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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
恋蜜《こいみつ》は乙女ゲームより奇なり

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第15話 初対面の再会

 午後の柔らかな光が、窓から静かに差し込んでいた。


 トモエは他の子供達と並んで、ゴムを使った新商品である衣服を繕いながら、いつものように穏やかな時間を過ごしていた。

 針を動かす手は慣れたもので、無駄がない。


 ふと、手が止まる。理由は分からない。

 けれど、胸の奥がざわついていた。運命の歯車が、音を立てて回るような予感だった。


「トモエ、いますか?」


 シスターの声だ。


「はい、シスター。」


「スタール男爵様があなたに会いに来ています。」


 ――スタール男爵。その名前を聞いた瞬間、トモエの心臓が強く跳ねた。

 頭では理解している。

 ここは【恋蜜こいみつ】の世界。

 スタール男爵が来たという事は、今後の物語が動き出した。


 私は『トリー』として、彼の息子に嫁ぐのだ。


「……分かりました。」


 針を置き、立ち上がる。

 足取りは落ち着いているのに、鼓動だけが速い。


 応接室。扉の前で、トモエは一度深呼吸をした。


(落ち着いて。相手はただの“キャラクター”。この世界はゲーム。だから……大丈夫。)


 自分にそう言い聞かせる。


――扉を開けた瞬間、その前提は崩れた。

 そこにいたのは、スタール男爵らしき紳士と若い青年だった。


 整った顔立ち。知的な瞳。初めて会うのに私を見る眼差しが温かい。


「はじめまして、トリー。」


 一拍の間があった。


「――そして、久しぶりだな、トモ。」


「……。」


 その瞬間、時間が止まった。

 言葉が出ない。

 知らないはずなのに、知っている。

 初対面のはずなのに、懐かしい呼び名。

 その矛盾が、空気を満たしていく。


 先に口を開いたのは、ブラッドだった。


「トモ……。」


 その呼び方だけで、分かった。

 あり得ないと分かっているのに、身体が先に理解してしまう。


「……真司(しんじ)?」


 その名前の響きに、トモエの瞳が大きく揺れる。


「……どうして?」


 喉が乾く。

 けれど、問いかけずにはいられない。


 ブラッドは、一歩、近づく。もう一歩。


 気づけば、トモエがブラッドに抱きついていた。ブラッドは、まるで存在を確かめるように抱き返す。


 トモエの中で、何かが繋がる。


 記憶の断片。途切れた糸。形には見えないものだったが、再び繋がり合えた。


「……まさか、なんで?」


 震える声で、トモエ自身、何が言いたいか分からなかった。

 あり得ないと分かっているのに、口が動く。


「……真司(しんじ)だよね?」


 ブラッドの目が、わずかに細められる。それは肯定だった。


「久しぶりだな。」


 あの時と同じ、少し不器用な笑い方で。


「トモ……。」


 名前を呼ばれる。

 それだけで、胸の奥が締め付けられる。

 もう二度と聞けないと思っていた声。


「……なんで。」


 涙が滲む。


「なんで、ここにいるのよ。」


 責めるような言葉。

 けれど本当は違う。ずっと、会いたかった。


 ブラッドは、ゆっくりと答える。


「会いたかった。ずっと……。」


 その一言に、すべてが詰まっていた。

 沈黙が続く。

 けれど、それは気まずさではない。

 長い時間を越えて、ようやく再会した二人の――空白を埋める時間。


 トモエは俯いたまま、小さく呟く。


「……で?」


 やがて、トモエは顔を上げた。

 前世の“シナリオライターの顔”に戻る。


真司(しんじ)がここにいるってことは、ただの再会じゃないんでしょ?」


 ブラッドも表情を引き締める。


「ああ。」


 そして、トモエに耳打ちするように静かに言った。


「これから起こる疫病の話だ。」


 その一言で“再会”は終わった。

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