第62話 太陽と月と大地の物語
学園長室へ入ると、学園長は満面の笑みだった。
「ルフェランさん!ようやく、学園の秩序が戻りました!」
学園長は両手を広げる。
「桜の木の下での接吻がなくなり、学生らしい、清く健全な交際、実に素晴らしい!」
「それは良かったですね。」
学園長は深く頷く。
しかし次の瞬間。
「しかーし!」
机を叩いた。
「次の問題が発生しました!」
「問題ですか……。」
学園長は机の上の書類を突き出した。
「我が校、自慢の月桂樹の葉が大量にもぎ取られ、ほぼ枯れ木状態です!」
学園長は叫んだ。
「さらに図書館司書から苦情が来ています!」
「苦情?」
「返却された本から月桂樹の葉が出てくるそうです!」
エリカは目を逸らした。
「その数百十七枚ですよ!」
「あと一枚で、百十八で『いい葉』ですね。」
「あ、本当だ。語呂がいいですね……じゃないんです!」
学園長は頭を抱えた。
「図書館司書、めちゃくちゃ怖いんですよ!」
「そうなんですか?」
「私、学園長ですよ!?」
「そうですね。」
「普通に怒られるんですよ!?もう怖くて怖くて……何とかしてください!」
「何とかって……。」
「作家のご友人に葉を取らない話や図書館司書が学園長に怒らない話を書いてもらうとか。」
「誰が読むんですか?それ……。」
「……。」
「……。」
「ゴホン。とにかく、頼みましたよ!ルフェランさん。」
◇
「……って学園長に言われて。」
孤児院でトモエに報告する。
「葉を取らない話はともかく、図書館司書が学園長に怒らない話はちょっと面白そう!」
「本当に面白いと思う?」
「……でも代わりに、月桂樹の葉を使わない話を出せばいいんじゃない?」
「例えば?」
「任務一筋の女スパイとやり手のビジネスマン。」
「スパイも商売もそんな簡単に真似出来るものじゃないし、にわかが今度こそ湧かないでしょ?」
一瞬、納得しそうになったが女スパイとビジネスマン。
サブリミナルパメラとガブリエルが脳裏を横切ったんだが……まさか。
「パメラとガブリエルじゃないわよね?!」
トモエは目を逸らした。
「テオドアとマーガレットと違って、今の世界もルナエクリプスでランドン商会よ。」
トモエは沈黙する。
「私には学園長を救う使命があるの!」
――そして学園長を救う使命から生まれたトモエの新刊『月と大地』は大ヒットした。
学園のあちこちで、その本が読まれていた。
「ねえ、そこ読んだ?」
「読んだわ!」
女子生徒達が興奮した声を上げる。
『私はこの国一番の大商会の跡を継ぐ者。お客様のご要望にお応えできなくては、商人の名折れです』
「きゃああああ!」
「クーリングオフは効きませんよ!?あれ反則!」
「ずるい!」
本を抱きしめた少女達は、頬を赤く染めて騒いでいた。
◇
新刊発売から間もなく、私は再び学園長に呼び出された。
(今度は集団ガブリエル&パメラか?)
(生徒達が「ビジネスチャンスです!」とか言い出してたら、どうしよう。)
不安な気持ちの中、ノックする。
「ルフェランさん!『月と大地』の影響が学園に出ています。」
(何、怖い?!)
「生徒達が将来の進路をスパイや商人になりたいと言っています。」
(あーやっぱり……学園長、苦情が……。)
その割りに学園長はにこやかな様子だった。
「学園に被害は出てないんですか?」
私は恐る恐る聞いてみる。
「出てますよ。でもその管轄は教師の仕事です。先生達には迷える子羊達を導いて頂きましょう。」
集団セシル&ネージュの時、先生達は学園長の味方しなかったこと根に持ってたんだ……。
「ルフェランさん、今度、ヒロオカ先生のサインもらってくださいね!」
「え?」
「図書館の司書がファンのようなので。」
学園長は机の上に置かれた『月と大地』を大事そうに抱えた。
あれだけ目の敵にしていたトモエの作品を抱えて、どこか嬉しそうに笑っている。
昨日の敵は今日の友――。
そんな言葉が浮かぶ出来事だった。
◇
トモエにサインをもらいながら、ずっと気になっていた事を質問する。
テオドア&マーガレット。パメラ&ガブリエル。親世代にも恋愛設定があるなら、物語のアイゼン・フォレストとエリカ・ルフェランはどうだったのか、ずっと気になっていたのだ。
「ところでトモエ。」
「何?」
「私とアイゼン王太子って、物語ではなぜ結婚するの?」
トモエはペンを止め、顔を上げる。
「政治。」
(夢も希望もない!)
トモエは指を一本立てる。
「ルフェラン家は貴族派閥の中立派。」
二本目――。
「侯爵家というちょうど良い家柄。」
三本目――。
「リップル王国王妃の親戚。」
四本目――。
「素直で扱いやすそうだったから。」
「ちょっと、最後!」
私は机を叩いた。
「最後だけ悪意がない!?」
「むしろ一番重要な点よ。」
【恋蜜】のゲームには出てこない王妃の設定があった。
物語の中のエリカ・ルフェランは、恋愛結婚して結ばれた両親に憧れていた。しかし、おとぎ話と違い、現実の王太子妃としての結婚生活はハリボテの世界だった。
「双子が生まれた後、エリカは王籍離脱を申し出たの。『役目は果たしました』から自由にしてください。」
出会った頃のアイゼン王太子を思い出すと、外面は良くても中身は腹黒。王子様からほど遠い。
「うん。」
「そしたら……監禁される。」
「ちょっと、待ちなさい!!私、監禁されるの?」
「今のアイゼン王太子同様、恋愛偏差値0の人間が政治理由以外で手放したくなくなったのよ?」
「……で監禁されて、どうなるの?」
「死ぬまでルフェラン侯爵家帰りたいって願いながら窓から見えるルフェラン邸の屋根を見続けましたとさ、チャンチャン♪」
「チャンチャン♪じゃないわよ!!」
トモエは再びサインを書き始める。
「その後のアイゼン王太子、毎日花を贈るの。」
「今さら?」
「怯えるエリカに毎日会いに来るようになるの。」
「ホラー?ホラーなの?」
「そして、毎日ベッドで囁くの。愛してるって……。」
「重い!」
「こういう設定って一部の人には刺さるのよ。」
「誰が読むのよそんな監禁ルート!」
久しぶりに、【恋蜜】の闇に触れた気がした。
あとがき
書きながら「もしエリカがパメラを助けていなかったら?」というIFを思いついています。
学園へ通う男装女子スパイと、商会の御曹司のお話です。
書くかどうかは未定ですが、気になる方がいましたらコメントで教えてください。




