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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第61話 月桂樹の葉の音

 近頃、貴族女性の間では“ローリエ様”が流行っている。


 “ローリエ様”とは、ヒロオカトモエの新作『月桂樹の葉の音』に登場する青年の愛称だ。

 作中では名前が明かされず、ただ「彼」とだけ呼ばれている。

 月桂樹の葉を栞にする知的な青年であり、一途に妻を愛し続ける理想の夫。

 その姿に憧れた未婚女性達が、いつしか彼を月桂樹――ローリエになぞらえて“ローリエ様”と呼ぶようになった。


「やっぱり女性は愛される幸せよね。」

「セシル様も素敵だったけど……私は、宝物のように妻を大事にするローリエ様派よ。」

「しかも、あの二人なぜ想い合ってるのに気づかないの!?」

「だって、あんなに愛されるのよ?」

「でも、そこが奥ゆかしいわ。」


 女性だけの社交場や読書会では、やたらと派手な装飾の本を持つ貴族女性を見かけるようになった。


 今日、招かれたのは母の知人が開催した読書会。ホストの夫人があの本を開き、朗読を始める。


『今日は冷えるので上着をどうぞ。』


『いつものように彼女の世話を焼く。

 当たり前のように、彼女の長い髪を梳く。』


『彼女は彼が梳かした髪を誰かに触れられたくなくて、いつも髪を下ろすようになった。』


 令嬢達が一斉にため息を吐く。


「はぁ~――。」

「ローリエ様……。」

「結婚するなら絶対ああいう殿方がいいわ。」


 その言葉に何人もの令嬢が深く頷いた。

 最近では月桂樹の葉を栞にするのが若い女性達の流行になっているらしい。


(三次元ローリエ様が話している内容は『ツーどくん・ツーユーちゃん・フォーちゃん』だけどね。)


 私は、そっと紅茶を飲んだ。



 久しぶりに孤児院によると、シスター達が駆け寄ってきた。


「栞が……栞の納品が間に合いません!」


 トモエから作品を読ませてもらった時に、これはシュシュに続く、マグノリア教会孤児院の収入にちょうど良いと思った。子供達の工作で楽しめる遊び的感覚だったのに……。


「月桂樹の葉が足りないんです!」

「庭の木では追いつきません!」

「昨日も貴族のご令嬢が三十枚まとめて買っていかれて……!」


(なぜ、こうなった?!)


 イマジナリーテオドアが呆れた顔をしている。


『せっかく作業を分散化したのに……。』


(ローリエ様、要素ない!!)


『孤児院の子供達に無理をさせたら意味がない。』


(……おっしゃる通りです。)



 翌日、王立学園に行くと扉を開けたと同時に音が響いた。


 ガタン!

 教室に入った瞬間、聞き慣れない騒ぎが耳に飛び込んできた。


「おまえ、女みたいな顔だけじゃなくて、女みたいな物持ってるのかよ!」


 見れば、床にはテオドアが尻もちをついていた。

 テオドアの周りには、以前、テオドアに絡んできた男子生徒達がいた。

 生徒の手には月桂樹の葉の栞があった。


「ちょ……」


「何をなさっているのです!」


 私が止めようとした瞬間、先に声をあげたのはマーガレットだった。


 公爵令嬢に睨まれた生徒達はうつ向く。


「テオドア様を馬鹿にするのは許しません!」


 マーガレットは手を差し出し、無言で栞を受け取る。

 そして、そのままテオドアへ返した。


「テオドア様……これ。」


 月桂樹の葉の栞を見て、不安そうな表情をするマーガレット。


「い……妹様に借りましたの?」


「いや、僕のだ。」


 その答えに分かりやすく、落ち込むマーガレット。


「これさー、剣術大会で君が僕に送ってくれた物なんだ。覚えてないよね?」


 今度はテオドアの方が落ち込む。


「剣術大会で月桂樹を贈ったことはありますわ!」


 手をポンと叩く。


「でも、あの時の優勝者がテオドア様でしたの?てっきり女の子かと……。」


「それって、僕が小柄だったからだよね……?そうだよね……?」


「……。そ、そうですわ!」


 見つめ合い、無言になる二人。

 マーガレットが心配そうに顔を覗き込む。


「なんでもない!……少し傷ついただけ。」


「テオドア様……。」


「これは、君がくれた物だから大事にしてる。」


「!?」


 マーガレットだけ顔を真っ赤にする。

 周りの生徒の視線は『お前ら付き合ってないのかよ』という雰囲気。


 きっかけは月桂樹の葉の栞だった。


 そして――。

 誰も予想していなかった事態が起きた。

 騎士爵次男テオドアと公爵令嬢マーガレットが結ばれたのである。

 

 テオドアが「返事はいらない」と前置きした上で、自分の気持ちを打ち明けた。


「マーガレット・ハーデン様。剣術大会少年の部で、あなたにこの月桂樹を頂いた時からお慕いしていました。」 


 マーガレットもまた、自分の想いを口にしたこと。


「テオドア・ブラスト様。あなたの前では、私は自然な私でいられます。私もお慕いしています。」


 ただ、それだけ。

 それだけだったのに――。


「聞いた?」

「聞いたわ。」

「騎士爵次男と公爵令嬢が結ばれたんですって!」


 王都の女性達が騒ぎ始めた。


「きっかけは月桂樹の葉の栞だそうよ!」

「まるでローリエ様みたいですわね。」

「ご利益あるのかしら……。」


 誰が言い出したのかは分からない。

 だが、いつの間にか。


『月桂樹の葉の栞を持つと恋が叶う』


 そんな噂が広まっていた。


(あの二人が両想いだっただけよ。『月桂樹の葉の音』みたいに。)


 しかし、世間はそう思わなかった。



「増刷するなら、今でしょ!!」


 ランドン商会に入った瞬間、ガブリエルが叫んだ。


「増刷?」


「今すぐです!ビッグウェーブが来てます、来てますよ!」


 机を叩く。


「これが商機です!」


(正気を失っているのはガブリエル、あなたよ……。)


「落ち着いて。」


「落ち着いていられますか!」


 ガブリエルは興奮した様子で資料を広げた。


「女性読者はもちろん!」


 バン。


「恋愛成就のお守り需要!」


 バン。


「さらに男性読者が増えています!」


「男性?」


「そうです!女性の花園と言われた恋愛小説を男性貴族達が買い始めたのです!」


 ガブリエルは満面の笑みを浮かべる。


「平民同然の立場から公爵令嬢と結ばれた!」

「これは弱小貴族男性達の夢、すなわちドリームです!!」


(夢って……玉の輿に乗りたいだけでしょ?)


「ローリエ様の栞付き特装版を出します!」


「孤児院には優先的に卸して頂きます!私達はビジネスパートナーですから!」


「そうなの?」


「もう予約で完売しました。」


「早いわね!?」



 マグノリア教会孤児院には、ランドン商会から大量の注文が舞い込んだ。

 王都では月桂樹の葉が不足し、庭から月桂樹の葉が盗まれるという事件が連日の話題になった。


 恋愛小説に興味のなかった男性達まで『月桂樹の葉の音』を読み始めた。


「俺ならもっと早く告白するけどな。」


 そう言いながら続きを借りる男性。


「別に気になっている訳じゃない。」


 そう言いながら新刊発売日に並ぶ男性。


「ローリエ様は真の愛妻家だ。」


 そう言いながらローリエスタイルを真似する男性。


(全員夢中になってるじゃない。)


 王都中がローリエ様に夢中になっている頃。


「ツーどくんの限定品は二人の物だからね。」

「そうですわ。私達、恋人なんですもの。」


 三次元ローリエ様は、今日も平常運転だった。

 あとがき


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 作中で話題になっていた『月桂樹の葉の音 ~告げられなかった恋の行方~』は実際に短編として公開しています。

 本編とは異なる設定のテオドアとマーガレットの物語です。気になる方はぜひ読んでみてください。


 「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

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