第41話 スリーティアーズ~最後まで答えが分からない僕ら~
王宮のお茶会というものは、もっと優雅なものだと思っていた。
「……。」
私は、目の前の“スリーティアーズ”を見る。
一段目――ケーキ。二段目――あんパン。三段目――おにぎり。
(待って。上二段、両方とも甘いじゃない?)
普通、塩気と甘味のバランスとか考えない?なんで今日は糖分に全力投球なの?
「本日もお招きいただき、ありがとうございます。今日は大豆と小豆の話ですよね?」
(リアンは病み上がりなのだし……もう三人で話した方が早いとさえ、最近は思う。)
「しかし、あんパンは大人気らしいな。」
空腹だったのか、アイゼン王太子はおにぎりを食べた。
(今日のおにぎりは混ぜ込みおにぎりかー。)
「はい。特に商人達に人気です。」
「持ち運びやすく、腹持ちも良い。甘味としては価格も安いと聞く。」
「あと、パン屋さん達がすごく喜んでくれました。」
米文化が広がったことで、逆に売り上げが落ちていた店は少なくなかった。だから、あんパン人気は、米を広めた私にとっても嬉しかった。
「ブリーズ王国からも問い合わせが来ているんだ。」
アイゼン王太子が、あんパンに手を伸ばしながら言った。
(あんパンの話をしていたから、食べたかったのね。)
「小豆と大豆を輸出しているので、“あんこ”の製法を知りたいそうだ。レシピの所有権は君にあるから確認しようと思ってね。」
アイゼン王太子がこちらを見る。
「秘匿しないのか?」
「しません。」
私は即答した。
「レシピは教えます。」
「随分と思い切るな。どんな裏がある?」
「その代わり、共同開発を提案します。」
「共同開発?」
私は机の上に置かれた資料を開く。
「現在、ルフェラン領では納豆の研究を進めています。」
「……なっとう?」
「簡単に説明すれば、発酵させた豆です。」
アイゼン王太子の顔が僅かに引きつった。
その反応、正しいです。
「以前、ブラッドがペニシリン研究中に発見した菌を応用しています。」
「またブラッドか……。」
アイゼン王太子が二個目のあんパンに手を出す。
「ただ、ルフェラン領は商業地域のため、納豆生産には向きません。」
「発酵……臭いの問題か。」
「そう、臭いです。慣れれば平気ですが、人によっては永遠に受けつけない人もいると思います。」
アイゼン王太子が無言で紅茶を飲む。
「ブリーズ王国はショーユーという発酵食品もすでにありますので、発酵文化があるブリーズ王国で生産し、こちらへ輸入する形にしたいんです。」
話を聞きながら、何度も紅茶を口に運ぶアイゼン王太子。
(あんパン二個目も食べるからー……。)
「……なるほど。以前土産にもらった、あの黒い液体か。」
「はい。」
「塩味が強かった記憶がある。」
(今、その塩味欲しいんだろうな……。)
「でも、納豆と合います。」
アイゼン王太子が無言で紅茶を飲む。
(そろそろ、ティーカップ置いてあげて。後ろで侍女がポットを持ったままオロオロしているじゃない。)
「…………。」
私は静かに続けた。
「さらに、米にも合います。」
その瞬間。アイゼン王太子が静かに紅茶を置いた。侍女がすかさず、紅茶を淹れる。
「つまり。ブリーズ王国から納豆とショーユーを輸入し、こちらは米を輸出する関係を築きたいんです。」
淹れたての紅茶を飲もうとするアイゼン王太子。
「殿下、紅茶の減りが異常に早いです。」
「気のせいだ。」
絶対違う。さっきから、あんパンの甘さを紅茶で流し込んでいる。
「ですが、問題もあります。」
「臭い以外にか?」
私は真顔で頷いた。
「納豆は、見た目も人を選びます。糸も引きます。」
「…………。」
「そして……混ぜます。」
アイゼン王太子が、ゆっくり紅茶を飲み干した。
「ですので。」
私はびしっと指を立てた。
「殿下。スリーティアーズの一番上に納豆は置きませんからね。」
「そんなことを誰も言っていない。」
「“一番上の段は納豆かー”って顔に書いてあります。」
「どんな顔だ。」
いや、絶対考えた。私はもう、このポーカーフェイスの下で何を考えているのか分かる域に達している自信がある。
その時だった。
「なっとうケーキ……。」
「やめなさい。」
私は即答した。王太子殿下に向かって注意してしまった。
「……ふっ。君くらいだよ、そんなことを言うのは。」
アイゼン王太子が嬉しそうに笑う。
(危ない。王宮に食の闇が生まれるところだった。)
アイゼン王太子は、静かに追加の紅茶を要求していた。
「なかなか思うようにいかないな。」
スリーティアーズを眺めながら、アイゼン王太子は呟いた。
【あとがき】
スリーティアーズ問題。
その行方は……まだまだ続きます。
なお、“納豆ケーキ”はエリカによって阻止されました。
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