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ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~  作者: めそこここ
Love begets love ~愛が愛を生む~

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閑話 ~Can you keep a secret?~

パメラ&ガブリエルの話です。

 女子会から数日後、パメラは日常に戻っていた。


 本日の夜会への潜入は、ルナエクリプスとしての仕事だった。

 薄暗い会場の端で、パメラはゲストに扮したまま、要人の動向を目で追っていた。


(あと少し。対象が廊下に出たら――)


「ねえ、君一人?一杯、付き合わないか?」


 突然、腕を掴まれた。

 振り返ると、赤ら顔の中年貴族が立っていた。

 酒の匂いが漂う。


「失礼します。急いでますので……」


「いいじゃないか。少しくらい」


 振りほどこうとしたが、男の力が思ったより強かった。


(まずい。ここで騒ぎを起こしたら任務が台無しになる)


「探しましたよ」


 穏やかな声が、横から響いた。

 パメラは、思わず声の方を見た。

 緑がかった髪。涼しげな目。

 見間違えるはずがない。


(ガブリエル……なぜここに?)


「ランドン商会代表のガブリエル・ランドンと申します」


 ガブリエルは、貴族に向かって優雅に一礼した。


「その女性は、私の婚約者でして」


「……婚約者?証拠でもあるのか」


 貴族が、値踏みするように二人を見た。

 ガブリエルは、少しも動じることなく、パメラへ向き直った。

 その手が、パメラの頬へ、そっと触れる。


(え……)


 顔が近づいてくる。

 パメラは、息を止めた。

 あと、数センチ――。


「……失礼した」


 貴族が、ぼそりと言って、その場を離れていった。

 ガブリエルの動作が、静かに止まる。

 二人の間に、奇妙な沈黙が落ちた。


「……助かったよ、ガブリエル」


 パメラは、努めて平静な声で言った。


「いいえ」


 ガブリエルも、いつもと変わらない口調で答えた。

 ただ、その視線が合わない。


(耳が赤い……)


 パメラは、そう思ったが、口には出さなかった。


「ガ、ガブリエルも来てたんだ」


「ええ。父の代理です」


 ガブリエルは背を向けた。


「……でも、来て良かった」


 パメラは聞き取れなかった。


「今、なんて言ったの?」


 ガブリエルは再びパメラの方を向いた。


「いえ。何も」


「あのさ……お礼がしたいんだけど」


 ガブリエルは、少し目を細めた。


「お礼、ですか?」


「……嫌なら別に」


「いいえ」


 ガブリエルは、すぐに答えた。


「喜んで」


(即答だった)


 パメラは、少し面食らったように黙った。


「では、都合の良い日を教えていただけますか?」


「……明日の放課後でいい?」


「問題ありません」


「……じゃあ、決まり」


 パメラは、それだけ言って、歩き出した。


「パムさん!」


 パメラは振り返った。


「そのドレス、とてもよくお似合いです」


「あ、ありがとう……」


 パメラは再び歩き出した。

 会場を出てから、パメラは早足になっていた。

 ……その理由を考えないようにした。



 ◇



 次の日の放課後、二人は王都の市場へ出た。


「どこへ行きますか?」


「別に、どこでも。ガブリエルのお礼なんだから」


「では、私の行きたい場所に付き合っていただけますか?」


「……オークション会場や競り市場は止めてよ」


「どういうイメージですか」


 ガブリエルは、微笑んだ。

 最初に入ったのは、香辛料の露店だった。


「これは、ブリーズ王国から入ってきたものです。以前より流通量が増えましたね」


「……やっぱり商売の話じゃん」


「失礼」


 次に入った果物の店でも、


「マンゴーの仕入れ値が下がりましたね。コーヒー事業の輸出ルートが整ったことで、リップル王国との交易が活発になった証拠ですね」


「今度は経済の話してる」


「……すみません」


「謝らなくていいよ」


 パメラは、少し笑った。


「ガブリエルの話を聞くの嫌いじゃないから」


 ガブリエルは、一瞬、驚いたような表情をした。

 すぐにいつもの笑顔に戻ったが、その目が、少しだけ柔らかくなっていた。

 市場を抜け、コーちゃん珈琲の前を通りかかった時、ガブリエルが足を止めた。


「少し休憩しませんか?」


「仕事場?」


「いえ、今日は仕事ではなく、新商品の試飲をしていただきたいのです」


「新商品の試飲?」


 カウンターでカップを受け取り、二人で並んで外に出た。

 パメラは、自分のカップを両手で包んだ。


「美味しい……」


「お口に合って良かった」


「これ、ミルクじゃない」


「これは大豆から作った大豆ミルクです。パムさん、ミルク苦手でしょ?」


「なんで知ってるの?!」


 パメラは素直に驚いた。家族にも言っていないことだった。


「商人の観察眼を甘く見ないでください。大豆ミルクならパムさんでも、コーヒーが楽しめるかなと思いまして」


「私のために作ってくれたの?」


「……」


 ガブリエルは照れたように目を逸らした。


「ありがとう、ガブリエル」


「……いえ」


 二人で並んで、コーヒーを飲んだ。

 特に何も話さなくても、不思議と居心地が悪くなかった。



 ◇



 その後、雑貨店に入った。

 ガブリエルは、棚に並んだ小物を一つひとつ丁寧に見ていた。


「今度は仕入れの参考?」


「いいえ」


 ガブリエルは、小さな髪留めを手に取った。


「良かった。まだ売ってました」


「誰かへのプレゼント?」


 パメラがそう尋ねるとガブリエルはその髪留めをパメラの耳の上で留めた。


「受け取っていただけますか?」


「え、えぇぇぇ!」


 普段、感情を乱さないように心がけているパメラでも、自分が取り乱しているのが分かった。


「店主、こちらこのまま着けて帰りたいのですが」


「はい、毎度あり。素敵な彼氏ね」


「「ち、違います」」


 店主の言葉に二人で否定した。


「こ、この前の夜会でこういうのがあったら、アクセントになるなーと思ったんです」


「そ、そうなんだ。こういうの着けることないから……に、似合うかな?」


 ガブリエルは柔らかな表情でパメラを見た。


「とても似合っています」


 パメラはドキドキしていた。緊張とは違う胸の高鳴りだった。

 夕刻に入った頃、人混みが増してきた。


「こちらへ」


 ガブリエルが、自然にパメラの手を取り、脇道へ促した。

 パメラは、そのまま一秒、固まった。


(手を……取られた)


「……っ」


「狭い道です。はぐれると困りますから」


 ガブリエルは、前を向いたまま、当然のように言った。

 その顔を、パメラは確認できなかった。


(ガブリエルは仕方なく手を繋いでるだけ。別に深い意味はないはず……)


 パメラは自分の言い訳に少し落ち込んだ。



 ◇



 ガブリエルが連れてきてくれたのは、広場の展望台だった。中央には大きな噴水があり、水面がオレンジ色に染まっている。

 近くで恋人たちが噴水にコインを投げ入れ、願いごとをしていた。

 しばらく、二人とも黙っていた。


「ガブリエル」


「はい」


「今日……楽しかった?」


「ええ。どうしてですか?」


「私ばかり嬉しかった……お礼するはずだったのに」


 パメラは頬を膨らませて唇を尖らせた。


「今も楽しいです」


 ガブリエルは、展望台から景色を見ながら、静かに言った。


「あそこのライトが屋根まで照らされている建物がランドン商会の本店です。ここから見ると大きく見える……」


「ガブリエル?」


「あんなに大きな商会を継ぐということ……思った以上に、重いんです」


 パメラは、少し驚いた。


「……弱音、初めて聞いた」


「そうですね。誰かに言ったのは、初めてかもしれません」


 ガブリエルは、少し苦く笑った。


「なんで私に……」


「パムさんも選べない立場でしょ?勝手に、親近感を覚えていたのかもしれません」


 パメラは俯いた。


「……それだけ?」


 ガブリエルはすぐには答えなかった。

 夕風が二人の間を吹き抜ける。


「……『それだけではない』と言ったら、困るでしょう?」


 パメラは、黙った。

 夕焼けの中、噴水の水が、静かに揺れていた。


「……困らないって言ったら?」


「え?」


「ガブリエルだったら、困らないって言ったら、どうする?」


 ガブリエルは、しばらくパメラを見た。


「……パメラって呼びたいです」


 パメラは息をのんだ。


「知っていたの?」


「ええ」


「じゃあ、どうして……」


「知っているから呼んでいいとは、なりませんから」


 パメラは選択を迫られていた。ルナエクリプスにとって素顔を明かすのはご法度だ。


(それでもガブリエルに知ってほしい)


「ねえ、ガブリエル。コインで決めよう」


「何を決めるんです?」


「コインを投げて表が出たら、『パメラ』って呼んでもいいよ」


 パメラが空高くコインを弾いた。

 ガブリエルがキャッチした。

 ガブリエルの目が珍しく大きく見開かれた。


「『表』だ!」


 ガブリエルは思わず声を弾ませた。


「ガブリエル、人前では呼ばないでよ?」


「かしこまりました。二人の時だけですね、パメラ」


 ガブリエルは、穏やかに答えた。


「……ガブリエル」


「なんでしょう?」


「まだ、お礼をしてないから、また二人で」


「それは、お礼ではなく……デートのお誘いと受け取っても?」


 ガブリエルは、涼しげな顔で言った。


「じゃあ……そういうことにしてあげる」


 ガブリエルは少し目を丸くした。

 それから、ふっと笑った。


「……光栄です」


 そう言って、穏やかに微笑んだ。



 ◇



 パメラは、噴水の近くにガブリエルの手を引いた。

 ポケットから先ほどのコインを取り出し、噴水へ投げ入れた。

 沈んでいく間に、先ほど裏だったコインが、水面でくるりと反転し、表になった。


「?!」


 ガブリエルは驚き、目を大きく開いた。

 パメラは悪戯っぽく、にぃーっと笑った。

 ガブリエルは自分の目元を手で覆いながら笑った。


「パメラには一生敵わない気がします」


 パメラは声を出して笑った。

 その笑顔を見て、ガブリエルもまた穏やかに笑った。

 あとがき


今回は、パメラとガブリエルのお話でした。

本作は『ママじゃない』の世界より未来、乙女ゲーム『人の恋は蜜の味』へと繋がる物語です。


ゲーム設定での二人の恋愛を描いた作品が『男装スパイは護衛対象に恋をする ~貴族らしからぬ二人は恋をまだ知らない~』になります。


『ママじゃない』では語られない、二人の恋の行方をぜひお楽しみください。


https://ncode.syosetu.com/n7928mi/

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