第16話 開拓者ギルド
翌朝。
まだ早い時間のうちに六人は朝食を済ませると、すぐに宿を出た。
昨夜のうちに方針は固まっている。まずは開拓者ギルドへ行き、加入の要件を自分たちの目で確かめる。話はそれからだ。
南大路を、朝の光の中で歩く。昨日の夕暮れとは、また違う顔の街だった。早朝ということもあって、まだ動き出している開拓者は少ないようだ。無理もないと思う。多くの人が眠れぬ夜を過ごしたであろうことは想像に難くない。
「あれだな」
ダンが通りの先を指した。
南大路に面しており、他の建物より一回り大きく、堅牢な造りの施設が建っていた。石を積み上げた重厚な壁。入口の上には、剣と盾と、それを取り巻く環をかたどった紋章が掲げられている。いかにも、開拓者の本拠地といった佇まいだった。
「ここが開拓者ギルド……」
リアが緊張した面持ちで建物を見上げる。
六人はその大きな扉をくぐった。
◇
中は広々としていた。
高い天井に、磨かれた石の床。壁の一面には無数の紙が貼り出された巨大な掲示板がある。あれが、依頼を貼り出すボードだろう。受付らしきカウンターには職員が数人。だが、施設の広さに対して、利用客の姿はまばらで、街の住民のようだった。開拓者の姿は見えない。
「思ったより、人がいねえな」
ヒスイがきょろきょろと見回す。
「当然でしょう。ここに所属できる開拓者は、まだほとんどいないはずよ。要件が厳しいんだから」
サラが声を落として応じた。
六人は空いている受付のカウンターへ向かった。応対に出たのは、てきぱきとした物腰の女性職員だった。
「いらっしゃいませ。開拓者ギルドへようこそ。ご用件をどうぞ」
「ギルドへの加入を考えてる。加入要件を正式に確認させてほしいんだ」
シキが代表して切り出すと、職員は淀みなく答えた。
「かしこまりました。当ギルドへの加入には、二つの実績が必要です。一つ、敵性モンスターの討伐二十体。一つ、ギルドを通じた街の依頼を三件完了すること。この二つを満たした時点で、加入資格が認められます」
昨日ダンたちから聞いた話と相違ない。シキは頷きながら念のため確かめた。
「俺たちパーティーを組んでるんだ。六人でな。その場合、討伐数とか依頼の数は、人数分必要になるのか?」
「いいえ。実績はパーティー単位で計上されます。一つのパーティーは最大十名まで。六名のパーティーであれば、合計で二十体の討伐と、三件の依頼。それを満たせば所属が認められます」
「お、それなら助かるぜ。一人二十体とかじゃ、骨が折れるからな」
ヒスイがほっとした顔をした。六人で二十体なら、十分に現実的な数字だ。昨日のうちに、すでに十体は倒している。七体はシキ達が、三体はダン達が。
「ただし、パーティー単位でギルドへの加入をする場合、討伐数として計上されるのはパーティー登録後の討伐のみとなります。登録前に倒した分は、実績には含まれません。あらかじめご了承ください」
職員が、すっと言葉を継いだ。
「……え」
その一言に、ヒスイの表情が固まった。
「ちょっと待ってくれよ。じゃあ、昨日倒した七体はカウントされねえのか」
「されません。これは、戦闘の経験がない方を無条件にギルドへ加入させないための措置です。お一人でもパーティーに未経験の方がいらっしゃる場合、改めて、登録後にパーティー全員で実績を積んでいただく必要があります。あくまで新規登録の場合は、ですが」
職員はにこやかに、しかしきっぱりと言い切った。
リアが申し訳なさそうに身を縮めた。戦闘経験のない人間というのは、明らかに自分のことだ。
「いや、リアが気にすることじゃねえよ。これから二十体倒せばいいってだけのことだろ。なら、話は簡単だ」
シキがすかさずフォローする。実際問題として、これから外に打って出るなら十体や二十体など誤差の範囲と感じる。
「シキの言う通りね。二十体討伐と依頼三件。この二つをこれから満たせばいいだけよ。それに、昨日の感じなら二十体なんてあっという間だわ」
サラも頷く。切り替えの早い二人に、リアは少しだけほっとしたようだった。
◇
「では、依頼ですが。あちらのボードに現在受注可能な依頼が貼り出されています。パーティーで受けられるものをお選びください」
職員が壁の掲示板のほうへ手を向けた。
六人はぞろぞろとボードの前へ移動した。
貼り出された紙には、討伐や採取の依頼が並んでいる。シキは、その中から、討伐の依頼に目を走らせた。どうせ二十体倒すなら、依頼の対象を狙って倒すのが一番効率がいい。
「お、これとか良さそうだな。ヒノシシの成体、討伐三体。報酬は……六〇〇〇フロー、か」
シキが一枚の紙を指した。
「六〇〇〇? 成体三体も狩って、たったの六〇〇〇かよ。あのまだら、火球撃ってくるんだぜ。割に合わなくねえか?」
ヒスイが紙を覗き込んで眉を上げた。
「むしろ、それで状況がわかるわね。報酬六〇〇〇は、討伐系では最安だわ。つまり、ギルド側としては一番簡単な難易度という明示だわ。私たちは今、その一番下の階段から始めようとしているというわけね」
サラが冷静に言った。
「うへぇ。先が長ぇな……」
ヒスイが肩を落とした。
シキはボードからもう二枚、討伐の依頼を選び出した。
「これと、これも討伐系だ。――ヒグアナの成体討伐三体。それとコカリスの成体、討伐三体」
ダンが進み出た。
「ヒグアナか。おそらく昨日話したトカゲ型のモンスターのことだな。街道跡の奥、岩肌の目立つあたりに出る。成体は見かけていないから、奥に踏み入る必要があるだろう」
その単語に、サラの眉が、ぴくりと寄った。
「トカゲ……。やっぱり、私が最初の草原で戦った相手の成体ね。二度と見たくなかったけれど、仕方ないか。ヒノシシよりも早い上に、魔法攻撃もあるなら厄介かもしれないわね」
「火を吐くイノシシにトカゲか」
シキが頷いた。火を吐かない幼体と、火を吐く成体。南の外に出るモンスターは、揃って火属性ということだ。
「で、最後のコカリスってのは……これは聞いたことねえな」
シキが首をひねると、職員が補足した。
「コカリスは、四枚の羽を持つ飛行型のモンスターです。黒と緑のまだら模様が特徴ですね。こちらも、街道跡の周辺に生息しています。――そうそう、コカリスは風の魔石を落とすことで知られていますよ」
「風の魔石!」
声を上げたのはリアだった。普段の遠慮がちな様子からは想像もつかない、勢いのある反応だった。
「あ……す、すみません。でも、風の魔石はすごく便利なものみたいなので」
リアが頬を染めて俯く。だが、その目は、隠しきれない興奮で輝いていた。昨夜、自分が「各地で採れる」と話した、あの風の魔石。それを落とすモンスターがすぐ近くにいる。
「ますます、これを受けない手はねえな。ヒノシシ成体三、ヒグアナ成体三、コカリス成体三。これで、依頼は三件。討伐数も成体九体に、道中で倒す幼体を合わせれば、二十体には余裕で届く。一石二鳥だ」
シキが、にっと笑った。
「依頼の対象を狩りながら、討伐数も稼ぐ。無駄がないわね。採集系の依頼もあるということは、道中ではいろいろ見つかるのかもしれないから、気にしておきましょうか」
サラも同意した。
六人はその三件の依頼を、ギルドで正式に受注した。職員がパーティーリーダーであるシキのリングストレージに、依頼の情報を登録していく。
「皆さまのご帰還をお待ちしております。ご武運を」
職員が丁寧に頭を下げた。
◇
ギルドを出ると、六人はそのまま必要な装備と道具の調達に取りかかった。
昨日の探索で、店の場所もおおよその相場も掴んでいる。手分けして、効率よく回っていった。
まず、案内所に立ち寄る。火の魔石の欠片を、他の属性の欠片と交換するためだ。開拓者ギルドでもできたらしいが、案内所の下見も兼ねていた。
「水の魔石は優先して確保しておきたいわね。飲み水を作れるかどうかは、外で活動する時間に直結するわ。火の魔石が今日のところは余り気味だから、いくつか水と交換しておきましょう」
サラの提案にリアが重ねて伝える。
「旅をするなら土の魔石も必要だと見ましたよ。なんでも、生活排水とかを地面に捨てたあと、土の魔石も一緒に置いておくと環境に良いのだとか」
ダンが意外そうな顔をするが、真剣な表情で頷く。
「ミミネコも周辺環境を整える役割があると言っていたな。同じような効能があるのだとすれば確かに重要かもしれんぞ。俺の手持ちの火の魔石を二つ交換しておこう」
火おこしと調理に必要な火の魔石は手元に残しつつ、余剰分を水の魔石の欠片と交換する。これで、専用の水筒さえ手に入れば、水場ありきだが外でも飲み水に困らない。そして、環境整備に役立つかもしれないという土の魔石も手に入れた。
次に、武器屋と防具屋を回った。
シキはしばし迷った末に、腕を覆う防具と、より頑丈な靴を買った。昨日、火球で焼かれた左の二の腕。あの時、まともな防具があれば火傷も負わずに済んだかもしれない。そして靴は――足は、自分の戦い方の要だ。蹴りも、踏み込みも、すべては足から生まれる。底のしっかりした靴はそれだけで武器になる。
「シキはほんとに足癖が悪いよなぁ。ヒノシシ、何度も蹴っ飛ばしてたもんな」
ヒスイがからかうように言った。
「立派な戦術だっつの。お前だって蹴り技はあった方がいいぜ。教えてやろうか?」
他の面々も、それぞれに装備を整えていく。ダンは盾の補強材や頭の防具を、ヒカリは何やら小ぶりな道具を、サラは薙刀の手入れ用の品や、速さを損なわない程度の手足の防具を。リアはおずおずと、けれど真剣な目で、自分に合う防具を選んでいた。
そして――皆が、ある一つの店の前で、足を止めた。
魔法屋だった。
昨日、シキとリアが出会いを果たした店。
扉を押すと、あの古い紙とインクの匂いが六人を迎えた。
「いらっしゃい……おお、昨日の熱心な嬢ちゃんじゃないか」
奥から出てきた店主が、リアを見て相好を崩した。どうやら、昨日ずっと本を読みふけっていた少女のことを覚えていたらしい。
「あ、こんにちは。その節は、ありがとうございました」
リアがぺこりと頭を下げる。
「今日は仲間と来たんだ。全員分の耐火の指輪を買いたい。六人分だ」
シキが五人を示した。
「ほう、全員分か。気前がいいねえ」
店主が店の奥から、人数分を持ってきた。
1人につき3000フローは少なくない出費だが、南には火属性の攻撃を放ってくるモンスターが多いと予想されることから、全員装備すべきだという結論となった。
「こいつは火の魔法攻撃に対して耐性を高めてくれるもんだが、日用使いの魔石の起動にも使えるもんだ。今後開拓者がこぞってこれを買いにくるだろうから、火の魔石は高めに買い取ってやってもいいぞ。ただし、開拓者ギルドに所属している場合は、だ」
店主の説明に、リアがこくこくと頷いている。本で読んだ内容と合致しているのだろう。
ふと、シキはあることを思い出して店主に尋ねた。
「なあ、店主さん。攻撃に使う魔法具ってのも、ここに置いてるのか? ほら、火球をこっちから撃ち返す、みたいなやつ」
「あるとも」
店主は奥の棚を顎で示した。淡く光る石をあしらった杖や、文様の刻まれた護符が、いくつか並んでいる。
「そっちは戦い向けの魔法具でな。触媒ってやつだ。素養のあるやつなら、これを通して強い魔法力を扱える。ただし値は張るぞ。安いので一万からだ。呪文も覚える必要があるしな。お前さんの契約武器が杖じゃないならオススメはせん」
「一万か……」
その言葉に、シキは少し考えて――それから、あっさり首を振った。
「……今日のところはやめとくか」
「あら。意外と慎重ね」
サラが薄く笑う。
「俺だって考える時は考えるんだよ。火力なら今は足りてる。剣も、サラの薙刀も、ヒスイの銃もヒノシシに対して通用してる。今足りてないのは守りのほうだろ。火球をまともに喰らって一発アウト、なんて笑えないからな」
言いながら、シキは買ったばかりの耐火の指輪を左手の指にはめてみせた。
「それに、店主さんの言う通りなら、魔法は買ってすぐ使えるもんでもないんだろ。だったら、金に余裕ができてからちゃんと練習する時間とセットで揃えりゃいい。今日のところは生き延びるための装備が先だ」
「珍しくまともなことを言うじゃない」
サラが感心したように頷いた。
「同感だわ。素材だってまだ一フローも換金していないのよ。手持ちが多く見えても、何が起きるか分からない以上、出費は守りに絞るべきね」
話がまとまりかけたところで、シキはふと、リアを見た。
水色の髪の少女は、戦い向けの魔法具が並ぶ棚をじっと見つめていた。物欲しそうに、というより――純粋な好奇心で。
(……そうだよな。こいつは契約武器が杖だ)
この中で、魔法に一番素養があるのは、間違いなくリアだ。本当なら、真っ先に魔法具を持たせてやりたいのは、こいつのほうだった。
「リアの分は、次の稼ぎで最優先だな。この世界で魔法が扱えるアドバンテージは生かすべきだと俺も思うぜ」
シキが言うと、リアが、はっと顔を上げた。
「えっ……わ、私のですか?」
「おう。お前が一番魔法を使いこなせそうだろ。今日は金の都合で見送るけど、稼いだら真っ先にお前の魔法具とか買って、強化していこうぜ。後衛火力役ってやつだな」
リアはぱちぱちと目を瞬かせ、それから、こくりと頷いた。
「は、はい! ありがとうございます! がんばります!」
頬を染めて俯くその顔は、隠しきれないほど嬉しそうだった。
「よかったね、リアちゃん」
ヒカリが、にこにこと小突く。
「い、いえ、その、私はべつに……」
「素直に喜んどけって。シキの奢りらしいからな」
「え? 今の俺が全部持つって話だったか?」
軽口に、ささやかな笑いが起きた。
結局、この日この店で六人が買ったのは人数分の耐火の指輪だけだった。それでいい、とシキは思う。
一足飛びに強くなろうとは思わない。必要なものから、一つずつ。生き延びながら、少しずつ。この世界での足場を固めていけばいい。
「ありがとう、店主さん。また来るよ」
「おう。――ご武運を」
店を出る六人の背に、店主の声が軽やかに掛けられた。
◇
いったん宿へ戻り、六人はそれぞれ、買い揃えた装備を身につけていった。
シキは、肌着の上に新調した動きやすい服を重ね、ストレージにしまっていた胸当てを取り出す。壊れていた箇所は、防具屋でひととおり直してもらった。その上から、腕を覆う革の防具を着け、足には底のしっかりした、頑丈な靴。最後に、左手の耐火の指輪を、もう一度きゅっとはめ直した。
召喚されたときのあの粗末な初期装備が、もう遠い昔のように思える。
「お、なんかそれっぽくなったじゃねえか」
ヒスイが、にっと笑った。当のヒスイも、頭と肩を守る防具を新たに加え、ますます隙のない体格になっている。
「お前らこそ、だんだん開拓者らしくなってきたな」
サラは動きの妨げにならない程度の、軽い手足の防具をまとっていた。速さを殺さない、薙刀使いらしい選び方だ。ダンは、ただでさえ大きい体に盾と防具が加わって、見上げるような壁になっている。ヒカリは相変わらず身軽な格好のまま、小ぶりな道具をいくつか腰に下げていた。
そして、リア。
革の防具を着けた水色の髪の少女は、どこからどう見ても、魔法使いには見えなかった。
「……あの、どうでしょうか。少しは、それっぽく見えますか……?」
「おう、似合ってるぞ。でも今後は魔法使いっぽくローブがほしいところだよな」
思わずそう答えたシキの脇腹を、サラが軽く小突いた。
「そういう感想は求められていないと思うわよ」
ささやかな笑いが起きる。それでもリアは、自分なりに精一杯、覚悟を決めて防具を選んだのだろう。その真剣さはシキにもちゃんと伝わっていた。
◇
装備を確かめ終えると、シキは皆を見回しておもむろに切り出した。
「なあ、ちょっと聞いてくれ。当面の、でかい目標を一つ決めときたいんだ」
「目標?」
ヒスイが、首をかしげる。
「ああ。――俺たち、外でキャンプできるようになろうぜ」
一拍、間が空いた。
「キャンプ?」
サラの疑問に、シキは力強く頷いた。
「考えてもみろよ。今は日帰りだろ。朝出て、日が暮れる前に戻る。それじゃ、どうあがいても街道の奥までは届かない。あの廃村だってけっこう遠いぜ。けど、外で一晩越せるようになれば――行ける範囲が一気に広がる。飲み水は水の魔石で作れるし、肉は火の魔石で焼ける。あとは、外で安全に夜を明かす方法さえ確立できればいい。それが当面の目標だ。どうだ?」
「……いいわね」
サラが、感心したように頷いた。
「漠然と『開拓する』じゃなくて、具体的な到達点を一つ置く。そこから逆算して、必要なものを揃えていく。悪くない目標の立て方だわ」
「お、サラに褒められた」
「半分だけね」
「また半分かよ。もう半分はなんなんだ」
ヒスイがげらげらと笑う。
「俺は賛成だぜ! 外で野宿とか、いかにも冒険って感じでいいじゃねえか!」
「開拓だ」「開拓よ」
サラとダンの声が、綺麗に揃った。
「あたしも賛成! みんなでお外ごはん、楽しそうだもん!」
ヒカリが、ぴょんと手を挙げる。
「危険も伴うがな」
ダンが釘を刺すように言った。だが、その口元はわずかに緩んでいる。
「とはいえ、目標としては悪くない。外で夜を越せるかどうかは行動範囲を決める分かれ目だ。――いいだろう。その方向で装備も知識も少しずつ揃えていこう」
最後に、シキはリアを見た。
「リアはどうだ?」
水色の髪の少女は、しばし考えてからこくりと頷いた。
「……はい。私も、外を、もっと見てみたいです。怖い気持ちはありますけど……それでも、魔法のことを知るには、きっと外に答えがあるはずなので」
「よし。なら決まりだ」
シキは満足げに笑った。
寄る辺ない異世界で出会った六人。昨日まではただの偶然の寄せ集めだったこの集団が、今は同じ目標を見据える、一つのパーティーになっていた。
◇
準備は整った。
最低限の――けれど、昨日とは比べものにならない装備。増えた仲間。そして、進むべき方角。
六人は再び南大門をくぐった。
門の外には、昨日と変わらぬ長閑な農園の景色が広がっている。畦道を行く住民。ぺたぺたと働くミミネコ。けれど、その先がどんな世界か、リアを除く五人は、もう肌で知っていた。
農業地帯を抜けて川辺へ。
澄んだ流れに架かる、一本の石橋。対岸の草地には、今日もミミネコの姿がない。橋を渡って少し進んだ先が街の加護の届かぬ領域――圏外だ。
「……行くか」
シキが橋の手前で足を止めた。
昨日、初めてここを渡ったときの、あの産毛の逆立つ感覚を思い出す。けれど今は、隣に五人の仲間がいて、体には新しい装備があり、果たすべき依頼がある。昨日とは何もかもが違う。
「戦う時は無理をしないこと。逃げ道を確認しながら。――いいわね」
サラの言葉に全員が頷いた。
六人は石橋を渡りきる。
最後の一歩で対岸の地を踏んだ瞬間、空気がずん、と一段重くなった。肌にまとわりつく原始的な圧力。遠くの景色を霞ませる、圏外特有の靄。
この世界に来てから二度目の、加護の外。
シキはいつでも剣を呼び出せるよう右手を軽く開きながら、靄の向こうへと目を凝らした。その奥に、まだ見ぬモンスターたちが潜んでいる。
(さあ。――今度は、どこまで行けるかな)
胸の奥でくすぶる高揚を道連れに、シキは一歩、未知の領域へと足を踏み出した。




