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第43話 優先順位が大事

 四グループ合同の訓練はなおも続いていた。廃村から少し距離を取り、その外周をぐるりと巡っていく。


 その途中で一行は出くわした。


 ヒノシシが十頭以上――廃村を除き、これまでで最大の群れだった。


 林のあちこちで戦闘が始まる。その中で、ヒカリのツインズが間断なく銃声を響かせていた。


 戦闘開始から数分、すでに敵の数を半ば近くまで削っていた。


「っ! もう! 多いよ!」


「ヒカリ! 右に飛べ!」


 ヒスイの指示に、ヒカリは考えるより先に体を投げた。木に隠れるように右へ。


 直後、背後の茂みからヒノシシが突っ込んでくる。ヒノシシの巨体が、左肩を掠めた。


「イタァ!? この!」


 倒れ込んだ勢いのまま、木の幹へ背中を叩きつけるように預ける。突撃をやり過ごした今、後ろを取っているのはヒカリのほうだった。二挺の銃口が火を噴く。十発以上の弾丸を尻に浴びたヒノシシが悲鳴を上げて転がった。


 すかさずリロード。今度は頭部へ容赦なく連射を叩き込む。いかにタフなヒノシシといえど、至近からの銃撃には耐えられない。びくりと痙攣して動かなくなった。


「はぁっ、はぁっ……やったーーきゃっ!?」


 ドンッ!!


 鈍い衝撃音が、すぐ横で炸裂した。


「危ない! ヒカリ! 立てるか!?」


 座り込んだヒカリの横合いから突っ込んできた別の一頭を、すんでのところで割り込んだダンが盾ごと押し込んで木へ激突させた音だった。


「っ! ごめん! まだまだ動けるよ!」


 ヒカリは言いながら立ち上がり、木に頭から突っ込んで目を回しているヒノシシの首へと鉛玉を叩き込んだ。


 二人は素早く周囲へ視線を配る。こちらへ向かってくる敵はもういなかった。


「あとは、サラっちとシキだね」


 ヒカリがそう呟いた、その時。影が頭上を掠めた。


 ダンが弾かれたように空を仰ぐ。


「コカリス! 成体だ! 上空警戒!」


 その警告とほとんど同時。リアはすでに詠唱を半ば終えていた。


「――束ねて一条! 撃ち貫け! ロア・スピア!」


 高速の白い矢が、風の魔法力を束ね終える直前のコカリスを正面から貫いた。


 巨体が声もなく墜ちていく。


「……はぁ、はぁ……やった」


 リアが膝に手をついて荒い息を繰り返す。消耗の激しいロア・スピアの実戦投入。コントロールには課題が残っていたが、それでも直撃させた。首元の纏いの首飾りが収束の負担を確かに減らし、そのぶんの余力が狙いへ回せるようになっていた。


   ◇


 一方、サラは二頭のヒノシシを一手に引きつけていた。


 木々を壁に使い、薙刀のリーチを活かして二頭の突進を丁寧にいなし続ける。慌てず、崩れず、翻弄する。守りの立ち回りに徹しながら、その目だけが冷静に「その瞬間」を待っていた。


 幾度目かの突撃をかわした、その刹那。サラと二頭が一直線に並ぶ。


 条件が揃った。


 防御一辺倒の立ち回りから一転、サラは鋭く踏み込んだ。右から斜めへルーラーを振り下ろす。刃が手前の一頭の左前脚、その付け根を深々と切り裂いた。


 そして返す足で、斬りつけた一頭を盾にするように位置を調整する。奥の一頭はサラを狙えなくなり、わずかに足が鈍った。


 それを確認した瞬間、振り下ろしていた薙刀が手首の返しひとつで跳ね上がる。渾身の斬り上げが、ヒノシシの首筋を深く抉った。さらに二刃、三刃。目にも留まらぬ速さで円を描く鈍色の軌跡が確実にヒノシシの命へ届いていく。


「待たせたわね」


 言いながら、引き絞った長柄を鋭い踏み込みとともに打ち放った。石突きまで使い切る一突きが、突撃態勢に入りかけていた二頭目の鼻面を弾く。鮮血が散った。


 その怯みをサラは逃さない。追撃の刃が数度閃き、堪らず倒れ込んだヒノシシの首へ深々とトドメの刃が突き入れられた。


 白く濁っていた双眸から光が抜け、真っ黒に変わる。


「ふぅ。あとは、シキね」


 リングストレージを死体へ翳しながら、サラは視線を転じた。三頭を相手取っていたはずのシキは、すでに残り二頭まで数を減らしている。


 その一頭がシキへ突撃をかけた。


 シキは逃げない。むしろ、そのヒノシシへ向かって鋭く踏み込み――跳んだ。


 速度と角度をぴたりと合わせ、突っ込んでくるヒノシシの顔面を足場にしてさらに上空へ。狙いは最初から、その奥へ位置取らせていたもう一頭だった。


「オラァ!!」


 裂帛の気勢とともに、右手のダガーを落下の勢いと体の回転を乗せて叩きつけるように投げ込む。短剣は広い背中へ深々と突き立った。


「ギジャァ!?」


 激痛によろめくヒノシシの、その目の前へシキが着地する――と同時に、再出現させていた直剣が頭をかち割っていた。


「返せよな」


 倒れ込むヒノシシの背からダガーを引き抜く。そのまま体を回し死体の裏へと滑り込んだ。


 踏み台にされた一頭が、再度の突撃態勢を取ろうとして――足を止める。仲間の死体が突進の線上を塞いでいた。


 その攻撃中止の隙をシキが逃すはずもない。


 ――いや。


「狙い通りだろ、っと!」


 隙を待っていたのではない。死体の位置まで含めてそう仕向けたのだ。


 シキはダガーを大きく振りかぶり、投げ放った。同時に、最後の一頭へ向かって疾走する。


 唸りを上げて飛んだ短剣はヒノシシの牙に当たって弾かれた。だが、それでいい。相手が一瞬怯んだ時には、シキはもうストレイターの間合いにその巨体を捉えていた。


「――フッ!」


 疾走の勢いを一切殺さず、横を抜き去る。交差の瞬間、再出現させた直剣を真っ直ぐ鼻面へ突き込んだ。衝撃で剣が後方へ弾かれる。構わずリターンで格納し、即、再召喚。


 深手に怯んだヒノシシの裏を取り、シキは反転した。その回転の力ごと後ろ足を強襲する。骨のへし折れる音が林に響いた。


「じゃあな。良い練習になったぜ」


 もんどりうったヒノシシの首へ、ストレイターが真っ直ぐ穿った。


 こうして、五日目午前の訓練が終了した。


   ◇


 午前の訓練と並行して進めていた探索は、もう一つの収穫をもたらしていた。香辛料になりそうな植物が、まとまって群生している一帯を発見したのだ。リアの感覚でも、このあたりは魔法力の偏りが穏やからしい。プルアの木が群生していた、あの野営地に近い環境なのかもしれなかった。


「三つ目のキャンプ地候補ってとこだけど……プルア村を奪還できたら、わざわざここでキャンプする理由はねぇな」


 場所は廃村となっているプルア村から、さらに南西へ一キロほど離れた地点。街からはかなりの距離がある。とはいえ、わざわざ戻る手間を思えば昼休憩を取るには上出来な場所だ。一行はここへ腰を落ち着けることにした。


 各グループが魔石コンロを広げ、昨日のうちに仕込んでおいた肉串を焼いていく。三十人からの人間が一斉に飯の支度をするのだからなかなかの騒ぎだ。その中で、ヒスイとダンが手際よく指示を飛ばして場を回している。この手の集団行動はどうやら二人の得意分野らしい。


 やがて周囲の見回りから戻ったシュリが、仲間へ二、三の指示を出してから、シキへ声をかけてきた。


「周囲を確認してきたが、君たちの見込みどおりモンスターの影は薄かった。廃村のほうへうっかり近寄らなければ問題はないだろう」


「人数がいると助かるぜ。俺たちも無傷じゃなかったからな」


 言って、シキは座り込んでいるヒカリへ目をやった。


「ヒカリ、大丈夫か?」


 ヒカリは野営用に買い込んだ木製の椅子に腰かけて笑顔を返してきた。その左肩には、リアが冷たい水で絞った当て布をあてがっている。


「だいじょぶだよー。ちょっと痛むけど、少し休めば問題ないかなー」


 リアが申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめんなさい。わたしの魔法力が戻っていなくて……リジェアを使えれば良かったのですが」


「ほんとに気にしないでってば。リアちゃんがあそこで一撃でコカリスを落としてくれたから、スムーズに戦いが終わったんだしね」


 これはヒカリの言うとおりだった。もしあの場で上空からの攻撃を許し、戦線を混乱させられていたら被害がどこまで膨らんでいたか分かったものではない。ロア・スピアの一撃はそれだけの価値があった。


 それに、とヒカリはシキのほうを見る。あれだけの立ち回りを披露しておいて、今はもうけろりと涼しい顔だ。その切り替えの早さにはいっそ舌を巻く。


「シキもさ、一人でヒノシシ三体まとめて相手してたでしょ? 突撃してきたヒノシシを踏みつけて飛んで、回転しながらダガー投げて、着地しながら剣で斬るとかさ。もうだいぶ普通じゃないよね」


 シキは得意げに笑った。


「明日に向けて良い練習になったぜ。あとは、あれを成体三体くらい相手にできればなぁ」


 シュリがくすりと笑みをこぼす。


「練習であれだけの動きを披露するのは意図的か。失敗を恐れないな、君は」


 そこへ、焼き上がった肉串を木皿に山と盛って、ダンとナイクがやってきた。


「焼けたぞ。やはりヒノシシの肉はいいな。これだけの大人数がいてもお構いなし、実質の食い放題だ。……むしろ、雷の魔石の欠片が尽きないかのほうが心配だな」


 ダンの言うとおりだった。魔石コンロを動かすには、火と雷、二種の魔石の欠片が要る。火の欠片はヒノシシがいくらでも落とすが、雷の欠片は南エリアでは採れない。今のところ交換か購入でしか手に入らないのだ。この管理も今後の課題になっていくだろう。そのあたりは街に残っているサクヤの働きに期待、といったところだ。


 ナイクから肉串を受け取って、シキは礼もそこそこに頬張った。香辛料をたっぷり効かせた味わいが、汗を流したあとの体に染みる。


「美味い! マジでこの先レパートリーが増えるといいよな。魚とか」


「魚といえば」


 ナイクが自分の串を齧りながら応じた。


「東エリアのほうは水場が多くて、釣りに挑んでるやつも結構いるって聞くぜ。バトル無しで食料が手に入るってんで、かなりの人数が流れてるらしい。モンスターは大型だけど、今のところ群れは無いらしくてな。回避もしやすいんだとよ」


「へぇ。……いいのかよ、そんな情報をタダで喋っちまって」


「たまにはサービスしとくわ」


 どっと笑いが弾けた。


 三十人からの人間が車座になって肉串を頬張り、笑い合っている。過酷な世界の、束の間のにぎやかな一時だった。


   ◇


 昼のバーベキューも終わりかけた頃、ダンがシキのそばへやってきた。


「シキ、少し戦闘に関して助言をもらいたい。いいか?」


「え? もちろんいいけど」


 そのやり取りに、真っ先に反応したのは近くにいたヒカリだった。


「あたしも! あたしもアドバイスほしい!」


「いいけど……何が聞きたいんだ?」


 すると、どうしたことか。話を聞きつけたナイクやシュリたちが寄ってきて、片付けの手を止めたサラやヒスイまで集まりはじめ、気づけばこの場にいたほとんど全員がシキを囲むように腰を下ろしていた。


 その光景にヒスイが茶々を入れる。


「シキ先生のバトル講座だな! おもしれぇじゃん、俺たちにも聞かせてくれよ」


 シキはずらりと並んだ面々の顔をぐるりと見渡して――頷いた。


「バトル講座ね。じゃあ、金取るかな」


 うーん、としばし考えてから、指を一本立てる。


「ダガーがもう一本欲しいんだよ。今使ってるのと同じやつでいい。一万フローな」


 ナイクが噴き出した。


「この人数でダガー一本かよ。気前がいいな」


 ベルカも腕を組んで頷く。


「いいだろう。安いものだ」


 他の面々からも異論は出なかった。むしろ即決だった。ハルシオンロードの戦いぶりは、今朝から嫌というほど見せつけられている。その中心にいる男の頭の中身が一万フローで買えるなら、確かに安い。


「よし。街に戻ったら買ってもらうか。……じゃあ、ダンが最初に質問してくれたからな。まずはそれに応えるよ。何が聞きたかったんだ?」


 ダンが一歩前へ出た。


「シキの戦闘中における意識や考え方について聞きたい。俺などは盾役でもあるから、まずは自分を含めて仲間を守ることを考える。だが、たまにだが攻撃をすべきか防御をすべきかで迷い、足が止まってしまう瞬間がある。俺が見る限り、シキはこの場の誰よりも切り替えが早い。その秘訣を聞きたくてな」


 これに、ヒカリも勢いよく手を挙げた。


「それ! あたしも同じこと聞きたかったんだよね! あたし銃でしょ? 敵を釣ったり、牽制したり、他の人のフォローもしないとだしで、頭こんがらがっちゃうんだー」


 ぽつぽつと、周囲で頷く頭がいくつも見えた。同じ悩みを抱える者はどのグループにもいるらしい。


「なるほどね。……時間もないし、簡単に説明するよ。深掘りしたら何時間もかかるやつだぜ」


 シキがそう前置きすると、真っ先にサラが釘を刺した。


「シキは話が長くなりがちよ。簡潔にまとめてちょうだい」


「ひでーな」


 シキも笑いながら応じて、さて、と切り出した。


「どこから話すか。……まず俺の意識だけど、一に攻撃、二に攻撃。三、四も攻撃で、五に攻撃。六から十も、全部攻撃だな」


 この回答には、ヒカリが真っ先に不満の声を上げた。


「シキは攻撃役だもん! そりゃあ考えることはシンプルだよねー」


 周囲にも頷く者が多い。だが、ダンだけは違う感想を持ったようだった。


「いや、同じ前衛として戦っているからわかる。シキは防御や回避、パーティーの連携も疎かにはしていない。攻撃への切り替えが早い、それだけだ」


「そうかなー? 何も考えずに突っ込んでるように見えるけどねー」


 ヒカリが遠慮なく突っ込む。


 シキは至って真面目な顔で頷いた。


「二人とも正解だぜ。俺は守りを軽視してるわけじゃない。それでいて、何も考えずに突っ込んでるってのも、過言じゃないな」


 場に怪訝な空気が流れた。どう聞いても矛盾した言い回しだった。


「つまりな、スポーツ用語的な言い方をするけど――行動可能選択肢優先順位付け。こういう考え方が大事なんだ」


 全員が面食らった。


 ヒカリが思い切り首を傾げる。


「……えっと? 行動可能……なに?」


「行動可能選択肢優先順位付け、な。……サラ、なるべく簡潔に説明すると、この言葉で終わりなんだけど。どうする?」


「……続けてちょうだい」


 お手上げといった様子のサラに、シキがニヤリと笑った。


「いいぜ。さすがにこれでダガー一本分の価値があるとは言えないよな。ま、簡単に言うと――今、何をすべきか。何をしたいか。何をしたほうがいいか。何をすべきではないか。これをまとめると、さっきの言葉になるわけだ」


 シキはそのまま続けていく。


「そもそもだけど、こんなのは全員がやってることなんだよ。意識してるかはさておきな。たとえば飯を食いたいって目的があったら、所持金がいくらだとか、家で食うか外で食うかとか、そういうのを考えるだろ?」


 ベルカが口を挟んだ。


「仕事でも同じかもしれんな。目標を立て、どういう方針で進めるかを決める」


「それそれ。で、スポーツ……いや、この世界のことだからバトル前提で話すけど。バトルの場合、この判断をコンマ一秒の世界で下し続ける必要がある。つまり、考えてたら遅いってことだ。さっきダンが言ってた『足が止まる』ってのは、これだろ?」


「反射で決断しないと遅い、か。確かにそうかもしれんが……難しいだろう」


 ダンの声には実感がこもっていた。判断ミスが自分や仲間の命に直結する。その重圧の中で反射の決断などというのは、まさしく机上の空論に聞こえた。


 シキもそこは否定しなかった。


「難しいと思うぜ。セオリーもなければルールもない。しかもこんな武器を持って生き物を殺して回るんだぜ? 簡単なわけねぇよ」


 それで、と今度はヒカリへ目を向ける。


「ヒカリがさっき言ってた、選択肢が多すぎてこんがらがるってやつな。あれがつまり、行動可能な選択肢が多すぎて、優先順位をつけられなくなってる状態だ」


 シキの解説は止まらない。


「一番簡単な対処法は、選択肢を削ることだ。すべきこと、したいこと、したほうがいいこと、してはいけないこと。このうち、まず『してはいけないこと』を省く。してはいけないんだから、考える必要がそもそも無いよな。これはけっこう簡単で、自分の中にルールを決めておくだけでいい。……普段の買い物で万引きなんて考えないだろ? でも、万引きするやつは商品の場所とか、出入り口とか、防犯カメラとか、めちゃくちゃ考えることが増えてるはずなんだよ」


 おお、と感嘆の声が上がった。やらないと決めたことは頭から消える。裏を返せば、決めていないから、あれもこれもと頭に居座るのだ。


「で、具体的にだけど……ダン、ヒカリ、ちょっと前に来てくれ」


 シキは二人を呼び出すと、自分の目の前にダンを立たせて盾を構えさせ、ヒカリを自分の右斜め後ろに置いて短銃を構えさせた。


「この盾を構えてるダンを、ヒノシシに見立てる。この状況なら、考えるべきは攻撃だ。さて――俺はどう攻撃するのがいい?」


 観衆へ問いかけながら、シキはストレイターを右から横薙ぎに、ゆっくりと振ってみせた。ダンがそれを盾で受ける。


「この形、攻撃としては下策だよな。ヒカリが狙えなくなってる」


 シキの体とダンの盾が、ちょうどヒカリの射線を塞ぐ位置関係になっていた。ヒカリが頷く。


「うん。一歩ズレないと狙えないかも」


「だよな。じゃあ、こっちなら?」


 今度は左側から剣を振るう。受けるダンは、自然と体の右側へ盾を寄せる形になった。


「あ、狙えるね!」


「俺の側面が空くわけだな」


 ヒカリとダンが、それぞれの位置から頷いた。


「そうそう。つまり、俺が今やってるのは『攻撃のための牽制』だ。俺が敵の向きをコントロールして、ヒカリに仕留めさせようとしてる。じゃあ逆に……」


 シキは、ヒカリに背中を向けるよう指示した。


「この状態はどうだ? もし俺が押し負けたら、ダンは……ヒノシシは、無防備なヒカリに矛先を向けられるよな。だから、今の俺に必要なのは『守るための攻撃』だ」


 再度、右から剣を振るってダンに受けさせる。シキの体が、ヒカリへの進路をぴたりと塞ぐ形だった。


「この形なら、ヒカリを直接攻撃させるリスクは大きく下げられるだろ? 攻撃は攻撃でも、何のための攻撃か。何をするための防御なのか。それを考えるのが、最初に言った行動可能選択肢優先順位付けってわけだ」


 同じ「剣を振る」という動作が、狙いひとつでまるで別の手に変わる。目の前で示されるとその違いは一目瞭然だった。観衆のあちこちで、なるほど、と唸る声が漏れる。


 シキが総括に移った。


「長々と説明したけど、まずは今、攻守どっちの方針で行くか。これをはっきりさせることだ。乱戦になった時ほど、あれもこれもって考えちまうけど、その瞬間にできることなんてせいぜい一つだ。……で、決めた方針に沿って二手目を想像できれば、一手目の選択肢も自ずと決まるだろ。ま、あとは練習して慣れてくれ」


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