第38話 共同関所公式キャラクター『ツーど』くん
関所完成セレモニー翌日。
私はまだ辺境伯領内にいた。――正確には、シャーウッド辺境伯家の会議室に軟禁されていた。
「――というわけで、関所周辺の発展計画についてご意見を」
淡々と進行するヘンリー・シャーウッド。
イクシード辺境伯。シャーウッド辺境伯。商会関係者。技術者。税務担当者。なぜかアイゼン王太子までいる。
(あー帰りたい……)
昨日、ヘンリーが接近してきた時点で嫌な予感はしていた。だが、まさか会議参加させられるとは思わなかった。
「ルフェラン侯爵令嬢の意見を聞きたい」
ヘンリーが真っ直ぐこちらを見た。
私は観念して口を開いた。
「関所って、人が集まる場所ですよね?」
「はい」
「なら、『買いたくなる場所』にした方がいいと思います」
全員が静かに耳を傾ける。
「買いたくなる場所?」
「客層は関所を通る人達です。関所付近だけ税を軽くして、両国の名産品を集めた店を並べるんです」
「……ほう」
シャーウッド辺境伯が顎に手を当てた。
「リップル王国側の商品も?」
「はい。その代わり、こちらの商品も向こうで扱ってもらう形です」
「共同商業区か?」
アイゼン王太子が小さく呟く。
(前世の免税店をイメージして話しているけど伝わるかしら?)
「人って、『限定』って言葉に弱いんですよ」
私は机の上に置かれた地図を指差した。
「この関所は、海路を使わない新ルートです。つまり、『通ること』自体が特別になる」
ヘンリーが目を細める。
「……通過地点ではなく、目的地にするわけか」
「そうです」
「それは面白い」
食いついた。
「例えば、名産品とか?」
「名産品か……」
ヘンリーが腕を組む。
「実は、シャーウッド辺境領には、強い名産がありません」
「ありますよ」
「え?」
「今から作ればいいんです」
私が即答すると、部屋が静まった。
「例えば、米の加工品です」
そこでヘンリーが反応する。
「ロベッタ男爵領の!」
(反応速度が不純。私の中のマリア警察が出動しそうだ)
「米は加工すると保存性も上がります」
「加工?」
「例えば、ポン菓子です」
◇
数時間後、関所前広場。
領民や両国の関係者と見物客が溢れていた。
「……本当に爆発しないのか?」
「大丈夫です」
私は簡易ポン菓子機を見ながら頷いた。
前世の記憶を頼りに、ラウルモンドに再現してもらった穀類膨張機。圧力をかけ、一気に開放することで米を膨らませる。
「では、いきます!」
技術者がレバーを引いた。
――ポンッ!!
「きゃあ!?」
「うおっ!?」
(……快感)
爆音と共に、セットしていた網の白い米が一気に飛び出した。
甘い香りが広がる。
「わあぁ!」
試食用の容器にできたてポン菓子を入れて配る。
「サクッと軽い……」
「甘い……」
「一粒ずつ食べても美味いが、口いっぱい頬張ると鼻に米の香りが抜ける」
商人達がざわつき始める。
「軽いし持ち運びもしやすいですし、お土産向きです」
ヘンリーが真顔で頷いた。
「なるほど。ロベッタ男爵領から米を安定仕入れできれば、量産可能ですね」
(マリア警察、パトランプ点滅。下心の疑いあり!)
「ねえしゃま!!」
そこへセザールが走ってきた。
ラウルモンドとアデルも一緒だ。
「関所、名前いる!」
「名前?」
「お店の!」
セザールがエヘン!と胸を張る。
「わたし、考えた!」
嫌な予感しかしない。
「イクシー『ど』。シャーウッ『ど』。だから――」
セザールが満面の笑みで叫んだ。
「ツー『ど』!!」
「「「……」」」
沈黙が流れた。
「さらに!名前だけじゃない!」
(……まだあるの!?)
「絵も描いた!」
セザールは紙を広げた。
そこには、妙に目力の強い謎生物。
「ツー『ど』くん!」
「え、怖っ!!」
思わず本音が漏れた。
丸い。白い。米粒っぽい何かから、腕と足だけが生えている謎の生物。なのに目だけ異様に力強い。
「目、強そうでしょう!」
セザールは自信満々だった。
「かわいいですわ!」
アデルまで乗っかる。この世界にも、キモカワみたいな感覚あるの?
「こちらは、イクシード辺境伯とシャーウッド辺境伯をイメージしました」
ラウルモンドも!?
「……」
大人達が微妙な顔をする。
ここで子ども達の意見に賛同してしまえば、両国の辺境伯はこの妖怪みたいと言っていることになる。
「採用しましょう!」
真っ先に言ったのはヘンリーだった。
「え?」
「共同関所の公式キャラクター、『ツーど』くん」
「待ってください!?」
「子ども受けは重要です」
真顔だった。
イクシード辺境伯まで頷く。
「うむ。目に力がある」
「体?顔?は、米ですが!?」
アイゼン王太子が額を押さえる。
「……関所とは何だったんだろうな」
私も知りたい。
◇
数日後。
関所限定ポン菓子は大ヒットした。
そして、まさかの……。
「『ツーど』くん人形、完売です!」
「追加生産急げ!」
「着ぐるみ暑い!!」
関所の入口には『ツーどくん』の看板まで立ち始め、米から手足の生えた着ぐるみが呼び込みをしていた。
(なぜか、ツーどくんまで人気になっている……)
目が怖いのに。米から手足が生えているのに。世の中、何が流行るか分からない。
「ねえしゃま!『ツーど』くん、人気!」
セザールが誇らしげに胸を張る。
「……そうね」
「『ツーど』くんのシャーの方が、マリアに『ツーど』くんの歌をお願いしたんだって」
(シャーの方……その呼び方、やめてあげて)
しかもヘンリー、曲を作ってもらうって口実で、マリアに会いに行っただけじゃない。
(ピピーッ!マリア警察です!ヘンリー・シャーウッド容疑者確保ー!)
私は遠い目をした。
(関所って、もっと真面目な施設じゃなかったっけ……?)、
【あとがき】
実は『ツーど』くん、ちゃんとデザイン画まで描いています。(Xなどのアイコンに現時点使用中です。)
いやげ物って、誰かには刺さるから売れるんです。
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