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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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閑話 ~姉がいる世界~

※閑話です。

アデライト王女視点のお話になります

 セザールがいなくなってから、王宮は少しだけ変になった。

 大人たちは、私の前では何も言わない。でも廊下の向こうでは、聞こえるように話している。


「王妃様が……」

「王太子のために……」

「セザール殿下は、もう……」


 私は、全部聞こえてしまう。


(やめてよ)


 でも、耳は勝手に聞いてしまう。



 王宮で育つ子供は、知らないふりが上手になる。

 それが“いい子”だからだと、侍女に教えられた。だから私は、いい子のふりをしていた。

 泣かない、怒らない、何も聞いていない顔をする。

 でも頭の中では、ずっと考えていた。


(もし、本当だったらどうするの?)


 王妃様は、セザールをいじめたの? それとも、どこかに隠しただけ?

 どっちにしても――セザールはいなくなった。



 私は一度だけ、辺境伯に聞いたことがある。


「王妃様は、悪い方なの?」


 辺境伯はすぐに答えなかった。そのあと、短く言った。


「大人の事情です。」


 その言葉が、一番ずるいと思った。


(何も答えてくれないのと一緒よ。)



 でも、私は知っている。

 王妃様は、イクシード辺境伯の妹だ。つまり、あの家の人。


(だから、何も言わないの?)


 考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 お兄様が王太子なのに、どうしてセザールがいなくなったのか分からない。

 誰も探していないのか、それとも私が知らないだけなのか。

 夕食の席には、いつも一つ空席がある。そこはセザールの席だった。お母様は、そこを見ない。お父様も何も言わない。お兄様も、黙っている。


(……どうして?)


 分からないことが増えていくのに、セザールはいないことは変わらない。

 

 私がセザールを探しているのは姉弟だからなのかな……。


(分からないことがいっぱいだった。)



 隣国フォレスト国で交流会が行われることになった。

 私は王女として参加することになった。

 落ち込んでいた私に、イクシード辺境伯が「気分転換になる」と陛下に進言したらしい。

 フォレスト国は、リップル王国とは少し違った。暑くはないのに、湿った空気がある。人も多くて、みんな忙しそうに見えた。


(知らない国……)


 交流会当日。

 辺境伯は大きな荷物を持っていた。孫娘への贈り物らしい。年齢を聞いたら、私よりずっと年上だった。


(お土産、合ってない気がする……)


 そんなことを考えているうちに、辺境伯は勝手に会場へ出て行った。

 しばらくして、いつもより怖い顔をして、鼻息荒く戻ってきた。


「アデライト王女、落ち着いて下さい。」


(それ、今、私が言おうと思ったのに…。)


 その意味が分かった時、私は王女ではいられなかった。“いい子”のふりができなくなっていた。


 いなくなったセザールがそこにいた。

 消えた王子じゃなかった。

 いつの間にか、フォレスト国語を話している。そして、知らない少女と手をつないでいる。


「ねえしゃま!」


 その声を聞くたびに、私はセザールが存在することに安心した。

 でも同時に、胸の奥が変な感じになった。



 そこには、エリカ・ルフェランがいた。

 まるで最初から、そこが家の子供みたいに。セザールは王宮では見せたことのない表情をしている。陛下にもお母様にも、あんな風に甘えた姿を見せたことはなかった。

 もちろん、私にも……。

 

(どうしてあの人なの?)

 


 私はセザールが忘れてしまったのかと思った。それを口にしたら怖くなった。ただ、取られないように抱きしめるしか出来ない。


 でも、あの人は誰かに言われなくてもセザールの手を離した。取られないように抱きしめるしか出来ない子供の自分から、ちゃんと相手を見て手を離せる人へ変わっていた。


 嫌な人だったら良かったのに、頭は勝手に考える。

 


 大人達の話し合いの結果、陸路で帰ることになった。海は荒れると気分が悪くなるし、セザールがどんな生活を送っていたか知りたかったから良かった。


 ある日、侍女が言っていた。


「ルフェラン侯爵令嬢は、不思議な方ですね」


 私は少しだけ耳を傾けた。


「子供の世話がとても上手で」


 それを聞いて、私はエリカ・ルフェランに興味が出た。


 不思議って、こういうことなのかもしれない。

 子供を守られる存在から、子供を守る側へ変わっている。

 子供なのに、子供っぽくない気がする。

 貴族なのに、貴族らしくない気もする。


 でも、セザールのことが好きなのは嘘ではない。だから、セザールがあんなに甘えている。セザールだけではない。使用人のラウルモンドも心から慕っている。


(羨ましい)


 この気持ちはなんだろう。

 セザールの姉の場所がなくなる気がしたから?それとも、もっと違う理由から?どれもはっきりしないまま、その人を見ていた。



 ある日、セザールが遊んでいたボールがテーブルのティーカップに当たった。

 私は内心ドキドキしていた。セザールは鞭で打たれないか、私が動揺したことを気づかれていないか。

 でも、エリカ・ルフェランは侍女に頼むではなく、侯爵令嬢が自ら私を着替えさせた。

着替えるドレスも選ばせてくれた。見たことない服にワクワクした。着替えを手伝いながら火傷がないか確認している。少し嬉しい。

 ドレスに合わせて髪型もセットしてくれた。鏡の中の私は見たこともないかわいい髪飾りをつけていた。髪が顔にかからないと景色も違う。

 なぜか以前、侍女が話していた話を思い出した。姉妹で髪を梳かしあった話。私にはお兄様とセザールしかいないから、姉妹が想像出来なかったけど、お姉様がいたらこんな感じなのかしら?


 気づいたら、胸の奥が少しだけざわついていた。

……たぶん、私はセザールが羨ましかったのかもしれない。


 エリカ・ルフェランがセザールの姉ということは、私とも姉妹ということよね?

 

「……私も、私もセザールみたいに呼んでください!」


 言ってから少し考えた。

 でもエリカ・ルフェランは困った顔をしながら笑って、


「じゃあ、アデルって呼んでもいいですか?」


 と言った。

 初めて、愛称で呼ばれた。


(うふふ、私とお姉様は姉妹ですわ。)


 手をつないで、仲良し姉妹になった私は浮かれていた。

【あとがき】


セザールがいなくなった後、第35話でイクシード辺境伯が口にした、

「今回の件は……我が国の王家の問題だ。」

――その“リップル王国側”のお話でした。

読んで頂きありがとうございます。

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