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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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第47話 冬来たりなば春遠からじ

 ブリーズ王国で持ち上がった“王族婚姻案”は、想像以上に面倒な問題へ発展していた。


「両国の王族が婚姻を結べば、より強い友好関係を築ける!」


 ブリーズ王国の貴族達はそう主張する。

 確かに理屈は分かる。うどん、コタツ、ホテルバカンスによって両国の交流は急速に深まった。だからこそ、“婚姻”という形で繋がりを固定したいのだろう。


 そして何故か――。


「ルフェラン侯爵令嬢の意見も聞くべきでは?」


 ……という流れになった。


(何で、私!?)


 私は内心で叫んだ。

 するとブリーズ王国側の重臣が真面目な顔で頷く。


「現在の文化交流の中心人物はエリカ嬢です。」

「“ツーユー”も“ホテルバカンス”も彼女の発案。」

「実質、今回の友好関係の立役者です。」


(嫌な外交評価をされてる……。)


 すると、隣にいたアイゼン王太子が当然のように口を開いた。


「まあ、君にも無関係な話ではないからな。」


「……はい?」


 私が目を瞬かせる。

 アイゼン王太子は平然と続けた。


「私の婚姻問題なのだから、君にも意見する権利くらいあるだろう。」


 一瞬、周囲の空気が静まった。これは宣言しているのと変わらない。


(さらっと何を言ってるの、この人!?)


 でも――。

 アイゼン王太子とブリーズ王国の王女殿下の婚姻は違うとは思う。しかも、セシル様の想い人が王女殿下と聞いた以上、フォレスト国の別の貴族を提案するのも違う。

 悩みに悩み、私はある結論へ辿り着いた。


「……“ツーど”くんと“ツーユー”ちゃんの婚姻では駄目ですか?」


 会議室が静まり返った。


「……は?」


 アイゼン王太子が真顔になる。

 ブリーズ王国側の重臣達も、ぽかんとしていた。だが私は真剣だ。


「“ツーど”くんはリップル王国と我が国の架け橋の象徴であり、両国の新たな名産品となる米を具現化した存在です。」


 その発言にブリーズ王国側がざわめき始める。


「リップル王国との友好関係の証……。」

「あれはイクシード辺境伯嫡男であるセザール第二王子が描かれた物なのか?」


 その時、誰かが言った。


「“ツーユー”ちゃんはブリーズ王国のうどん文化の象徴だ!」

「“ツーユー”ちゃんもセザール第二王子から賞詞を賜ったものだ!」


 その言葉を聞いて、私は力説する。


「そう!つまり、この二人が結ばれるということは――文化的友好関係の完成を意味するのです!」


「……全く意味が分からん。」


 アイゼン王太子が誰にも聞こえないくらいの独り言を言った。


(私も自分で何を言ってるのか分からない。)


 だが、商人とブリーズ王国側の反応は違った。


「……この婚姻はフォレスト国だけではなく、リップル王国とも繋がりが持てるのでは?」

「文化交流記念祭としては面白い!」

「限定商品が作れるし、観光客を呼べるぞ!」


 経済が絡むと判断が早い……

 そして、リップル王国側代表としてイクシード辺境伯と共に参加していたセザールが目を輝かせた。


「結婚式やる?」


「……やりましょう。」


 こうして――。提案した自分でも意味の分からない国家規模のイベント、“ツーど”くん&“ツーユー”ちゃん国際友好人前結婚式が開催されることになった。



 結果は、大盛況だった。


「ツーど饅頭です!」

「婚姻記念うどん発売!」

「限定“ツーユーちゃん”ありますよ!」


 ブリーズ王国だけではなく、なぜか三か国の貴族達までも浮かれ盛り上がっている。


「文化的結合……素晴らしい。」

「これぞ新時代の外交!」


(国を挙げて、何をやっているのだろう。本当にそれでいいの……?)


 手足が出た顔の怖い米粒の着ぐるみと同じく手足の出た脳ミソの着ぐるみの結婚式――。

 式典服に身を包んだアイゼン王太子もチャペルに参列した。


「とんだ茶番だ。」


 式の間、完璧な王太子スマイルを張り付けたまま、毒舌が止まらなかった。



 式が終わり、用意されたフォレスト国来賓用の応接間で帰宅の準備をしていると、ノックが聞こえる。


 そこにいたのは、ブリーズ王国の王女殿下とセシル様だった。

 ソファーに大きく寄りかかり、タイを緩めたアイゼン王太子は面倒くさそうな顔をした。


「この度は私達のために、ありがとうございます。」


 二人はそういうと頭を深く下げた。


 私は、セシル様と王女殿下のためのお茶を用意する。

 テーブルの上には、謎の執着を見せるアイゼン王太子用に用意した桜餅。セシル様から頂いた緑茶。そして、セシル様の慰めになればと思い準備した桜の花の塩漬け。


「……綺麗。」


 王女殿下が、小さく息を吐くように呟いた。

 湯呑みに落とした桜の花が、ゆっくりと開いていく。

 誰も、すぐには口を開かなかった。まるで止まっていた春が、静かに戻ってくるみたいだった。


「覚えていますか。」


セシル様が、静かに笑う。


「王立学園の桜並木を。」


 王女殿下の肩が小さく揺れた。


「……忘れられる訳ないわ。」


 震える声だった。


「卒業したら終わりだと、自分に言い聞かせていました。」


「私もよ。」


 静かな沈黙。だが、二人の視線は、ずっと互いだけを見ていた。


「ですが――。」


 セシル様はゆっくりと言葉を続ける。


「私は、今でも貴女を忘れられません。」


 王女殿下が目を伏せる。


「……私も。私もあなたを愛しています。」


 感動する私と対照的に無表情で桜餅を頬張るアイゼン王太子。


(この男、本当に国が関わらないと興味持たないな……。)


 湯呑みの中では、桜が綺麗に花開いていた。



 その後、桜餅を食べ終わったアイゼン王太子は席を立つ。


「もういいか?茶番にはもう飽き飽きした。」


 アイゼン王太子はその足で、ブリーズ王国へ正式な進言を行った。


『セシル・バーンドは、これまでの功績を見ても王族配偶者として十分ふさわしい人物である』


 表向きは、極めて真面目な外交文書だった。

 だが、その真意は……


『セシル・バーンドは、とっとと王女殿下と結婚しろ。二度と巻き込むな。』


……という警告文だった。


 その結果、長年反対していたブリーズ王国側も折れることになる。



 そして数か月後――。春の訪れと共に、セシル・バーンドと王女殿下の婚約が正式発表された。


 セシル様からの近況報告の手紙に思わず笑みが溢れる。


「ねえしゃま、良いことあったの?」


 手紙の隙間から顔を覗き込むセザール。

 私は、セザールへ視線を向けた。


「“ツーど”くんと“ツーユー”ちゃん、勝手に結婚させて良かったの?」


 そもそも、あの意味不明な生物を生み出したのはセザールだ。一応、画伯の許可は必要な気がする。

 するとセザールは、ぱっと笑った。


「大丈夫!“ツーど”くんと“ツーユー”ちゃんも、みんなを笑顔にするのがお仕事だから!」


 ……良い話っぽく聞こえるのが不思議だ。


「それに。」


 セザールは得意げに胸を張った。


「私、もう次考えてる。」


「次!?」


 完全に新商品を期待している顔である。


「“ツーど”くんは、お米だからイクシード領とシャーウッド領側でしょ?」


 セザールが指を立てる。さらにもう一本指を立てる。


「“ツーユー”ちゃんはうどんでブリーズ側!」


 そして、両手をぱちんと合わせた。


「二人結婚した。」


 (なんか、嫌な予感しかしない。)


「その子供は二人の間にある国は、フォレスト!名前は――“フォー”ちゃん!」


 私の心臓が跳ねた。


(待って。)


 思考が止まる。

 米文化の“ツーど”くん。うどん文化の“ツーユー”ちゃん。その子供が――フォー?


(それ、ライスヌードル!?)


 脳内で前世知識が爆発した。

 米粉麺。澄んだスープ。香草。新しい麺文化。食文化革命の気配がする。


「三国友好の象徴だね!」


 こうして、新たな食文化革命が静かに始まろうとしていたのである。

【あとがき】


今回は、色々な文化や想いをパーツのように組み立てながら書いていました。

うどん、米、桜、香り、恋愛、そして外交。 一見バラバラなものが繋がっていく形を楽しんで頂けたら嬉しいです。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

もし「続きが気になる」と思って頂けましたら、ブックマークや評価で応援して頂けると励みになります。

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