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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
Love begets love ~愛が愛を生む~

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第99話 未来への誓い ~祝福の光~

 結婚式の朝、フォレスト国の王都は、朝から人で溢れていた。

 ルフェラン領と隣接するこの王都では、多くの領民たちが早朝から通りに詰めかけていた。

 王太子アイゼン・フォレストと、エリカ・ルフェランの婚礼が行われる今日。

 国を挙げての祝祭だった。


「エリカ様、動かないでください」


 侍女のターニャが、ドレスの裾を整えながら言った。その表情は強ばっていた。


「なんで、ターニャが緊張してるの?」


「実は……夫のエディが、披露宴の料理で朝から張り切っていて」


 ターニャは、丁寧にレースを直しながら言った。

 諸外国の来賓に向けてフォレスト国の文化披露にもなる私たちの結婚式。米料理は我が家の料理人エディが指名されたのだった。


「国王陛下だけでなく、各国の要人に食べていただくなんて。緊張もしますよ」


「エディは何を作っているの?」


「秘密です、とのことでした」


 溜め息をつきながら、メイク作業を始めるターニャ。

 鏡の中に映る自分が、少し他人に見えた。

 白いドレス。ゴムを編み込んだ柔らかな生地が、お腹に負担をかけないよう、丁寧に仕立てられている。


「ケイト、本当にありがとう。素晴らしいドレスだわ」


 隣に控えていたケイトが、少し照れたように微笑んだ。


「殿下のタキシードと対になるよう、生地の光沢を合わせました。妊婦様のお身体にも負担がかからないよう、ゴムの伸縮性を活かしています」


「今までの経験が、活きているのね」


「はい。仕立て屋から追い出された時は、王太子妃様のドレスを自分が仕立てる未来なんて、想像もしていませんでした」


 ケイトは、静かに笑った。


「これからは家族の分もお願いすると思うから」


「子供服は得意なんで任せてください!」


(ケイトの才能が不遇な運命に埋もれなくて良かった)



 ◇



「お父様?」


 扉が開いた。

 お父様が、そこに立っていた。

 礼服に身を包んだ父親は、いつもより少しだけ、緊張しているように見えた。


「……大変、お似合いです。王太子妃殿下」


「ありがとうございます」


 お父様は、しばらく私を見つめていた。


「あなたが、生まれた日のことを、思い出していました」


「……はい」


「この世の悲しみや不幸から、守ってやりたいと思っていました」


「お父様……」


「セザールとラウルモンドが来て、賑やかになって。妹のリュンヌが生まれて……」


 お父様は、少し目を伏せた。


「もう少しあなたの父親として、側で守ってあげたかったです」


 私は、何も言えなかった。


「だから……」


 お父様は、私の手を取った。


「辛くなったら臣下ではなく、家族として遠慮せずに頼ってください。あなたは私たちの愛する娘です」


「……はい」


 その言葉に、目の奥が熱くなった。


「お父様。今日まで、育てくれてありがとうございました」


 お父様は、何も言わなかった。

 ただ、差し出した手を、静かに握り返してくれた。



 ◇



 式場への廊下を、お父様と並んで歩いた。


「婿殿」


 廊下の途中で、お祖父様が待っていた。


「義父上」


「その手はちゃんと離せそうか?」


「……」


「婿殿。今、敢えて聞こう。どんな気持ちだ?」


「じいじ!」


 お父様は、私を見て、静かに頷いた。


「……複雑な気分です」


「エリカ、幸せになれ。それがお前の祖父と父親のたった一つの望みだ」


「はい」


「なれなかったら、すぐ帰って来い。リップル王国でも、フォレスト国の隣でも、お前が望む場所に、いつでも居場所を作ってやる」


「……じいじ」


「お前の父親も同じ気持ちだ。なあ、婿殿」


 お父様が、深く息を吐いた。



 ◇



 式場の扉が開いた瞬間、光が溢れた。

 集まった人々が、一斉にこちらを見た。

 前列に、見覚えのある顔が並んでいた。

 セシル様とネージュ様が、ブリーズ王国から来ていた。

 その隣には、リップル王国の代表として出席されたアレクシス殿下婚約者のマリーナ様が並んでいた。


 新婦友人席では、テオドアがマーガレットの手を握っていた。


「エリカ様ーーー!!」


 式場に、マーガレットの声が響いた。

 その反対側の席ではパメラは、目に涙を溜めたまま腕を組んで立ち、ガブリエルが静かにハンカチを差し出していた。

 マリアが、ヘンリーにもたれながら、目を潤ませていた。彼女の薬指には婚約指輪が輝いていた。


 式場の警備の一角に、見覚えのない女性騎士が立っていた。

 長身で、凛とした立ち姿。


(あれって、アンリ先輩……)


 リアンが、少し離れた場所で、いつも通りの無表情で警戒に当たっていた。

 トモエは、ブラッドの隣で、静かにこちらを見ていた。

 セザールが、ラウルモンドの隣で、今にも飛び出しそうな顔をしていた。


「ねえさまーー!」


「セザール様、静かに」


「でも!ねえさまが!」


「今は、静かに。後でいくらでも言えます」



 ◇



 そして、祭壇の前に、アイゼンが立っていた。

 いつもの涼しげな表情が、今日だけは、少し違った。

 お父様が、私の手を、アイゼンの手へ渡した。


「……頼んだぞ。アイゼン」


(お父様がアイゼンって呼んだ)


「はい」


 二人で、祭壇へ向かった。



 ◇



 神父が、静かに口を開いた。


「私は神の代わりにお二人を祝福し、誓いの言葉を聞きます」


 アイゼンが、前を向いたまま、口を開いた。


「私、アイゼン・フォレストは、フォレスト国の王太子として、国民を守り、善政を敷くことを誓います」


 その声は、王太子としての重みを帯びていた。


「そして――エリカ・ルフェランを、生涯の伴侶として、家族として、共に歩むことを誓います」


 アイゼンは、私を見た。


「国も家族も他人任せきりにしない王太子になる。お前が望んだ家族を、必ず作るとここに誓う」


 その言葉に、胸が震えた。

 私も、口を開いた。


「私、エリカ・ルフェランは、アイゼン・フォレストの妻として、そして、フォレスト国の民と共に生きる者として、誓います」


 私は、深く息を吸った。


「国を愛するあなたを支え、尊重し、悩みを分かち合う。そういう家族を一緒に作ります」


 神父が、静かに頷いた。


「では、誓いの証として」


 アイゼンが、私の手を取った。

 指輪が、薬指に通された。


(良かった。普通の指輪だ)


 アイゼンが私の顔を覗き込みながら、小声で言った。


「何か言いたそうだな」


「……普通の指輪で、良かったと思って」


「当然だ。ただ、鎖は持ってきていない、というだけだ」


「アイゼン!」


「冗談だ」


 二人で小さく笑い合った。


「誓いのキスをもって、お二人が夫婦になったことを宣言し……」


 牧師の最後の言葉を聞かずに、アイゼンが私にキスをした。



 ◇



 式が終わると、私たちはバルコニーへ案内された。

 扉が開いた瞬間、歓声が耳を打った。

 王都の広場は、人で埋め尽くされていた。

 ルフェラン領の領民たちも、多く詰めかけていた。


「エリカ様ーーー!」


「ルフェランの聖女、エリカ様だ!」


「おめでとうございますーーー!」


 見覚えのある顔もあった。

 サムやウエイン、ナタリー。

 そして、孤児院の子供たち。

 一緒に領地改革に取り組んでくれた領民。

 未来のルフェラン領のために関わった人々。


(この人たちと、これから先も、一緒に生きていく)


 アイゼンが、私の手を取り、高く掲げた。

 歓声が、一段と大きくなった。


「フォレスト国に、栄光あれ!」


 誰かが叫んだ。


「王太子、王太子妃殿下に、栄光あれ!」


 その声が、波のように広がっていった。



 ◇



 披露宴の会場には、多くの料理が並んでいた。

 その中でも、ひときわ来賓たちの目を引いていたのは、二つの米料理だった。


「こちらは、牛肉のあぶりのせです」


 薄く炙った牛肉が、艶やかな一口サイズの酢飯の上に並べられている。


(前世で食べたことがある……はっきりとは思い出せないけど、また食べたいと思っていた料理)


 恐る恐る口に運ぶ。

 香ばしく炙られた牛肉と、ほどよい酸味の酢飯が口の中で溶け合い、思わず頬が緩んだ。


「エディ……すごい。これ、本当に美味しい」


 エディは照れくさそうに頭をかいた。


「ありがとうございます、お嬢様」


 もう一つの料理の前では、大勢の来賓が列を作っていた。


「こちらは焼き肉巻きです。甘辛い肉と野菜を、薄焼き卵で包みました」


 来賓たちは次々と焼き肉巻きを手に取り、笑顔を浮かべた。


「色合いが華やかだ」


「これは美味い!」


「米料理に、こんな食べ方があるとは!」


 感嘆の声が次々と上がる。

 セシル様も牛肉のあぶりのせを味わい、満足そうに頷いた。


「素晴らしい。ブリーズ王国でも、米料理の可能性を広げたいですね」


「エディ、これは魚でも応用できそうね」


「はい、お嬢様。そのつもりで研究を続けます」


(お米が、こんな形で国境を越えていくんだ……)



 ◇



 披露宴の終盤、国王陛下が壇上に立った。


「本日は、皆、よく集まってくれた」


 会場が、静まった。


「この慶事にあたり、一つ、発表したいことがある」


 国王陛下は、続けた。


「王太子妃エリカの専属護衛騎士団を、本日をもって発足する」


(私、専属?!)


 会場に、ざわめきが広がった。


「ここに集まった者たちは、皆、自ら志願した者たちだ」


 国王陛下は、壇上の脇に立つ数名を示した。

 そこには、リアンと、アンリ・トライヴァルが並んでいた。


「ライアン・ウラノスを王太子妃専属護衛騎士団隊長に任命する!」


 王家の影たちが人一倍大きな拍手を送った。


「アンリ・トライヴァル。王太子妃専属護衛騎士団副隊長に任命する!」


 騎士たちから歓声が上がる。

 二人が、揃って一礼した。


「彼らを筆頭に、専属護衛騎士団は、これからも王太子妃エリカの傍らを守る」


 会場から、拍手が湧いた。

 アイゼンが、私の隣で、静かに言った。


「自ら志願した、というのが、いいだろう?それだけじゃないぞ、後方を見てみろ」


(そこには孤児院で騎士を目指したいと木刀の素振りをしていた子たちがいた)


「アイゼン……」


「命令されたのではなく、選んだ人間たちだ。お前を守りたいと、自分の意思で決めた者たちだ」


 私は、王太子妃専属護衛騎士団員たちを見た。


(この人たちも、私の周りにいる奇跡の一部だわ)



 ◇



 夜が更けていく頃――。

 私はアイゼンと、二人でバルコニーに出ていた。


「アイゼン、長かったですね」


「本当に長かった……でも、どの時間も私たちには必要だったと思う」


 アイゼンは、少し目を細めた。


「エリカ。改めて言わせてくれ」


「はい」


「エリカ・フォレスト。あなたを愛している」


 アイゼンは私の手を取る。互いのブレスレットが当たり小さく音がした。


「アイゼン・フォレスト。私もあなたを愛しています」


 私はアイゼンの目を見て言った。


「今日の誓いの言葉は本気だ」


「……はい」


 窓の外に、フォレスト国の夜が広がっていた。

 星が、たくさん出ていた。

 広場には、まだ多くの領民たちの明かりが揺れていた。


(私たちはこの明かりを守らないといけない。たくさんの人たちに支えてもらいながら)


 手首のブレスレットが、星の光に、静かに揺れていた。

 あとがき


第99話をご覧いただき、ありがとうございました!

ついにエリカとアイゼンが夫婦となりました。

この結婚式は、二人だけでなく、家族や友人、領民、そしてこれまで出会ってきた多くの人たちに支えられて迎えられた一日です。だからこそ、結婚式そのものよりも「ここまで歩んできた軌跡」を大切にしながら書きました。


次回はいよいよ最終話。

二人が歩み始めた未来を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


いつもブックマーク、評価、感想、本当にありがとうございます!

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