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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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第28話 白米と王家の取引

 アイゼン王太子は、工房内をゆっくり見回した。 作りかけの千歯扱せんばこき。積み上がる木材。疲れ切った職人達。孤児院の子供達まで総出で動いている現状。そして最後に、私を見る。


「人手不足か。」


「…否定はできません。」


 正直、かなり限界だった。米の繁殖力が想定外で加工する速度より、増える速度の方が早い。


「ルフェラン家直営の工房を立てよう。」


「…え?」


 一瞬、理解が追いつかなかった。


「若い職人見習いも回す。量産体制を取るんだ。」


 さらりと言われた内容に、今度こそ固まる。


「ほ、本当ですか!?」


 思わず一歩前に出る。王家経由で設立される工房。見習い職人まで手配してもらえるなんて…。今の私達に一番足りなかったものだ。


 アイゼン王太子は、喜ぶ私を見て口角を上げた。


「その代わり。」


(ですよね~!!)


 知ってた。この人がタダで助ける訳がない。


「例の米を試食したい。」


「……はい?」


「報告だけで投資するほど、私は愚かな王子ではないよ。」



 急遽、ルフェラン家で“第二回米の試食会”が開催された。

 ルフェラン家では、使用人も当たり前に白米を食べるようになっていたので、炊き立ての白米はすぐに用意出来た。問題はトッピングだ。焼き肉丼はリアンから伝わっているだろう。

 アイゼン王太子を驚かせ、且つ米の無限の可能性を提示出来る料理……。


(そうだ、TKGだ!)


 私は孤児院に使いを出し、採れたて新鮮の卵を分けてもらう。ホカホカご飯の中央にくぼみをつけて、その中に卵を割る。あぁ、たまごかけご飯…。


「醤油があれば完璧なのに…。」


 私が溜め息混じりに呟くとエディが反応した。


「ショーユウのことですか?ありますよ。」


 北の隣国ブリーズ王国。高い山脈に囲まれた寒帯地方。真冬は氷点下になることもある国で雪に覆われる期間が長い。永久凍土の地域もあるようで植生は少ないが、一部の地域では、芋や大豆、りんごなどが栽培されている。


(大豆を作っているから醤油もあるのか…。)


 お父様が外務大臣の仕事をしていると、海外の品物を贈られることも多いらしい。ブリーズ王国から贈られたのがショーユウ。エディは、お父様から受け取ったものの、使い方が分からないまま保管していたらしい。


(もったいない!)


 湯気と共に広がる香りに、アイゼン王太子が静かに目を細める。


「これが、例の主食か。」


「はい。こちらのショーユウをかけてお召し上がりください。」


 私は緊張しながら頷いた。

 なんとシュールな風景だ。この国の王太子が、たまごかけご飯を食べている。

 王太子は一口、米を味わうように食べる。

 ――そして。


「…なるほど。これは危険だ。」


「危険?」


「美味すぎる。」


 アイゼン王太子は、そのままもう一口食べる。 その動きに迷いがない。


「小麦とは別系統の強さがある。たまごと混ざった部分はスルスルと入っていく。食欲がない時でも食べられそうだ。」


「でしょう!?忙しい朝に持ってこいなメニューなんです!」


 思わず食いつくと、王太子はちらりとこちらを見る。


「だからこそ、王家が管理する。」


「…はい?」


 嫌な予感しかしない。


「備蓄米として、生産量の一割を王家へ納めよ。」


「一割!?」


 私は思わず声をあげてしまった。


「飢饉対策だ。この繁殖力なら備蓄向きでもある。」


 淡々としているが、目は完全に計算していた。


「当面の栽培は、ロベッタ男爵領のみ許可する。」


「…制限、ですか?」


 お父様が低い声で確認すると、その場の空気が少し張る。


「この国の農地が、米ばかりになったら困る。」


 これは、――建前だ。

 お父様もアイゼン王太子の意図を理解しているようだった。もし失敗しても、被害はロベッタ男爵領だけで済む。 逆に成功すれば、小麦に並ぶ主食になり、王家は備蓄を確保できる。


(うわぁ…この人、やっぱり食えない。)


 助けてくれたと思っていたのに、きっちり利益を回収していく。 腹黒さが隠しきれていない。


(設定の中の私は、なんでアイゼン王太子と結婚したの?)


 全く理解できない。 こんな損得勘定の塊みたいな男と恋愛する未来が見えない。


(攻略対象の双子、永遠に生まれないんじゃない?)


 私の中のアイゼン王太子への好感度は、今日も元気に底辺だった。――もっとも。底辺ということは、あとは上がるしかないのだと。 この時の私は思いもしなかった。


 アイゼン王太子を見送った後、珍しくお父様が敵意をあらわにした表情をしていた。


「あのクソガキ…。」


 誰にも聞こえないような小声が漏れていた。


(お父様?!この国の王太子ですよ!)


「ルフェラン家、ロベッタ家の存続に関わる事態だ!何が何でも成功するぞ。」


(お父様…このまま夕陽に向かって走り出しそうな勢いだわ。)


 使用人達も頷き、それぞれの目に炎が宿っている。


「ロベッタ男爵家に早馬を!」

「工房の確認!近隣の土地を確保!」

「領内で職人を探せ!」

「運搬車の依頼を!」


 まさか、米でこんな風になるとは思わなかった。

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