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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ


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第11話 広告塔として

 孤児院に新しい風が吹いたのは、ゴムの木が発見されてからだった。

 それまでこの世界にはなかった弾力という概念は、子供達の仕事にも変化をもたらした。就業訓練と称して始まったのは、シュシュ作り。柔らかな布とゴムを組み合わせた髪飾りだ。当初は、男女で作業が分かれていた。女子はシュシュ、男子はゴムの加工。けれど私は、すぐにその区分を曖昧にした。物作りが好きな子もいれば、細かな作業が苦手な子もいる。ならば、性別ではなく、本人の向き不向きで選べばいい。

―女だから家事をするべき、男だからしなくていい。そんな考えは、100年もすれば風化する。ここにいる子供達には、大人になった時、自分で選んだ生き方をしてほしい。それが私の願いだった。


 けれど、理想と現実は、必ずしも並んではくれない。


「・・・売れないのよね。」


 私は小さくため息をつきながら、手元の布を縫い進めた。隣ではトモエが、器用に針を動かしている。

 シュシュの売上は、思っていた以上に伸びていなかった。この世界では、ゴムその物が珍しい。だからシュシュも、髪飾りではなく“ブレスレットの一種”として見られているらしい。執事のクロードが最初に腕に通したのが、その印象を強かったからだろう。

 物珍しさで手には取られる。だが、購入には至らない。前世のようにテレビもなければ、ファッション雑誌もない。流行が自然発生するには、あまりにも土壌が整っていなかった。


「領内で流行ればいいのよ・・・。孤児院の生産量を考えたら、それで十分なのに」


 ぼやく私に、トモエが顔を上げた。


「あるじゃない。貴族にも平民にも広がる方法。」

「・・・そんな都合のいい方法、ある?」

「あるわよ。ルフェラン領で、誰もが知ってる人に身につけてもらえばいいのよ。」


 その言葉に、私は針を持つ手を止めた。


「それって・・・」

「エリカ様、あなたのことよ」


 ルフェラン領主、侯爵家の令嬢。その肩書きを持つ私が身につければ、確かに貴族も平民も注目するだろう。けれど―。


「・・・前世ただのアラサー会社員だった私が、広告塔って。」


 思わず弱音が漏れる。

 そんな私に、トモエは肩をすくめて笑った。


「じゃあ質問。【恋密(こいみつ)】のアンソニーが、宣伝のためにシュシュつけてたらどう思う?」

「それは・・・絶対似合うし、話題になると思うけど。」


 言ってから、はっとする。

 トモエはにやりと笑った。


「でしょ? 今のエリカ様の顔面、それなのよ。」

「・・・はい?」

「アンソニーそのもの、美少女系王子の顔。使わないでどうするの。」


 言われてみれば、思い当たる節はあった。前世で見ていたゲーム【恋密(こいみつ)】。その攻略対象キャラクターであるアンソニー。ファンアートでは、彼の女装姿が数多く描かれていた。そして、そのどれもが、妙に似合っていた。


「・・・やるしか、ないのね。」


 どうせ広告塔になるのなら、中途半端はよくない。

 私は机の上の紙を引き寄せ、ペンを走らせた。思い浮かべるのは、かつて見たファンアート。清楚で、けれどどこか艶やかで。レースが揺れ、ウエストはきゅっと締まり、裾は軽やかに流れる。


「ケイト! こういう服、作れない?」


 私は勢いのまま、スケッチを差し出した。だが、自分の画力のなさに途中で気づく。細部が表現できない。結局、最後は言葉で補うしかなかった。


「えっと・・・清楚なんだけど、少しだけ露出があって…ウエストはゴムで締めて、裾はひらひらで・・・」


 自分でも何を言っているのか分からない。


「・・・月の女神みたいな感じ!」


 最後は完全に感覚だった。それでもケイトは、静かに頷いた。


「分かりました。」


 そう言って、彼女はペンを取る。迷いのない線が紙の上を走り、形が、命を持ち始める。布の流れ、レースの重なり、シルエットの美しさが、瞬く間に完成されたデザインへと変わっていった。


「・・・すごい。」


 思わず息を呑む。そこには、私の曖昧な言葉からは想像もつかないほど完成度の高い“月の女神”が存在していた。


「これなら、いける!」


 生地は、孤児院と関わりのある店を使う予定だ。今後の事業展開を考えれば、こうした互助関係は大切にしたい。シュシュも、ドレスも、すべては繋がっている。子供達の未来のために。この世界に、新しい“当たり前”を作るために。

 私は、完成したデザイン画を胸に抱きしめた。



 依頼したドレスの完成を待つ間、私はメイド服の生地を使ったシュシュを作り続けていた。一見どれも似たように見えるメイド服だが、よく見れば家ごとに織り方や糸の質、染めの深さが異なる。そこに家紋の刺繍が加われば、それは立派な「所属の証」になる。

 それを、もっと手軽に示せる形にすればいい。そうして生まれたのが、我がルフェラン家の生地で仕立てたシュシュだった。


「お嬢様が、私たちのために・・・。」


 最初に手渡したとき、使用人達は驚き、そして次の瞬間には目を潤ませていた。中には「家宝にいたします」と本気で言い出す者まで現れたため、慌ててそれは止めた。使ってもらわなければ意味がない。だが、彼らの反応はそれだけでは終わらなかった。


「紐よりもずっと楽でございます。」

「結い直しがこんなに簡単だなんて。」


 実用面での評価も非常に高く、気が付けば屋敷内のほとんどの使用人がシュシュを着けるようになっていた。休日ですら外さない者が多いのには、正直驚いた。


「ルフェランの者だと、一目で分かるのが誇らしいのです!」


 そう言って微笑む彼女たちを見て、私は初めて、これがただの装飾品ではないのだと理解した。やがて、その変化は屋敷の外にも広がっていった。町で見かけた者たちが興味を持ち、手に取り、真似をする。「王都で流行っているらしい」と噂が立てば、流れは一気に加速した。ルフェラン領は王都に隣接している。地方貴族たちが土産として買い求め、それがさらに別の土地へと運ばれていく。

 気が付けばシュシュは、国内で広く知られる品となっていた。

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