしれない。」


 胸が締め付けられた。

 アイゼン王太子は私から視線を逸らさない。


「提案がある。」


「提案?」


「ああ……私と婚約するんだ。」


「は?」


 思わず間抜けな声が出た。

 アイゼン王太子は真顔だった。


「ルフェラン家の令嬢が王家へ嫁ぐ以上、侯爵家には後継者が必要になる。」


 そこで私は気付いた。


「まさか……。」


「そうだ、ラウルモンドをルフェラン侯爵家の養子に迎える。」


 言葉を失った。


「侯爵家嫡男として迎えれば、少年は平民ではない。」


 アイゼン王太子は淡々と続ける。


「少年の両親との関係も維持出来る。」


「……。」


「そして、二度と今回のような理由で狙われることはない。狙われても、影の優秀さは分かっただろう?」


 私は何も言えなかった。

 発明では解決出来ない問題。

 優しさだけでは守れない現実。

 その答えを、アイゼン王太子は最初から持っていた。


「権力とは、誰かを縛るためだけのものではない。」


 アイゼン王太子が言う。


「権力は、時に人を守るためにも必要なんだ。」


 私はラウルモンドを見る。

 眠るその横顔は、昔と何も変わらなかった。

 

「ねぇ、アイゼン……私と婚約してくれる?」


 私がそう言うと、アイゼン王太子は静かに頷いた。


「心配するな。」


「え?」


「恋愛結婚は叶えてやるさ。」


 アイゼン王太子はそう言うと、私の髪を撫でた。

 相変わらずの上から目線な言葉……なのに不思議と嫌ではなかった。

 胸が小さく跳ねる――。

 私は慌てて視線を逸らした。



 数日後――。

 ルフェラン侯爵家の応接室には重苦しい空気が流れていた。


 父、エイデン・ルフェラン侯爵。

 母、ルアーナ。

 祖父、イクシード辺境伯。

 我が家のアイドル、セザール。

 そして、アイゼン王太子。


 ラウルモンドが固まっていた。


「もう一度、言っていただけますか?」


 アイゼン王太子は真顔で答える。


「ルフェラン侯爵家の養子になるんだ。」


「はい?」


「侯爵家の嫡男になるという意味だ。」


「はい???」


 ラウルモンドの思考が完全に停止した。


「私は執事見習いですよ?」


「知っている。」


「平民です!」


「知っている。」


「侯爵家の使用人であるエディとターニャの息子です。」


「それも知っている。血筋の話を言うのなら、お前の母はリップル王国では男爵家の娘。そうですね?イクシード辺境伯。」


「殿下が仰る通り、ターニャは男爵家の娘。お前の祖母はルアーナの乳母だった。」


 リップル王国王妃の生家で乳母として働くというのは名誉なことであり、それだけ身元がしっかりしているということだった。


「だからって、嫡男なんて!?」


 ラウルモンドが悲鳴を上げた。

 すると、母ルアーナが首を傾げながら言った。


「ラウルモンド、何を悩む必要があるの?ターニャは私の乳姉妹よ?外国まで付いてきてくれて、私にとっては家族同然なのよ。」


「普段から奥さまには、お気遣い頂き……。」


「奥様なんてよそよそしい!今日からお母様でいいじゃない?もちろん、ターニャがあなたの母親であることは変わりないわ。」


「問題しかありません!」


 ラウルモンドが即座に反論した。

 

「私は賛成よ、ラウルモンド。」


「エリカ様まで!?」


「ここにいる人は、あなたを大事に思っているの。」


 ラウルモンドに味方がいなかった。

 ラウルモンドは助けを求めるように父親であるエディを見る。


「父さん!」


「……。」


 エディは黙っていた。


「父さん?」


「血筋に関して、後ろめたさを感じていたなら俺の責任だ。詳しくは言えないが……お前が後ろめたく思う必要はない。」


「父さん!?」


 一方、終始一貫して無言を貫く男がいた。

 エイデン・ルフェラン侯爵である。


「つまり……殿下と娘が婚約?」


「はい。」


 アイゼン王太子は頷く。


「令嬢との婚約を――。」


「お断りします!」


 即答だった。


「侯爵、話を最後まで聞いて欲しい。」


「お断りします!」


 その頑な態度は、王城で働く姿とは全く異なる娘を持つ父親という生き物だった。アイゼン王太子は頭を抱えた。


 その時だった。


「ふっ。わはははは!」


 緊迫する応接室に豪快な笑い声が響く。

 イクシード辺境伯だった。


「なあ、エイデン。今、どんな気持ちだ?」


 辺境伯はニヤニヤしていた。

 非常に楽しそうだった。


「どうだ?十数年前の私の気持ちが分かったか?」


「……。」


「あの時は辛かった。愛する娘を外国に連れて行かれるというのに、最後まで反対した私が悪者扱いされ……今でも涙が出る。」


(嘘だ……全然泣いてない。)


「お義父上、口を挟まないで頂きたい。」


「おや?私の娘を連れて行った時の元気はどうした?」


 辺境伯は肩を竦める。


「お義父上、状況が違います。」


「どう違うのか、私にはさっぱり分からん。」


「お義父上!」


 父、エイデンは興奮して立ち上がる。


「全然、違います!私は、ルアーナを心の底から愛している。しかし、この男……いえ、殿下は違います。」


「同じだろう?私も最近、殿下の密偵の賭けに参加しておるが、殿下もなかなかだぞ?現在の倍率は三対一だったか?」


(あの賭け事って、ここまで広がっているの?)


 私は、無言でリアン達を睨むと一斉に視線を外す。


「わはははは!愉快、愉快。今日は旨い酒が飲めそうだ。」


 応接室に高笑いが響いた。

 数十年越しの復讐だった。



「ラウル、良かった!」


 セザールがフォーちゃんクッキーを食べながら言う。


「ラウルが兄しゃまになっても、ラウルはラウル!」


「なりません!」


「ねえしゃまと殿下は、いつ結婚式する?」


「まだです!」



 誰も話を聞いていなかった。

 アイゼン王太子は深くため息を吐く。

 そして静かにエリカを見る。

 エリカは苦笑していた。

 

 アイゼン王太子は思っていた。

 なんて騒がしい家なんだろうと……。

 まとまりもない。

 けれど――。

 不思議と悪い気分ではなかった。

 アイゼン王太子は、この時、エリカが憧れていると言っていた結婚の本当の意味を理解した。


 エリカの手を取ろうとするアイゼン王太子の手を遮るように掴んだのは、エリカの父エイデン・ルフェラン侯爵だった。


「殿下、婚約ですから。近頃は若者の間では破棄も流行っているそうなので、そこはご留意を……。」


「今日から、侯爵のことは義父上と呼ばせてもらおう。末長くよろしく頼む、義父上。」


 貼りつけられた笑顔で握手する二人。

 あとがき


 今回は、ラウルモンドの回のはずが、娘を持つ父親VS婿という謎の伝承になりました。

 そして、ついにエリカとアイゼンの婚約も始動。

 はじめから分かっていたことをここまで長引くとは……64話(閑話抜き)ですよ?!


 本当にいつも読んで頂き、ありがとうございます。これからも気長にお付き合い頂けると嬉しいです。

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