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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

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第52話 腹黒王太子と腹黒商人は会話が噛み合わない

 翌日、女生徒として再び学園へ現れたパメラは、“パム・プリュネル”と名乗りB組へ編入した。

 無造作だった黒髪は整えられ、女子制服へ身を包んだ姿は、昨日まで男装していたとは思えないほど自然だった。

 たった数時間しかいなかった男子生徒の存在など、誰も覚えていない――そう思っていた。

 一人を除いては……。

 ガブリエル・ランドン。ランドン商会次期当主。そして未来では、双子の弟アンソニー・フォレストの婚約者フローラの父親になる人物。


(……早く気付くべきだった。)


 未来で、ルナエクリプスのリーダーの娘を妻に迎える男だ。

 パメラの存在に気付かないはずがない。



 昼食を食べに食堂へ向かっていた私は、ふと視線を感じた。


「あの方、今日は女生徒として来ているんですね。」


 穏やかな声だった。

 振り向くと、ダークグリーンの髪をした男子生徒がこちらを見ていた。柔らかそうな雰囲気。人当たりの良い顔。けれど、そのエメラルドグリーンの瞳だけは妙に鋭い。


 ガブリエル・ランドン。


 彼は興味深そうにBクラスの方角を眺めながら、何故か私へ話しかけてきていた。


「さ、さぁ……? 私、別のクラスだから分からないわ。」


 私は視線を逸らす。

 するとガブリエルは、にこりと微笑んだ。


「昨日、ご一緒にいらっしゃったのに?」


「…………。」


「エリカ・ルフェラン侯爵令嬢。」


 逃げ道を塞ぐように、静かに名前を呼ばれる。


(うわ、笑顔が胡散臭い。)


 ウラノスが“王家の影”なら、こっちは“情報で人を追い込むタイプ”だ。

 ガブリエルは続ける。


「昨日、彼――いえ、彼女が保健室へ向かった後、教室から姿を消したのは貴女ですよね。」


「よく見てるわね……。」


「仕事柄、人の顔を覚えるの得意なんです。」


 にこやかに返してくる。

 柔らかい笑顔なのに、全然誤魔化せる気がしない。


(この年齢でもう情報屋気質なの何なの!?)


「安心してください。」


 ガブリエルは小さく肩を竦め、話し声を絞る。


「別に、秘密を暴きたい訳ではありません。」


「……なら、なぜ聞くの?」


「仲良くなりたいのです。経済界の時の人、エリカ・ルフェラン様と……。」


 即答だった。


「彼女が男装してまで学園へ潜り込む理由。貴女がそこまで守ろうとする理由に興味はありません。」


 そこで一度言葉を切る。


「僕が興味があることは、ただひとつ。ビジネスだ!」


 私は思わず目を細めた。


(あ、これ。アイゼン王太子と同じ腹黒タイプじゃない?)


 その時だった。


「エリカ。」


 聞き慣れた声が響く。

 振り返ると、アイゼン王太子が強ばった笑顔で立っていた。


「食堂に来ないから迎えに来たよ。こちらの生徒は?」


 ガブリエルが目を細めた。


「これはこれは、帝国の偉大なる太陽にご挨拶申し上げます。」


 ガブリエルはさり気なく私の前へ立ち、頭を垂れる。

 アイゼン王太子が完全に警戒モードに入る。


「君はランドン卿の……。」


「ご挨拶が送れました。ガブリエル・ランドンと申します。」


 ガブリエルは笑みを崩さない。


「ランドン卿。君が私のエリカ何か用かな?」


(私、いつからアイゼン王太子の物になったんですか……。)


 私は、アイゼン王太子を睨み付ける。


「エリカ様とは、仲良くなりたいと話しておりまして。」


 もちろん、“ビジネス上”である。

 しかし、その言葉に反応するアイゼン。


「――かつて、銀髪の気に入らない男がいてな。」


 アイゼン王太子は微笑む。


「彼が今どうなったか、知っているか?」


(銀髪の気に入らない男?セシル様?)


「今は北国から出て来れないよう永遠に縛りつけてやったのだ。」


(セシル様……元からブリーズ王国出身だし、“永遠に縛りつけた”って王女との婚約を進言しただけじゃない。)


 アイゼン王太子は、ガブリエルを真っ直ぐ見据える。


「ランドン卿。商売相手は選んだ方が良い。」


 その言葉に、ガブリエルは口元へ笑みを浮かべた。


「ご忠告ありがとうございます、殿下。」


 エメラルドグリーンの瞳が細められる。


「ですが、私は商人です。大きな障害がある商談ほど、燃える性分でして。」


(あ、ガブリエル完全に“商売の牽制”だと思ってる。)


「……卿は、熱い場所が好みか?」


アイゼン王太子も笑みを崩さない。


「覚えておこう。」


(いや、アイゼン王太子は“恋愛の牽制”してるんだけど。)


 どうやら二人とも、微妙に会話が噛み合っていないらしい。お互いに“宣戦布告された”とは思っているようだった。


(……腹黒同士が会話すると、拗れるのね。)


「今日のところは失礼します。エリカ様、また後日……。」


 そう言って会釈するガブリエル。


「……明日が来なくしてやろうか。」


 アイゼン王太子がボソッと呟く。


(ちょっと、発言が物騒過ぎる!)


「ほら、アイゼン。食堂に行きますよ。」


 私はアイゼン王太子のブレザーの裾を軽く引っ張る。その手を繋ぎ直すアイゼン王太子。


(恥ずかしい、完全にバカップルだ……。)


 食堂に行くと行列が出来ていた。

 ランチタイムが始まって、もう結構時間が立つのに、食事が出来ていない生徒や教師の列だった。


「エリカ、安心しろ。昼食は用意している。」


 そう言って席に案内されると、そこだけ晩餐会のような食事が用意されていた。


「影からの情報でな、最近、食堂の料理人が不調らしい。」


 そう言いながら完璧なテーブルマナーで食事を始めるアイゼン王太子。


(味がしない……みんなが空腹の中、周囲の視線が痛すぎる。)


 その時だった。厨房から料理人が出来てきた。


「ルフェラン侯爵令嬢エリカ様とお見受けします。」


 コック帽を外し、挨拶をした。


「ルフェラン侯爵令嬢様!どうか、うちの料理長を助けて下さい!」


あとがき


ガブリエル・ランドン、登場回でした!

なお、アイゼン王太子は「恋愛牽制」、 ガブリエルは「商売牽制」だと思って会話しています。

つまり、盛大なすれ違いコントです。

そして次回、学園食堂編(?)突入です。


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