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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
Love begets love ~愛が愛を生む~

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第98話 まだ見ぬ少女のために

 その日、私はトモエからもらった『恋の劇薬』を読み返していた。

 妊娠中は激しい動きを控えるよう言われていて、自然と本と向き合う時間が増えていた。

 ページをめくりながら、ふと手が止まった。


 『人の恋は蜜の味』の主人公(ユア)のページだった。

 攻略対象を誘惑し、婚約者や家族から奪っていく悪役令嬢として描かれた少女。誰も幸せにならない物語――。


(そして、まだ生まれていないトモエとブラッドの娘)


 でも、いつかこの世界に生まれてくる。


主人公(ユア)は、どんな子ども時代を送るんだろう)


 ゲームの設定では、主人公(ユア)の母親は彼女の破綻した人格形成の要因の一つ。幼い主人公(ユア)にトラウマを与えた人物だった。


(どうして、彼女は自ら命を絶ったのか)


 プレイヤーとしては設定として深く考えなかった。

 でも今は違う――。

 トモエもブラッドも友人であり、ここまで一緒に物語(せかい)を変えてきた仲間だからこそ、見過ごせない。


(産後うつ、孤立、育児不安、周囲の無理解……原因は色々考えられる)


 主人公(ユア)の母親の孤独を、トモエが書いたゲームの設定の中に見た気がした。

 トモエがかつて執筆した、ユアの母親という一人のキャラクター。


 実の両親も覚えていない孤児院出身の少女。

 親に決められ結婚しただけの夫。

 自分の心の内を話せる相手もいない。

 気を使わなければいけない屋敷。

 誰にも弱音を吐けない日々。


(……想像するだけでも悲しい)


(今のトモエは、あの頃書いたユアの母親とは違う。スタール男爵家の一員として、ブラッドという理解者もいる。境遇は、もう全然違うはずなのに)


(それでも――産後うつという症状は、環境が良くなったからといって、必ず避けられるものじゃないのかもしれない)


 私は本を閉じ、しばらく考えた。


(今の私に出来るのは――)



 ◇



 翌日、トモエを呼んだ。


「トモエ、少し話せる?」


「うん。どうしたの?」


 トモエは、いつものように静かに席に着いた。


主人公(ユア)のことを考えていたの」


 トモエの表情が、わずかに動いた。


「……私の子どものこと?」


「うん。ゲームでは、主人公(ユア)の母親の症状って、産後うつだったんじゃないかって、思って」


 トモエは、しばらく黙っていた。


「……私が書いたシナリオには、そこまで描かなかった。でも、ブラッドも産後うつを疑っているわ」


 トモエは、少し間を置いてから、静かに続けた。


「……理由があって書いたわけじゃなかった。ただ、そういうキャラクター設定にしただけ」


 その言葉に、胸が痛くなった。


(今のトモエは設定通りではない。それでも、あの本が現実になるなら……私がトモエを守る)


「トモエ。お願いがあるの」


 私は、トモエを真っ直ぐ見た。


「王妃付き宮廷作家として、私の傍にいて欲しいの」


「……宮廷作家?」


「表向きは、王家や子供たちの記録を残す文化的な役割。裏では私の前世の記憶保持や今までみたいに相談相手になって欲しいの」


「そんな勝手に決めて……」


「アイゼンにも相談した。意図してないけど、今回、誘拐事件の主犯の思想にまで影響した作家なら王宮で管理すべきって役職を作ってくれたの」


 トモエは、目を瞬かせた。


「……もちろん、それだけじゃないわ。アイゼンがね、これから生まれる王家の子どもたちの成長を記録する者が必要だ!って言ってるの」


「私が、宮廷作家……」


「トモエにしかできないと思っている。言葉で人の心を動かすことができるから」


 トモエは、目を瞬かせたまま、しばらく黙っていた。


「……シナリオライターとして、誰も幸せにならない話を書いてきた私が?」


「それは、いつの話?『雪の花 桜のかほり』の舞台は、セシル様もネージュ様もあなたの作品に感激してたわよ」


 私は、続けた。


「誰も幸せにならない未来を知っているあなたなら、一緒に幸せになれる未来を残せると思っているわ」


 トモエは、しばらく下を向いていた。


「……ブラッドと相談してみる」


「うん、前向きに検討して」


「でも、私が傍にいても、全部は変えられないかもしれないわよ」


「分かってる。その時は、みんなで考えましょ。私たちは一人じゃない」


 私は、窓の外に目を向けた。


主人公(ユア)がこの世界を愛せるように、少しでも変えたい)


「環境や出会いで、運命は変わる」


 私は、お腹にそっと手を当てた。


「それを、私たちは証明してきたじゃない!」


 トモエは、少し目を伏せた。

 そして、静かに頷いた。


「……うん。そうだったわ!」


 窓の外に、フォレスト国の空が広がっていた。


 まだ見ぬ少女のために――。

 これからの未来のために――。

 今、この瞬間に私たちができることを、一つずつ積み重ねていく。

 あとがき


第98話を読んでいただき、ありがとうございます!

今回は、ゲームでは悪役令嬢として描かれたユアの「生まれる前」の物語でした。


人は、生まれた時から悪人でも善人でもありません。 環境や出会いによって、人生は大きく変わります。


なお、今回エリカが読んでいたのは、短編『恋の劇薬~弔いのレクイエム~』の物語です。作中で触れた設定や世界観も描かれていますので、気になる方はぜひあわせてお楽しみください。


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、評価やリアクションで応援していただけると励みになります。


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