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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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閑話 ~ヘンリー・シャーウッドの誤算~

※閑話です。

ヘンリー・シャーウッド視点のお話になります。

 シャーウッド辺境領は、長らく“何も起きない領地”だった。

 リップル王国との国境を預かる辺境伯家――そう言えば聞こえはいい。だが、実際は大きな戦もなく、交易も海路中心。国境領としての役割は、年々薄れていた。


「平和なのは良いことだろう?」


 そう言ったのは父だ。

 もちろん、それは正しい。民が死なず、畑が燃えず、兵を出さずに済むのなら、それ以上はない。

 

(このままでいいのか?)


 そんな疑問が、ヘンリー・シャーウッドの中にはずっとあった。



「アイゼンが関所建設?」


 最初に話を聞いた時、ヘンリーは思わず聞き返した。アイゼンとは、生まれた時から従兄弟だが、こういう事を自分からやりたがるタイプじゃない。……ということは、深く関わっているのは、アイゼンが惚れた女――ルフェラン侯爵家令嬢。最近、王都でやたら名前を聞く少女だ。

 米。ゴム。孤児院。食堂。衛生改革。

 次々と新しいものを生み出し、“ヒットメーカー”などと呼ばれているらしい。


「……侯爵令嬢、だったな?」


「ええ。まだお若いそうですよ。我が領も軍用品質が向上しました。」


 報告書を読みながら、ヘンリーは目を細めた。


(若い貴族令嬢が、関所建設に関わる?)


 普通ではない。だからこそ、あのアイゼンも夢中なのだろう。



「お前、珍しく乗り気だな。」


 従兄弟であるアイゼンが視察に来た際、真意を確かめることにした。

 アイゼンは気まずそうに、言葉が詰まる。


「泣いていたんだ……あの顔を見たらいてもいられなくなってね。」


(これが、あのアイゼンか?!恋する十四歳男子の顔なんてあったのか。)


「新しい交易路か、辺境領シャーウッドとしては歓迎すべき話だな。」


 アイゼンは頷く。そして、こちらを何か言いたげに見る。


「お前は王太子の従兄弟で、辺境伯の嫡男。見栄えも良いと女中も言っているのに、なぜ婚約者がいない?」


(ん?今、そんな話をしていたか?)


「……。真面目に答えると好きになれそうな相手がいなかっただけだ。」


「そんなお前が恋に落ちるとしたら、どんな時だ?」


 言葉を被せるようにアイゼンが言う。

 昔から人を寄せ付けない。王族として完璧で、冷静で、隙がないアイゼンが恋話なんて……明日は槍でも降るのか?


「落ちてみないと分からないが、王族のお前には、ルーカス先王が作ってくれた“チャンス”なんだ。活かせ。」


 先代のルーカス先王は血の争いを終わらせた英雄だ。兄弟との王位継承を巡る争いの末、手に入れた玉座に何の意味も感じなかったという手記が残っている。王室にも一夫一妻を設け、近親婚を避けるべく、王子に自分の結婚相手を選ばせるという法律を作った。


『周囲に弱みを見せれば利用される。味方を作れば派閥になる。だからこそ、家族くらいは自由に選べ。――ルーカス・フォレスト』


 元国王がアイゼンくらいだった頃には、長年の毒の蓄積により先王の体はボロボロで闘病生活の日々を送っていた。アイゼンが生まれて、先王が名付けて数日後、逝去された。


「それだな、亡き先王から頂いたチャンスだ……頑張るよ。」


「お前の恋愛の話より、シャーウッド辺境伯領の話だ。俺は、領地を変える切っ掛けが欲しい。」


 アイゼン王太子がわずかに目を細める。


「お前らしいな。」


「何もない平和も悪くない。でも、何もないまま衰退するのは違うだろう?」


 シャーウッド辺境領には特色がない。名産も無ければ交易も薄い。“国境領”という肩書だけで立っている。領民は王都に流れ、納税も減少している。

 だからこそ、関所は転機だった。


「ルフェラン侯爵令嬢から話を聞いてみたいんだ。」


「……。」


「お前の恋路の手助けもできるかもしれないだろう?」


「……まあ、国の発展のために、シャーウッド辺境伯領の発展は必要だな。」


 即答だった。


(アイゼン……お前、変わったな。)



 そして、関所完成記念セレモニー当日。

 ヘンリーは、会場で慌ただしく指示を飛ばす少女を見ながら思った。

 展示配置、動線確認、技術者対応。侯爵令嬢というより、現場監督だ。

 だが不思議と、人が自然に従っている。使用人も、商人も、技術者も。


(これは、貴族令嬢に珍しいタイプだ。)


 だから少し話しかけてみた。

 すると。


「この子はまだ幼いので!」


(……?)


 突然、ものすごい勢いで警戒された。



(俺は何かしただろうか?王族の親類関係として、外面だけは気を使ってきたつもりだが…。)


 ヘンリーは本気で考えた。

 だが、エリカ・ルフェランは妙に必死だった。

 そして――。


「マリアです!」


 そう名乗った少女を見た瞬間、ヘンリーの思考は止まった。


 最初に目に入ったのは、笑顔だった。

 屈託がない。計算もない。貴族特有の“値踏み”が一切ない。

 普通、貴族令嬢はまず家名を見る。爵位を見る。立場を見る。けれど、その少女は違った。


「お姉様大好き同士、仲良くしましょう!」


 隣国の王女相手に、堂々と笑っている。


(なんだ、この子は。)


 思わず見入っていた。

 きらきらしていた。まるで夜露に濡れた花みたいに。

 気づけば、自然と口が動いていた。


「お名前を伺っても?」


 少女は嬉しそうに笑った。


「ロベッタ男爵家のマリアです!」


 ヘンリー・シャーウッドは理解した。


(ああ……なるほど。)


 これが、一目惚れか。

【あとがき】

ヘンリーにとっては、“領地の転機”ではなく“人生の転機”になったようです。

ちなみに、攻略対象の双子の兄・ルーカスの名前の由来は、ここから来ています。

読んで頂きありがとうございます。

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