表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》親世代~親の顔、お見せします~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/79

第49話 王太子とその彼女は絆をご所望です

 春の訪れと共に、王立学園の入学式の日がやって来た。

 王都へ続く街道には、真新しい制服へ袖を通した学生達の姿が見える。貴族達の馬車も次々と王都へ向かっていた。

 王都の隣に位置するルフェラン領出身の私は、寮ではなく自宅通学を選んでいる。


(まあ、毎日通える距離って便利。)


 そう思いながら屋敷の前へ出た、その時だった。

 見慣れた王家の紋章入りの馬車が、当然のように停まっていた。


(……嫌な予感。)


 扉が開く。

 中から現れたのは、王立学園の制服に身を包んだアイゼン王太子だった。

 長い脚で馬車から降り立つ姿は、朝日まで味方につけたみたいに無駄に絵になる。


「おはようございます、殿下。」


「おはよう、エリカ。」


(なに、この無駄なさわやかさ……。)


 アイゼン王太子は当然のように手を差し出す。


「婚約者と一緒に登校するのは当然だろう。」


「……はい?」


 本気で意味が分からなかった。


「いつ婚約しました?プロポーズもされてません。」


 私は即答した。

 すると、アイゼン王太子の眉がぴくりと動く。


「くっ、また弄んだのか!?桜餅の次はさくら大根で……。」


「人聞きの悪いことを言わないでください!」


 何故この人は恋愛関係だけ、急に被害者みたいな顔をするのだろう。


「……じゃあ、恋人はどうですか?」


 私が提案すると、アイゼン王太子は腕を組み、露骨に不満そうな顔をした。


「桜餅とさくら大根を食べた仲なのに……納得いかん。」


(勝手に意味深な食べ物にしないで。)


 すると、アイゼン王太子は少し考えるように目を細める。


「……“アイゼン”と呼ぶなら、恋人で我慢してやろう。」


「どこから目線なんですか。」


「これでも譲歩している。」


「……すごく偉そう。」


「実際、偉いんだ。」


 私が呆れると、アイゼン王太子は小さく鼻を鳴らした。


「そもそも、君はいつまで“殿下”呼びなんだ。」


「だって王太子ですし。」


「こういう時だけ王太子か。」


 そんな不毛なやり取りをしていると、周囲の学生達がざわつき始めた。


「えっ……。」

「アイゼン王太子?」

「隣ってルフェラン侯爵令嬢!?」

「婚約者って本当だったの!?」


(あぁぁぁ、目立ってる……!)


 だが、アイゼン王太子はどこ吹く風だった。むしろ少し機嫌が良さそうですらある。


「行くぞ、エリカ。」


 いつものように差し出された手。私は少しだけ迷ったが――結局、その手を取った。

 春風が吹く。王立学園。前世では乙女ゲーム『人の恋は蜜の味』の舞台だった場所。けれど今は、私自身が歩く現実だった。


(……平和な学園生活が送れますように。)


 王立学園の正門を抜けると、すでに大勢の新入生達が中央掲示板の前へ集まっていた。


「どのクラス?」

「私はBクラス!」

「うそ、別々だ……!」


 悲鳴と歓声が入り混じる。


(あぁ、学生っぽい……。)


 前世でも、こういう光景は見たことがあった気がする。私は人混みを避けながら掲示板へ近付いた。


「ええと……。」


 ルフェラン、ルフェラン――。


「あ、あった。」


 一年Aクラス。そこに私の名前が書かれていた。

 すると隣で、アイゼン王太子が静かに呟く。


「……Aクラス?」


 妙に低い声だった。

 視線を向けると、アイゼン王太子の名前は一年Sクラス――王族・上級貴族の留学生・特待生専用の特別クラスに記載されている。


「クラス、別ですね。」


 私がそう言った瞬間だった。


「あの学園長……。」


 アイゼン王太子が、にこやかに笑った。

 だが、目が笑っていない。


「圧が足りなかったようだな。」


「やめてください。」


 私は即座に止めた。


「普通、同じクラスにするだろう?」


「そういうの職権乱用ですよ。」


 学園長が胃を痛める姿が容易に想像出来る。


「君と別クラスなど、監視出来ないじゃないか!」


「何を監視するんですか?」


「第二のセシル・バーンドだ!」


「第二!?セシル様に第一も第二もありません。」


 私は思わず声を上げた。

 周囲の学生達が、ぎょっとした様子でこちらを見る。アイゼン王太子はまるで気にしていない。


「油断すると、君はすぐ距離が近くなる。」


「そんなことありません。」


「香道。」「桜餅。」「次は何だ?」


 だが、アイゼン王太子は本気で不満そうだった。

 私は小さくため息を吐く。


「……お昼、一緒に食べましょう。」


「……。」


 ピタリ、とアイゼン王太子が止まった。


「ね、アイゼン。」


 私がそう呼ぶと、アイゼン王太子の目がわずかに見開かれる。


「昼食くらいなら、一緒に食べられますよね?」


「……仕方ないな。」


 そう言いながら、口元が完全に緩んでいた。


(分かりやすい……。)


 さっきまで不穏な空気を出していたのに、今は大型犬みたいに機嫌が良い。絶対、今心の中でしっぽ振ってる。


「では、昼休みになったら迎えに行こう。」


「はいはい。」


 私は苦笑しながら頷いた。


 アイゼン王太子と別れた足で、もう一度掲示板に向かう。生徒手帳に挟まれたメモを見ながら名前を探す。


 一人目、マーガレット・ハーデン。

 二人目、テオドア・ブラスト。

 三人目、ガブリエル・ランドン。

 四人目、パメラ・ウラノス。


 この四人は、前世シナリオライターだったトモエだからこそ知る【恋蜜こいみつ】の関係者の親になる人物だ。


 そして同時に――。アイゼンと気持ちが通じ合った今だからだろうか。ふと、“その先”を想像してしまった。


(もし、私とアイゼンの間に双子が生まれたら。)


 未来で、私達の子供の婚約者候補達の親になるかもしれない人達でもある。

 そう考えた瞬間、急に変な緊張が湧いてきた。


(いや、始まったばかりの状態なのに何考えてるの私!?)


 私は慌てて頭を振る。

 でも――。

 アイゼン王太子と気持ちが通じ合った今なら、少しだけ思う。

 【恋蜜こいみつ】では、彼らは皆、娘の親として断罪劇へ関わる立場だった。けれど今は、まだ何も始まっていない。

(……まずは、友達から。)

 友情を育んで。絆を深めて。冗談も本音も言い合える仲になる。

 もし未来がゲーム通りになってしまったら――その時は全力で土下座して許してもらおう。

 私は小さく息を吐きながら、Aクラスの扉へ向かった。


 まずは、双子の兄ルーカスの婚約者エアリス・ハーデン。彼女の両親は、マーガレット・ハーデンとテオドア・ブラストだ。

 二人の名前は……あった。同じAクラスだ。

 マーガレットは公爵令嬢。テオドアは騎士爵子息。騎士爵は一代限りの爵位。そんなテオドアがハーデン公爵家の入婿になれたのは政治的才能が秀でていたから。物語の中でもテオドアはフォレスト国の宰相だった。


 次は、双子の弟アンソニーの婚約者フローラ・ランドン。彼女の両親はあのランドン商会の後継者でガブリエル・ランドンとパメラ・ウラノス。ガブリエルはBクラスに名前があった。

 しかし、パメラは何度探しても見当たらなかった。


 まるで――最初から、この学園に存在していないみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ