閑話 ~アイゼン愛憎劇場、再放送のお時間です~
※閑話です。
「なに!? テオドア・ブラストがルフェラン家に!」
影の報告に、アイゼン王太子は勢いよく立ち上がった。
(国務に時間を割いていたばかりに油断した……。)
ブラスト――。その姓には聞き覚えがある。
『私、あの騎士様みたいな殿方に憧れておりまして……』
エリカがそう語っていた日のことを思い出す。
当時は深く考えていなかった。だが、後になって調べた。あの近衛騎士の名は――アルフレッド・ブラスト。ブラスト騎士爵家の長男。
そして……テオドア・ブラストの実兄。
アイゼン王太子はゆっくり天井を見上げた。
(待てよ。エリカの理想の騎士がアルフレッド。その弟がテオドア……。今、そのテオドアがルフェラン家にいる。つまりブラスト家は兄弟で――)
「殿下?」
「ブラスト家は私を挟み撃ちにする気だ!」
「殿下。」
「兄で理想を植え付け、弟で距離を詰める。」
「殿下。」
「なんという計画性……。」
「殿下。」
「卑劣な奴らめ。私の弱みに漬け込むとは……。」
「殿下!! 悪い癖が出ています!!」
「すまない……取り乱した。」
影は静かに目を閉じた。
(また始まった……アイゼン王太子は我々が使えるにふさわしい君主になる器がある。しかし、ルフェラン侯爵令嬢が絡むと急に思考が思春期拗らせた青年化してしまう。)
「それで、テオドア・ブラストは何をしている?」
「ルフェラン侯爵令嬢と孤児院運営の相談を。」
「二人きりか?」
「ガブリエル・ランドンもおります。」
「ランドンまでいるのか!?」
「殿下。」
「なんてことだ……包囲網が完成しているではないか。」
「今すぐ、ルフェラン家に向かう!」
国政に関する判断は信頼できる、軍事も外交も問題ない、なのに……本当に恋愛だけ壊滅的である。やはり、天は二物を与えずということか。世の中の平等がこんな形とは。
「殿下、外務省より伝令です。ブリーズ王国の王女夫妻の新婚旅行先が我が国になるようです。」
「なに?! セシル・バーンドまで来るのか。」
「はい。」
「まずい……。」
「え?何が……でしょうか?」
「包囲網が国際規模になった!」
「殿下……。」
「なんだ?」
「セシル・バーンド卿は既婚者です。」
「……。」
「……。」
「それがどうした?」
「あ……ご存じでしたか。」
(恋愛に関してだけは、敵味方の判別能力が著しく低下するらしい。)
◇
王家の影がいきなり我が家に押しかけてきたから、何事かと思った。
しかし、話を聞けば聞くほど意味が分からない。
『私、あの騎士様みたいな殿方に憧れておりまして……』
(アルフレッドさん……?誰だったかしら。テオドアに妹さんがいるのは聞いた気がするけど……。)
……そもそも、そんなこと言ったかしら?言った気もするけど……。というか、あれは婚約者候補から外れるための苦し紛れの言い訳だったはずだ。
「お嬢様?」
「ターニャ。私、昔どんな男性が好みか聞かれたことあった?」
「ございますね。」
「なんて答えたか覚えてる?」
「近衛騎士様のような殿方に憧れる、と。」
「あ、本当に言ってたんだ……。」
私は頭を抱えた。
(まさか、あの時の発言がまだ効いているなんて……。)
「お嬢様?」
「なに?」
「殿下の恋愛妄想劇場が始まると長いので、お茶を用意しましょうか。」
「再放送扱いなの!?」
「最近は影の方々も慣れてきたそうです。」
「慣れないでほしいんだけど!?」
「ちなみに、セシル・バーンド様で三回、ガブリエル・ランドン様で二回、今回はテオドア様ですので六回目になります。」
(ハーフクール終わってるじゃない。)
「数えてたの!?」
「影の方々の間では定例行事だそうです。」
「黒歴史になるからやめてあげて!?」
「ちなみに次回予告候補はランドン様のオッズが高いです。」
「そこで賭けしないで!?」
「お嬢様、ご安心ください。」
「何が!?」
「私はセシル・バーンド様単勝です。」
「まだ諦めてなかったの!?」
「推しは推せる時に推すものです。」
「競馬じゃないんだから!」
「セシル様は既婚者ですので倍率も高くなっております。」
「賭けの分析までしてる!?」
(これでいいのか、フォレスト国……。)
あとがき
アイゼン王太子は優秀です。
本当に優秀なんです。
本当に本当、優……
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