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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
Love begets love ~愛が愛を生む~

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第93話 ハーデン公爵令嬢の矜持【後編】

 廃工場の前に着いた時、すでに数人のルナエクリプスが周囲を囲んでいた。


「建物内に十二名。マーガレット様は奥の部屋に。今のところ、無事です」


 パメラに報告が入る。


「十二名か……」


 ヘンリーが、唾を飲んだ。


「正面から行くのか?」


「裏口と窓からも同時に入れれば、分散できる」


 パメラが、建物の構造を確認しながら言った。


「ルナエクリプスが三方向から入る。テオドアとヘンリー様は正面で陽動して」


「分かった」


 テオドアが、剣の柄を握り直した。


「エリカ様は後方で——」


「一緒に行きます!」


「危険です」


「マーガレットが私の代わりに囚われているんです。後ろで待っていられません」


 パメラは、一瞬、私を見た。


「……リアンと一緒に動いてください。絶対に離れないで」


「……わかった」


「では、行こう」



 ◇



 作戦が動き出した瞬間だった。


「ちょっと、待った」


 後方から、声がかかった。

 全員が、反射的に振り返った。

 そこにいたのは——。


「アイゼン?!」


 アイゼンが、馬から降りてきた。

 その後ろには、護衛が十数名、静かに控えていた。


「恋人との逢瀬に来たのだが……どうやら、とんでもない場面に出くわしてしまったようだ」


 アイゼンは、廃工場を一瞥してから、穏やかに続けた。


「皆、心配症でな。護衛がいつもより多く付いてきた」


(アイゼンったら……)


「……全然、少しじゃないわ」


「恋人との逢瀬にしちゃ、ずいぶん物騒ですね、殿下」


 リアンがぼそっと言った。


「そういう影はなぜ、ここに?しかも、退団した弟まで連れて」


 アイゼンが皮肉で返した。


「お嬢の護衛ですよ」


 リアンは悪びれもせずに答えた。


 アイゼンが私の隣に立った。


「状況は?」


「建物内に十二名。マーガレット様が奥に」


 パメラが、迷いなく報告した。


「護衛を合流させる。指揮は?」


「パメラが……」


 私が答えると、アイゼンはパメラに視線を向けた。


「分かった。私の護衛の配置させる指示を出せ」


「……承知しました」


 パメラは、一拍だけ間を置いてから、頷いた。

 その時、また別の足音が近づいてきた。


「少々よろしいですか……」


 静かな声だった。

 ハーデン公爵が、従者を一人だけ連れて立っていた。


「……ハーデン公爵」


 私は思わず呟いた。


「宰相として、お二人に至急確認したいお話がありまして」


 ハーデン公爵は、アイゼンと私を交互に見た。


「王家として交渉には応じられない——それは変わりません」


 ハーデン公爵は、静かに続けた。


「殿下。宰相職を、本日付で一時休職いたします。それをお伝えに来ました」


 ハーデン公爵の声は、いつも通り、感情を抑えた声だった。

 けれど、その目が、わずかに揺れていた。


「こんな場所にか?」


「殿下もエスコートするなら、もっと良いお店をおすすめいたします」


 誰も、何も言わなかったが、皆がマーガレットの救出を目的としていた。



 ◇



 作戦が、動き出した。

 ルナエクリプスが三方向から侵入する。

 テオドアとヘンリーが正面で陽動。

 アイゼンの護衛が外周を固める。

 リアンとエディとハーデン公爵が中央ルートを進む。

 私は後方で待機することになった。


「行くぞ!」


 テオドアが、正面の扉を蹴破った。


「なんだ!?」


「侵入者だ!」


 建物の中が、一気に騒がしくなった。


「今だ!」


 パメラの合図で、三方向から同時に動く。

 乱闘が始まった。

 テオドアの剣が、男の得物を弾き飛ばす。


(剣術大会少年の部優勝の技は、本物だわ)


「テオドア、後ろだ!」


「分かってる!」


 ヘンリーが、背後から迫る男に体当たりする。


「ここにいる全員、この活躍をマリアに言ってくれよ!」


 エディがナイフを逆手に持ち、男たちの動きを封じていく。


「何者だ、おまえ!」


「ただの料理人だ」


 エディが男を峰打ちし、男を気絶させる。


 リアンは犯人の顔を見て、呟く。


「あのガキは、まだ懲りてなかったか……」


 一人逃げ出そうとした犯人を素早く捕らえる。その動きは、ルナエクリプスそのものだった。



 ◇



 奥の部屋の扉を、ハーデン公爵が自ら開けた。


「マーガレット!!!」


「……お父様」


 マーガレットが、縄で縛られたまま、床に座っていた。

 その顔に、傷はなかった。

 ハーデン公爵は、無言で娘の傍に跪き、縄を解いた。


「お父様……なぜ、ここに。宰相としての立場が……」


「黙りなさい」


 ハーデン公爵は、短く言った。


「おまえが無事なら、それだけでいい」


 マーガレットが、父親の胸に顔を埋めた。

 その場にいたリアンとエディが、そっと視線を逸らした。



 ◇



 建物の外に出ると、星が出ていた。

 乱闘はすでに収まり、男たちはルナエクリプスに拘束されていた。


「マギー!!」


 テオドアが、走り寄った。


「テオ!」


 マーガレットが、テオドアの胸に飛び込んだ。


「心配したよ!怪我はないか?」


「ごめんなさい……でも、エリカ様を守らないとって……」


「分かってる……。でも、もう無茶はしないでくれ」


 テオドアは、マーガレットを抱きしめたまま、離さなかった。

 少し離れたところで、ヘンリーがマリアに報告の早馬を手配していた。


 パメラは、壁に背を預けながら、その様子を見ていた。


「怪我はありませんか?」


 ガブリエルが、隣に立った。


「……ガブリエル、最高級の武器を用意したね」


「商人たるもの、常に最高品質を提供するのは当然です」


「ルナエクリプスに依頼出してくれたんだ?」


「そうじゃないと、パメラの立場が悪くなるでしょ?」


「……ガブリエルは私を喜ばせる天才だね」


「パメラ、あなたは特別ですから」


 ガブリエルは、それだけ言った。

 それだけだったが、その声が、いつもより少し低かった。

 パメラは、恥ずかしくて空を見上げた。


「おい、お父さんに紹介してくれないか?」


 二人の背後に立っていたのはリアンだった。


「これはこれは……ランドン商会の坊っちゃんが随分うちの娘に入れ込んでいるようで」


 ガブリエルの顔色が変わった。


「お父さん……あの」


「おまえに『お父さん』って呼ばれる筋合いはねぇ!!」



 ◇



「マーガレット!」


 私は、マーガレットの手を握った。


「ごめんなさい。マーガレット。私のせいで……」


「謝らないでくださいませ。私が決めたことです」


 マーガレットは、首を振った。


「でも——」


「エリカ様、これだけは覚えておいてくださいまし」


 マーガレットは、私を真っ直ぐ見た。


「家臣が主君を守るのに、理由はいりませんわ。あなたが進むのは、そういう道です」


「マーガレット……」


「今後、同じような場面になっても私は再び同じ選択をします」


 マーガレットは、すぐに表情を変えた。


「……では、このお礼として!宿屋の話、全部聞かせてもらいますわ!!」


(家臣が誇れる主君……その言葉を胸に刻もう)


「エリカ様」


 後ろを振り返るとハーデン公爵がいた。


「この度は、誠にありがとうございました。娘の父親として感謝の意を申し上げます」


 ハーデン公爵は深々と頭を下げた。


「勝手なことをして申し訳ありません……王家に嫁ぐ自覚が足りませんでした」


 私も頭を下げる。


「自覚されているなら、私から言うことはありません。ただ、今日、この場にいる者は地位や名誉では築けない関係です」


 ハーデン公爵は周囲を見回した。


「大切にしてください」


「はい」


 私は強く頷いた。


「ねぇ、エリカ様」


 パメラがリアンとガブリエルから逃げるように、こちらにきた。


「マーガレット様、無事だったけど、『傷もの』になっちゃったね」


 誰もすぐには言葉を返せなかった。

 その場の空気が少し重くなった。

 私ははっとした。

 ハーデン公爵を見る。


「貴族社会です。このようなことがあれば噂に尾ひれがつくでしょう。私は娘が一生独身でも構いません」


 ハーデン公爵はマーガレットを見る。


「あの!実は、とても優良物件があるのですが……」


 私はテオドア・ブラストについて説明した。彼の優秀さやマーガレットを大事にしていることを。ハーデン公爵が興味を持ったのは意外な点だった。


「ほほう。学園卒業後は、あのエイデン・ルフェランの執事に……」


 ハーデン公爵は悪巧みをするような顔をした。


「テオドア・ブラスト!」


 名前を呼ばれたテオドアがビクッと肩を震わせた。


「はい!」


 ハーデン公爵はテオドアを上から下まで見回した。


「先ほどの剣術の筋も良かった」


「ありがとうございます」


「異論がなければ、マーガレットの婿になれ!」


「?!」


 テオドアとマーガレットが驚いてる中で、パメラが舌を出した。


(パメラ……自分が女子会で聞かれるのを避けるために、わざとね)


 でも、ハーデン公爵、テオドア、マーガレットの顔を見ていたらパメラを怒る気力を失くした。


(収まるところに収まって良かった)



 ◇



 帰り際、アイゼンが私の隣に立った。


「怪我はないか?」


「ありません」


「そうか」


 少し、間が空いた。


「陛下に口答えする上、こんな無茶するとは……」


 アイゼンの声は、静かだった。


「心臓がいくつあっても足りない」


「ごめんなさい。でも——マーガレットを、見捨てられませんでした」


「分かっている。そこがエリカの良いところでもある」


 アイゼンは、少し目を伏せた。


「アイゼン……」


「エリカ、今度は私が言おう。次は、先に俺に言え。一人で勝手に決めるな」


「……はい」


「約束だ」


「約束します」


 アイゼンは、静かに頷いた。

 そして、私の手を取り、ブレスレットにそっと触れた。


「本当に……無事で良かった」


 夜風が、二人の間を吹き抜けた。

 あとがき


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ハーデン公爵がテオドアに興味を持った理由の一つは、短編『月桂樹の葉の音 ~選ばれなかった人~』で描かれています。公爵がなぜ迷わずテオドアを認めたのか、その背景もお楽しみいただけます。

気になる方は、ぜひそちらも読んでいただけると嬉しいです!


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、評価やリアクションで応援していただけると励みになります。

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― 新着の感想 ―
もうすぐ結末って感じですね。展開が胸熱でした! 大団円で恋蜜の呪いから解き放たれるといいなー。
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