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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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第21話 最悪の護衛、爆誕

 久しぶりに孤児院を訪れ、トモエ達と顔を合わせたことで、少しだけ気持ちが軽くなっていた。マリアとセリーナ叔母様の運命を作るという新たな課題はあるが、ちゃんと“前に進んでいる実感”がある。


(……よし。まだやれる)


 そんな前向きな気持ちのまま、屋敷に戻った……はずだった。

 玄関に立っていたエディと目が合う。無言で、こちらを手招く。


(……嫌な予感しかしない)


 近づいた瞬間、エディが小声で言った。


「お嬢様……やっかいなことになりました」


 その一言で、全部察する。


「覚悟、しておいてください」


(やっぱり……)


 私は小さく息を吐いて、そのまま屋敷に入った。使用人に案内され、客室へ向かう。廊下を歩く間、妙に空気が張り詰めている気がした。


(……お父様案件ね)


 ノックの後、扉が開く。その瞬間―思考が止まった。そこにいたのは……つい先日、“死にかけていたはずの男”ルナエクリプスのリーダーだった。

 一瞬、時間が巻き戻ったのかと思った。


(いやいやいやいや)


 脳内で全力否定する。生きてるのは知ってる。助けたのは私だ。でも―ここにいる理由が、分からない。軽くどころか、盛大にパニックだ。

 そんな私をよそに、男は自然な動作で立ち上がり優雅に一礼した。


「初めまして」


  落ち着き払った声。


「この度、お嬢様の護衛騎士として採用された―リアンと申します」


(……は?あなたライアンでしょ?名前変え方、雑過ぎない?それともわざと?)


 一拍遅れて、理解が追いつく。


(いやいやいや、ちょっと待って)

 

 護衛騎士?この人が?よりにもよって、この人が?


(なんで!?)


 頭の中でツッコミが爆発する。

 そういえば、お父様が言っていた。護衛を増やすと。確かに言っていた。でも……。


(人選がおかしいでしょ!!)


 目の前の男は、何事もなかったかのように穏やかな顔をしている。まるで先日の夜の“死線”も、“裏の顔”も、全部なかったことのように。


(いや、絶対なかったことにしちゃダメなやつ)


 視線が、ほんの一瞬だけ合う。その目に、わずかに浮かんだのは―“面白がっている色”だった。


(……ああ、これ)


 完全に、面倒なことになるやつだ。

 固まる私をよそに、お父様がゆっくりと口を開いた。


「エリカ」


 いつもの穏やかな声。


「先日言っただろう。護衛を増やすと」


「……はい」


 声が、少しだけ上ずる。


「彼は優秀だ。推薦もあってな」


(推薦……?絶対ろくでもないところから来てるでしょ!?)


 内心のツッコミを押し殺す。


「お前専属の護衛だ」


「……専属、ですか?」


 思わず聞き返してしまった。その瞬間。ちらり、と“リアン”の視線がこちらに向く。


(やめて、その顔。先日まで死にかけていたくせに)



「問題があるか?」


 お父様の声が落ちる。


(あります!!めちゃくちゃありますけど!!)


「い、いえ……ありません」


 即答するしかない。


「ならいい」


 短く言い切ると、お父様はリアンへ視線を移した。


「娘は少し無茶をするところがある。目を離すな」


(ちょっと待って、そのフラグやめて)


「承知しております」


 穏やかな声で答えるリアン。完璧な“護衛騎士”の顔。


(ルナエクリプスのリーダーが!?)


 現実がバグっている。


「では、早速だが―」


 お父様が続けようとした、その時。


「一つ、よろしいでしょうか?」


 リアンが口を開いた。空気が、わずかに変わる。


「……何だ?」


「お嬢様は、非常に“危険な場所”に関わる可能性があります」


 心臓が、嫌な音を立てた。


(ちょっと待って。何を言い出すの?)


「それ相応の裁量を、私に与えていただきたい」


 落ち着いた声。だが、その言葉の中身は完全に“踏み込み”だった。


「具体的には?」


 お父様の目が細くなる。


「緊急時における、独断での行動許可です」


(アウトー!!)


 内心で絶叫する。


(それ認めたら絶対ダメなやつ!!)


 一瞬の沈黙。張り詰める空気。


「……理由は?」


 静かな問いにも、リアンは一切迷わなかった。


「お嬢様を守るためです」


(見張るためでしょ!!)


 その答えに、お父様はわずかに考え込む。


「……範囲は限定する」


  低く、慎重な声。


「事後報告は必須だ」


(それでも十分アウト!!)


「承知しました」


 あっさりと頷くリアン。話がまとまってしまった。


(いやちょっと待って、私の意見は!?)


 完全に置いていかれている。


「エリカ」


 呼ばれて、びくっとする。


「彼は優秀だ。信頼して任せろ」


「……はい」


 反射で答えるしかない。


(信頼できるわけあるか!!)


 内心は大荒れだ。

 お父様は小さく息を吐いた。


「今日はここまでだ。下がっていい」


 解放の言葉だった。


「失礼します」


 逃げるように一礼し、部屋を出る。――出た、はずだった。


「お嬢様」


 背後からの声に足が止まる。振り返ると、そこにはリアンがいた。いつの間にか、すぐ後ろに立っている。


(気配どうしたの!?)


「……何か?」


 できるだけ平静を装う。

 リアンは、ほんの少しだけ距離を詰めた。


「先日の“借り”がありますので」


 小さく、低く。


「お嬢様の願いは叶えますよ」


 その目は―完全に、“影の側”のそれだった。


「……願い?」


 即答した。だが、リアンは楽しそうに笑う。


「エドモンドが“エディ”として侍女と息子の元で生きることを認める」


 一歩、近づき。完全に、逃げ道を塞ぐ位置。


「それがあなたの“願い”でしょ?」


 ぞくり、とした。


「確かに。ターニャとラウルモンドにエディは必要だわ……でも、それと新たに諜報員が来るのとは違うわ」


(……しかも、組織のトップ自らなんてあり得ない)


 深く息を吐き、睨み返す。


「言っておきますけど、これは然るお方のご意向でもあります」


(然るお方って、アイゼン王太子しか浮かばないんですが!)


 一歩、踏み出す。


「あなたの願いを叶え、影としての役目を果たす。それが可能だったのは、私だけだったのです」


 リアンが、目を細めた。これはもう―“普通の護衛”なんてものじゃない。


(……これ、護衛じゃない。監視役だ)


 完全に、面倒なことになる予感がした。

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