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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第58話 雪の花 桜のかほり

「来たな、セシル・バーンド……。」


 外交目的を初手で忘れているアイゼン王太子。


「バーンド卿、夫人。ご結婚おめでとうございます。」


 私がそう言うと、セシル様は照れくさそうに笑った。隣で腕を組む夫人――ネージュ様も幸せそうに微笑んでいる。


「アイゼン殿下とエリカ様とは、勝手ながら友人と思わせて頂いております。今まで通りセシルとお呼びください。」


「それでは、私もネージュと。もうブリーズ王国の王女ではありませんので。」


「ネージュ様……。」


 本当に嬉しそうだった。セシル様を見る目が柔らかい。セシル様もネージュを見る度に表情が緩む。

 長年の片想いを実らせた夫婦である。見ているこっちが照れるくらい仲が良い。


「……。」


その光景を見たアイゼン王太子が、小さく息を吐く。


「……なるほど。」


「どうしました?」


 私が聞くと、アイゼン王太子は頷いた。


「本当に既婚者だったんだな、セシル・バーンドは。」


「結婚式参列されましたよね!?」


「あの時は素数を数えていた。」


(人の結婚式で素数を数える王子って……。)


「だが今、確信した。」


 アイゼン王太子は満足そうだった。


「セシル・バーンドは安全だ。保証する。」


「ありがとうございます……?」


 なぜかセシル様がお礼を言った。


 ブリーズ王国王女夫妻の王都観光は驚くほど平和だった。


「こちらが王立博物館だ。我が国の建国の歴史や重要文化財も展示している。王家所蔵の古書はここでしか読めないぞ。」


 案内役を務めるアイゼン王太子は、珍しく真面目だった。


「素晴らしいですね。この国の歴史が一つに集まっているみたいだ。」


 セシル様は純粋に感心した様子で頷く。


「ネージュ、学園時代に校外授業で行った遺跡について書かれていますよ。」


「あら。この時、セシルったら迷子の子供を見つけて……。」


 二人は自然に手を繋いで歩いていく。

 その姿を見ながら、アイゼン王太子は小さく息を吐いた。


「バーンド卿も悪い奴ではないようだ。」


(どこから目線なの……。)

 


 昼食は、フォレスト名物の米料理が並ぶ。


「美味しい。米ってこういう食べ方もあるんですね。」


 ネージュが笑顔になる。


「米は奥深い食べ物なのですよ。」


 アイゼン王太子も少し嬉しそうだった。

 

「こちらも負けられませんね。ブリーズ王国に戻ったら、うどんの可能性を広げて見たくなりました。」


(セシル様は相変わらず志が高い人だ。)


「本当に、素晴らしい国です。」


 その言葉にアイゼン王太子は満足そうに頷いた。


「そうだろう、そうだろう。」


 自国が誉められて機嫌が良いアイゼン王太子。その後ろで影達がコソコソしている。


「平和ですね。」

「ちくしょう。」


 チャリン。

 小銭の音がしたが、私は聞かなかったことにした。



 夕方、王立劇場。

 メインイベントの二人を題材にしたメモリプレイ。

 本日の観客はセシル様、ネージュ様、アイゼン王太子、そして私の四人だけ。


 特別公演『雪の花 桜のかほり』。


 幕が上がる――。


 雪の王国で身分差のある少年と少女の出会い。

 舞台の中央では、白いドレスを着た少女が胸を張って歩いていた。頭には小さな飾り。


「……あれ、私?!」


 ネージュが小さく笑った。


「そうですね。あなたは子供の頃、いつもカチューシャをしていましたね。」


 セシル様も懐かしそうに目を細める。


「これはカチューシャではないの、」


「「ティアラよ!」」


「恥ずかしいわ。あの時はそう思っていたのよ。」


 和やかな時間が物語と共に流れる。

 しかし、終盤へ進むと二人の表情が曇る。

 王立学園で愛を育み、卒業間近の頃、身分の壁によって引き裂かれる二人。

 許されない恋に抗うように、舞台上の役者達が抱き合う。

 桜の花びらが粉雪のように舞う。 春の香りだけが、二人の思い出を包み込んでいた。


「……っ。」


 ネージュの肩が震えた。 頬を涙が伝う。


「ネージュ……。」


 セシル様がそっと手を握る。


「ごめんなさい……。」


「謝らないでください。私も同じ気持ちです。」


 ネージュは小さく首を振った。


「違うの……。」


「え?」


「悲しいからじゃないの……。」


 涙を拭いながら、ネージュは舞台を見つめる。


「あの頃の私達は、終わりしか見えなかったでしょう?」


「……ええ。」


「それでも、私はセシルを好きになったことを後悔したことはないの。」


「ネージュ……。」


「だから今が幸せなの。」


 セシル様は何も言わず、握る手に少しだけ力を込めた。


「……ネージュが王女であっても諦められなかった。この手に触れることを許されるのが何よりも嬉しい。」


 あの頃の二人は、本当に結ばれる未来を信じられなかった。このまま永遠に忘れられない思いと生きていくのだと思っていた。


 しかし、そこへ現れた愛の女神ツーユー。


 女神ツーユーのもたらした奇跡。

 二人は永遠の約束を交わす。

 春風の中で強く結ばれる二人。


 幕が下りた。

 劇場は静まり返る。

 

 誰も言葉を発さなかった。

 最初に立ち上がったのはセシル様だった。

 大きな拍手をする。

 続いてネージュも立ち上がる。


「素晴らしい……。」


「本当に、素晴らしい。」


 二人は涙を浮かべながら拍手を続けた。

 観客四人しかいないのに、スタンディングオベーションになる。

 

「エリカ様!ありがとうございます!」


 二人がこちらへ駆け寄る。


「えっ?」


 次の瞬間、ギュッとセシル様とネージュに抱き締められた。


「こんな素敵な贈り物はありません!」


「一生忘れません!」


「ちょっ――苦しいです。」


 そして、劇場に怒号が響いた。


「セシル・バーンド!!」


 全員が振り返る。

 アイゼン王太子だった。


「貴様、今すぐ国から出ていけ!!お前は未来永劫、この地を踏むことを許さん!」


「なぜです!?」


 思わず、セシル様が素で聞き返す。


(免疫ない人の反応を久しぶりに見る。)


「妻がいるだろう!!」


「いますよ!?」


「貴様を許した私が馬鹿だった!」


「何の話ですか!?」


 アイゼン王太子の後方で影の一人がガッツポーズをする。


「よし。」


 影の一人がもう一人の影に向かって手を差し出した。


「悪いな。いただくぜ。」

「くそ……。抱擁オチかよ。」


 別の影が銀貨を渡す。


「結局セシル様オチじゃねぇか!」

「だから単勝セシルって言っただろ?」


 チャリン。

 チャリン。

 チャリン。

 小銭が次々に移動する。


「エリカ様がいるところで殿下は正気を失くすって分かっていたぜ。」

「倍率は三倍かー。単勝狙えばよかったのにな……。」

「いや、セシル様は安すぎる。」

「鉄板だからな。」

「最近はランドン様の方が配当が良いからな。」


 私は頭を抱えた。


(この人達、本当に賭けてたの!?)


 フォレスト王国の未来が少し心配になった。


 あとがき


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 

 誰だよ、アイゼン王太子の同行許可したやつ。

 私だよ!!!!!!


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