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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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第40話 消えた深層騎士

 関所が本格的に動き始めたことで、私達は久しぶりにルフェラン領へ戻ることになった。


「ねえしゃまー!!」


 馬車に乗り込んだ瞬間、セザールが抱きついてくる。


「こら、馬車で暴れないの。」


「だって、またいっしょ!」


 満面の笑み。アデルは一緒には来れないけれど、お祖父様とイクシード辺境伯領の様子を見に行くし、十五歳になったらフォレスト国の王立学園に留学するつもりらしい。私達は国を越えても繋がっている。


 使用人達もどこか浮き足立っている。長期間、シャーウッド辺境伯領に滞在していたので、久しぶりに我が領に帰れる。


「ラウルモンド、荷物は大丈夫?」


「はい。セザール様の“ツーど”くん人形だけで、木箱三つありますが。」


「宝物!」


 増えてる……。


 ルフェラン邸に到着すると、事情を知っているお父様だけは、やや遠い目をしていた。


「どうしました?」


「いや……。」


 視線の先にはイクシード辺境伯。


「また義父上との同居生活かと思うとね……。」


「婿殿、聞こえておるぞ。」


「義父上、地獄耳すぎません?」


 イクシード辺境伯は鼻を鳴らす。


「安心しろ。今回はセザールの世話がある。」


「つまり、完全同居確定なんですね……。」


 お父様の顔がさらに死んだ。


「……そういえば。」


 お父様が周囲を見回した。


「リアンはどうした?姿が見えないが……。」


 空気が止まる。


「……え?」


 言われてみれば、いない。

 護衛騎士であるリアンは、いつもどこかにいる。目立たないのに、振り返ればいる。そういう存在だから、いないと言われるまで気づかなかった。


「……いつから姿を見てない?」


 私も記憶を辿る。

 関所完成式? ポン菓子? “ツーど”くん騒動?


(……あれ?)


 本当に思い出せない。

 部屋に戻ろうとすると、屋敷に残っていたエディから呼ばれる。


「お嬢様。実は、お伝えしたいことがあります。」


 エディがこっそり私を呼んだ。


「お嬢様……リアンが、うちで寝ています。」


「えっ!?」


「先日、倒れたのです。」


 私は息を呑む。


「米作りの辺りから、ずっと具合悪そうだったのですが……。」


「病気……?再発したの?」


「分からないです。最初は疲れやすいって言ってたのが、足の痺れや、時々歩けなくなるほどの痛みを訴えていて……最近では食事を摂らない時もあります。」


 最悪の可能性が頭を過る。


(また、感染症……?)


「今日って教会の往診日よね?私、教会行ってくる!」



 私は、すぐに教会へ向かった。


「ブラッド!」


「領地に戻られたんですね。どうかしましたか?」


 白衣姿のブラッドが現れる。その後ろには、なぜかトモエもいた。


「ルナエクリプスリーダーがまた倒れたの!」


「なんだって……。疫病の薬は、ペニシリンじゃなかったのか?」


「ここでアレコレ言ってもしょうがないわよ。患者の所、行きましょ!」



 エディの家。ルフェラン家は他の貴族のような集合アパートメントではなく、コテージのように各世帯で独立した使用人の住居になっている。感染が最小限で済むのは不幸中の幸いだ。


「感染症の可能性があります。診察は私だけで。」


 ブラッドが中へ入っていく。私達は外で待つしかなかった。一緒に生活していたエディは大丈夫だろうか。


「エディ、熱は?」


「自分はないです。」


「咳は?」


「ないです。」


「食事は?」


「自分は普通に賄いとか食べていますが……リアンは粥だけです。」


「お粥だけ?」


「元々、酒ばっかり飲んでいる人で、最近は白米にハマってからは米ばっかりで……。」


(それって……。)


 嫌な予感がした。



 しばらくして。扉が開いた。

 ブラッドが出てくる。


「感染症ではありません。」


 全員が安堵した。


「……脚気です。」


 ブラッドは疲れたように額を押さえる。


「……かっけ?」


「栄養不足ですね。」


 ブラッドは淡々と説明する。


「本人の話では、白米と酒ばかり摂取していたようですね。」


 全員の視線がエディへ向いた。


「はい、そうですね……。」


「まぁ、粥だけでも食べさせていたのは正解です。」


 ブラッドがため息をつく。


「ただ、それだけでは栄養が偏る。」


 私は前世知識を思い出す。


(昔の贅沢病って言われていた病。ビタミンB1不足だった気が……。)


「そうだ、豆類……。」


「はい?」


「豆を食べさせれば改善するかも。」



 数日後。私は輸入商会に来ていた。


「大豆?」


 私は輸入商会の書類を見ていた。


「確かに、ブリーズ王国では大量生産されていますが、我が領及び我が国でも加工は……。」


「全部仕入れて。」


 商人が目を丸くする。


「ぜ、全部ですか?」


「あと、これ。」


 私は袋の中の小さな赤い豆を摘まんだ。


「これは?」


「大豆になりきれなかった豆……。」


(なんだろう、この羞恥心。私は事実を知っているから恥ずかしい。)


 あれは、大豆の話している時だった。

 残念な創造主トモエが何気なく言った。


「大豆と小豆の境界線ってどこだろう?」


「……はい?」


(大豆と小豆の境界線とは?)


「ま……まさか、大きい豆が大豆、小さい豆を小豆と思っているの?!」


 私は思わず叫ぶ。

 その反応で、トモエは自分の勘違いに気づいたらしい。

「わ……私、ケーキ派だし!」


「「……。」」


「……トモエ。そんなところも可愛いよ…。」


 ブラッドが遠い目をしながら、トモエを慰めた。



 そのやり取りがあって、今、大豆になれなかった豆、小豆を仕入れようとしている。


 商人達まで驚く。どうやらこの世界では、小豆は家畜の餌扱いらしい。


(もったいなさすぎる……!)


 残念な創造主のおかげで、大豆の購入のおまけでつけてくれた。



 その日のうちに孤児院へ向かった。


「エリカ様、これをどうするんです?」


「煮るのよ。」


「この小さい豆を?」


「砂糖入れて。」


 数時間後。


「……甘い。」


「豆なのに。」


 孤児達が目を丸くする。

 完成したのは、あんこだった。



 そして。


「パンに挟みましょう。」


 真っ先に向かったのは、教会隣のパン屋だった。孤児院を建て直した時に、フードバンクに早い段階で協力してくれた店だった。

 最近、米料理の人気でパンの売り上げが落ちているらしい。そういうパン屋に少しでも貢献できればと思っていた。


「こ、こんな黒い粒をパンに……?」


「絶対美味しいから。」


 半信半疑で作られた“あんパン”。

 結果。


「追加百個!!」

「売り切れ!?」

「もっと焼け!!」


 爆発的人気だった。



「……なんで豆がパンに入ってるのに美味いんだ?」


 パン職人が呆然としている。


「甘いから?」


「そんな理由で売れるか普通……。」


 そこへ。


「ねえしゃまー!」


 元気な声。

 振り返れば、セザールだった。


「リアン、生き返った!」


「その言い方やめなさい。」


「豆、おかわりしてた!」


 ……本当に回復しているらしい。

 少し離れた場所では、リアンがあんパンを片手に、牛乳が入っているスキットルを持ち、こちらを見ている。


(片手にあんパン、もう片方に牛乳入りスキットル。……張り込み中の刑事か。)

【あとがき】


この話のために、リアンは数話かけて意図的にフェードアウトさせていました。

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