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17/30

初対面の再会

 午後の柔らかな光が、窓から静かに差し込んでいた。トモエは他の子供達と並んで、ゴムを使った新しい新商品である衣服を繕いながら、いつものように穏やかな時間を過ごしていた。針を動かす手は慣れたもので、無駄がない。


 ふと、手が止まる。

 理由は分からない。けれど、胸の奥がざわついていた。運命の歯車が、音を立てて回るような予感だった。


「トモエ、いますか?」


 シスターの声だ。


「はい、シスター。」


「スタール男爵様があなたに会いに来ています。」


―スタール男爵。その名前を聞いた瞬間、トモエの心臓が強く跳ねた。頭では理解している。ここは【恋蜜こいみつ】の世界。スタール男爵が来たという事は、今後の物語が動きだした。私は『トリー』として、彼の息子に嫁ぐのだ。


「…分かりました。」


針を置き、立ち上がる。足取りは落ち着いているのに、鼓動だけが速い。


 応接室。扉の前で、トモエは一度深呼吸をした。

(落ち着いて。相手はただの“キャラクター”この世界はゲーム。だから…大丈夫。)

 自分にそう言い聞かせる。


―扉を開けた瞬間、その前提は崩れた。そこにいたのは、スタール男爵らしき紳士と若い青年だった。


 整った顔立ち。知的な瞳。初めて会うのに私を見る眼差しが温かい。


「はじめまして、トリー。」


 一拍、間があった。


「―そして、久しぶりだな、トモ。」


「…。」


 その瞬間、時間が止まった。言葉が出ない。知らないはずなのに、知っている。初対面のはずなのに、懐かしい呼び名。その矛盾が、空気を満たしていく。


 先に口を開いたのは、ブラッドだった。


「トモ…。」


 その呼び方だけで、分かった。あり得ないと分かっているのに、身体が先に理解してしまう。


「…真司(しんじ)?」


 その名前の響きに、トモエの瞳が大きく揺れる。


「…どうして?」


 喉が乾く。けれど、問いかけずにはいられない。ブラッドは、一歩、近づく。もう一歩。気づいた時には、トモエがブラッドに抱きついていた。ブラッドは、まるで存在を確かめるように抱き返す。


 トモエの中で、何かが繋がる。記憶の断片。途切れた糸。形には見えないものだが、再び繋がりあえた。


「…まさか、なんで?」


 震える声で、トモエ自身、何が言いたいか分からなかった。あり得ないと分かっているのに、口が動く。


「…真司(しんじ)だよね?」


 ブラッドの目が、わずかに細められる。それは肯定だった。


「久しぶりだな。」


 あの時と同じ、少し不器用な笑い方で。


「トモ。」


 名前を呼ばれる。それだけで、胸の奥が締め付けられる。もう二度と聞けないと思っていた声。


「…なんで。」


 涙が滲む。


「なんで、ここにいるのよ。」


 責めるような言葉。けれど本当は違う。ずっと、会いたかった。


 ブラッドは、ゆっくりと答える。


「会いたかった。」


 その一言に、すべてが詰まっていた。沈黙が続く。けれど、それは気まずさではない。長い時間を越えて、ようやく再会した二人の―空白を埋める時間。


 トモエは俯いたまま、小さく呟く。


「…で?」


 やがて、トモエは顔を上げた。前世の“シナリオライターの顔”に戻る。


真司(しんじ)がここにいるってことは、ただの再会じゃないんでしょ?」


 ブラッドも表情を引き締める。


「ああ。」


 そして、トモエに耳打ちするよう静かに言った。


「これから起こる疫病の話だ。」


 その一言で“再会”は終わった。



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