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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第60話 王立学園に忍び寄る集団セシル&ネージュ

 トモエの書いた『雪の花 桜のかほり』は大ヒットだった。


 フォレスト国では増刷。ブリーズ王国では上演が決定。さらには――。


「聖地巡礼?」


 私は朝食を食べながら新聞を見る。


「はい。」


 執事クルードが頷く。


「セシル卿と夫人が出会った場所や、留学時代を過ごした学園を巡る旅行が人気だそうです。」


(観光資源になってる……。)


 その人気は国内に留まらないようで、どうやらブリーズ王国でも大人気らしい。


「うどんの売上も伸びているとか。」


「なぜ?」


「ブリーズ王国の名産品だからでは?セシル卿が毎日食べていると誰かが言ったとか言わないとか……。」


(実際のセシル様はうどん研究家に近いんだけど……。)


「そんな理由で?」


「そんな理由です。」


(実写セシル様なんて見たら、どうなることやら……。)



 季節は流れ、春は終わっていた。

 桜の花びらはすでに散り、新緑の葉桜が学園を彩っている。


 しかし――。集団セシル&ネージュには関係ない。


「ねぇ。」

「なんだい?」

「卒業しても一緒よね?」

「もちろんだ。」


 葉桜の下。

 男女が見つめ合う。


(嫌な予感がする。やめてよ、やめてよ……。)

 私は足を速めた。


「君を愛している。」

「私も。」

 チュッ。


(遅かったーっ!!)


 校内でキスした。

 堂々とした。

 しかも周囲の生徒達は。


「いいなぁ。私も婚約者欲しい。」

「葉桜も桜には変わらないよね。」


 などと語り合っている。


(なんで?!あなた達、貴族でしょ!?)



 その日の昼休み。


「ルフェラン侯爵令嬢。」


 職員が現れた。


「学園長がお呼びです。」


 嫌な予感しかしない。



 黒を基調とされた学園長室。

 ノックをして入る。


「失礼します。」


「来ましたね。1-Aエリカ・ルフェラン。」


 学園長は机の前で腕組みをして立っていた。

 学園長を見るのは入学式以来だったが、近くで見る学園長は思ってた以上に若かった。お父様と同世代くらいで、ドレアス教授と並んだらドレアス教授を学園長と思うだろう。


 顔色が悪い。

 目の下に隈がある。

 

「大丈夫ですか?」


「これが、大丈夫に見えますか?」


「見えませんね。」


 学園長はゆっくり顔を上げる。


「生徒の親御さん方から苦情が届いているんですよ。」


「……。」


「王立学園は恋愛劇場なのですか、と。」


「……。」


「我が子が毎日葉桜の下をうろついているのですが、と。」


「……。」


「校内で抱擁する生徒を見かけました、と。」


「……。」


「接吻も増えましたね。接吻ですよ、接吻!」


「それは大変ですね。」


 前世で保育士をしていた。

 保護者対応の大変さは知っている。


「本当に大変ですね。」


「分かってくれますか?先生達なんか、我々は教鞭を取る身、生徒の交際は管轄外とか言うんですよ?私、こんなに頑張っているのに……酷くないですか?」


 学園長の目が少し潤む。


「保護者対応は胃が痛くなりますよね。」


「そーーーなんですよ!!」


「理不尽なことも言われますし。」


「分かりますか?」


「頑張ってください。」


「ありがとうございます。」


 私は立ち上がった。


「では失礼します。」


「待ちなさーい!」


 学園長が机から身を乗り出した。


「どこへ行くのです?」


「教室へ帰ろうかと……。」


「あなたが原因でしょう!!」


 学園長の叫びが室内に響いた。


「私!?」


「君以外に誰がいる!」


 学園長は机を叩く。


「『雪の花 桜のかほり』が流行してからですよ、我が校にこんな苦情が出始めたのは……!」


「私が関係しているのは隣国の客人のエスコートだけです。」


「だったら、脚本家を呼びなさい!!」


「ひどい責任転嫁ですよ!」


「責任転嫁ではありません!」


 学園長は両手で頭を抱える。


「葉桜の下で接吻する生徒なんて、去年はいませんでしたよ!」


「まあ、見えない所ではしていたでしょうね。」


「エリカ・ルフェラン!!」



 後日、トモエにその話をする。


「いやー売れたよねー。劇中作品っていう広告効果もあったけど、ここまでとは思わなかった。」


「学園長が泣いてたよ。」


「へぇ。」


「へぇって……。」


「そんなの、すぐ収まるから。永遠に続くブームなんてないのよ。」


「ブーム終わる前に学園長が終わっちゃいそうだったよ?」


「そっかー。」


「うん、そう……じゃないわ!学園長が気の毒よ。」


「プラスに考えれば、王立学園の知名度も上がるじゃない?」


「トモエは教育現場の恐ろしさを知らないのよ。横から横に広がるママ友ネット。学園長は今、双方から叩かれている状態よ?」


トモエはしばらく考える。


「効果があるかは分からないけど、“焦れ愛”書いてみようか?」


「“焦れ愛”?」


トモエは人差し指を立てる。


「一、両想いなのに付き合わない。」

「二、好きなのに告白しない。」

「三、周囲だけが気付いてる。」


「結果、接吻は減る!」


 私は想像してみた。


「代わりに生徒が葉桜の下で見つめ合うようになるだけじゃない。」


「いいじゃない、それも青春。」


「教育現場を何だと思ってるのよ。」


トモエはケラケラ笑った。


(この人、絶対反省してないわ。)



「いやー、僕は実にラッキーだ!ヒロオカトモエ先生のような方とお知り合いになれて……。」


 半目でガブリエルを見るトモエ。


(うんうん、胡散臭いよね。)


「これを出版する場合、貴族の女性向けのブティックから売り出して欲しいの。カバーも高級な感じで、限定100冊ね。100冊売り切ったら、販売方法は任せます。」


 この話を聞いた時、私は意味が分からなかった。今、売れている『雪の花 桜のかほり』の作者の本なら売れるのに、なぜ、そんなことをするのかが……。


「なるほど、気づいていましたか?お若いのに聡明だ。」


 前世アラフォーのトモエも、今は14歳になった少女だ。そう言われても仕方がない。


「『雪の花 桜のかほり』が売れたのは、ランドンさんが食いついた理由と一緒。知名度があったから。実際、本を持ってる人で私の名前を認識してる人は少ないわ。」


 トモエの考えでは、作品層に合わせた場所に、対象者が手に取りたくなる構造を作るのがポイントらしい。元ゲーム会社OLが言うには作品が良くても、手に取ってもらわないと進まないらしい。


「物書きだけではなく、分析も出来るなんて……ぜひランドン商会に欲しい人材だ。」


 トモエは悪そうな顔をする。


「スタール男爵家にお世話になる予定がないなら、やってみたら?」


 ガブリエルが一瞬だけ固まった。


(あ、今の本気だ。)


 トモエは満面の笑みで紅茶を飲む。


(トモエ、やっぱり【恋蜜こいみつ】の作者だわ……。)


 ガブリエルを見送った後、私はこっそり聞いた。


(ネタバレを聞けるのは友人特権だもの。)


「“焦れ愛”って誰をモデルにするの?」


 トモエがニヤリと笑う。


「テオドアとマーガレット。二人の本来の設定を描くわ。」


「ちょっと、許可は?」


「取るわけないじゃない。今の世界の二人はただのオタクカップル。私が描くのは公爵令嬢と平民の恋。」


(先日のあの二人の様子を思い出す……ツーどくんとツーユーちゃんとフォーちゃんに夢中になる男女。)


「確かに、“焦れ愛”には遠い。」


「でしょ?だから本来の恋蜜の二人の設定を書くの。」


 両想いなのに告白しない。

 好きなのに伝えられない。

 見ている方が『早く付き合え!』って叫びたくなる恋。


「面倒くさいわね……。」


「だから売れるのよ。」


 トモエは悪そうに笑った。


(この人、やっぱり【恋蜜こいみつ】の作者だわ……。)

 あとがき


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


『雪の花 桜のかほり』が大ヒットした結果、最も被害を受けた人物が学園長です。

 次回はトモエ先生による新作のお話。 本来の【恋蜜】で描かれるはずだった、テオドアとマーガレットの焦れ愛編が始まります。

 果たして、学園長の胃に平和は戻るのでしょうか。


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