第12話 救貧院設立
シュシュが流行する喜びと同時に、問題が浮き彫りになっていた。
生産が追いつかない。これまでシュシュは孤児院で作っていたが、需要の増加に完全に対応できなくなっていたのだ。そこで私は、次の手を打った。
「救貧院を設立するわ」
救貧院は職や住まいがない者に就業を条件に衣食住を提供する場所だ。試験的運営となる為、孤児院出身の生活困窮者を対象に取り組むことにした。
執事のクルードに協力を仰ぎ、準備を進める。だが、この計画はそう簡単には受け入れられなかった。
「労働を課すのですか?」
「それは慈善とは呼べないのでは?」
今まで協力的だった教会関係者の中にも、慎重な意見があった。
だから私は、はっきりと言った。
「働く場を与えることは、施しではなく自立のための支援です」
「しかし、強制労働と何が違うのでしょうか?」
私は少し間を置いてから、答えた。
「選択肢があるかどうか、です。来ることも、去ることも、本人が決められる。それが違いです」
沈黙の後、ゆっくりと頷く者が次々と現れる。
(言葉は、ちゃんと届いてる)
話を聞いて、マグノリア教会に縁のある引退したシスターが協力を申し出てくれた。
建物は教会の近くにある売りに出されていた宿泊施設を居抜きすることで、救貧院はようやく形になった。
だが、そこに集まった人々は、すぐに働き始められたわけではない。
「……本当に、ここにいていいのですか?」
元孤児の一人が、怯えたように尋ねる。
「もちろんよ」
彼らに必要なのは、仕事だけではない。"ここにいていい"と思える時間なのだと。
――そんな折だった。いつものように、孤児院を訪れた時に、サムが義足の付け根をさすり、顔をしかめているのに気づいた。
「痛むの?」
「……大丈夫です」
(大丈夫じゃない。保育士の頃、遠慮がちな子供の「大丈夫」が一番信用できなかった)
明らかに無理をしている。布に綿を詰めた簡素な装具では、長時間の使用に耐えられないのだろう。
その様子を、ラウルモンドがじっと見て何かを考えているようだった。
◇
数日後――。
「これ、使ってみてください」
ラウルモンドが差し出したのは、見慣れない素材で作られた緩衝材だった。ゴムの端材を何度もこね直し、布や綿を詰めては作り直したのだという。
「柔らかくて、でも戻るんです」
触れてみると、不思議な弾力がある。綿とも布とも違う感触。
「これって、ウレタンみたいなものかしら?」
思わず呟くと、ラウルモンドは首を傾げた。
「うれたん?名前は分かりません。でも、こういうのが必要なんですよね?」
私は一瞬、言葉を失う。
トモエが言っていた。ラウルモンドには"閃く力"こそないが、与えられた形を実現する能力があると。その意味が、今になって分かった気がした。
「……ありがとう、ラウルモンド」
ラウルモンドはにっこりと笑った。
サムがウレタンを使い、初めて痛みなく立ち上がった。
何も言わなかった。ただ、しばらくその場に立ったまま、目を細めていた。
その小さな変化が、どれほど大きな意味を持つのかを、私ははっきりと感じていた。
一人の痛みを減らすために生まれたものが、やがて多くの人を救うかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥が静かに熱を帯びた。
(ラウルモンドの力を、もっとちゃんと活かせる場所がこの世界にもある)




