↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/67

第15話 重要すぎる報連相

「宿はもう押さえてあるわ」


 リアの紹介を終えたところで、サラがそう切り出した。


「朝と夜の食事付きで、一泊四〇〇〇フロー。街の外れになるけれど、その分少し安いわ」


「お、さすがサラっちだね!」


 ヒカリが楽しげに相槌をうつ。


「その呼び方、定着させる気ね……」


 サラは軽くため息をついて、それから一行を先導した。


 歩きながらヒスイが補足する。


「もっと安いとこもあったんだぜ。なんなら、無料で雑魚寝できる馬小屋みたいなのもあった。けどよ……」


「あそこはやめておいて正解だな」


 ダンが低い声で引き継いだ。


「俺たちも似たような場所を見た。無料のところにはもう人が殺到していてな。芋を洗うような有様だった。あれだけ人が集まれば、いざこざも起きる。金品を狙う輩も出るだろう。リングストレージで保管されているものを他人が奪えるのかはわからないがな」


「だよねー」


 ヒカリがうんうんと頷く。


「タダより高いものはない、ってやつだよね。あたしたちも、ちょっと値が張っても落ち着けるとこがいいなって話してたんだ」


「で、サラが選んだのが街外れの宿ってわけだ。人目につきにくいし、ゆっくり相談もできる。――値段も、広場前の宿よりは安いしな」


 ヒスイの言葉にシキは納得した。あの最初の食堂兼宿屋は、中央広場のすぐそばの一等地だった。街の外れでしかも夜は人が引ける場所なら、その分、宿賃が抑えられるのも道理だ。


 そして無料で寝泊まりできる施設があるなら、しばらくは食い繋ぐことができるのも重要な情報だった。


「いい判断だと思うぜ。さすがだな、二人とも」


「ふふん、もっと褒めていいぞ」


 ヒスイが得意げに胸を張った。


   ◇


 案内された宿はこぢんまりとした、けれど清潔な建物だった。


 一階が食堂で、二階が客室。あの最初の店と造りはよく似ている。違うのは、立地と――値段だ。


「部屋のことなんだけどな」


 ヒスイが、少しばつが悪そうに切り出した。


「人数が一人増えたろ。それでも二部屋は取れた。男三人と、女三人で分かれて雑魚寝な。シャワーは共用だが、男女で時間は分かれてる。俺は個室がよかったんだけどなぁ」


 ヒスイが未練がましく呟く。だが、すぐに自分で首を振った。


「……まあ、無理か。五万人が一斉に宿を求めてんだ。一人一部屋なんて贅沢できるわけねえよな」


「物分かりがいいじゃない」


 サラが薄く笑った。


 リアは女三人の同室と聞いて、少しほっとした顔をしていた。見知らぬ街で、一人で部屋を取るよりよほど心強いのだろう。ヒカリが「よろしくね、リアちゃん!」と明るく声をかけると、リアも「は、はい、こちらこそ」と、はにかんで応じた。


   ◇


 一行は一階の食堂に集まった。


 まだ陽はわずかに残っている。元の世界の感覚なら、夕食には少し早い時間だ。だが、誰からともなく食べられるときに食べておこうという空気になった。一刻先のことすら、誰にも分からないのだ。


 運ばれてきたのは、こんがり焼けたパンと瑞々しいサラダ、それに、何かの肉を煮込んだ一皿だった。


 その肉を一口食べて、ヒスイが声を上げる。


「お、これ……あの肉串と同じやつだ! しかもやっぱりヒノシシらしいぜ。売れるか聞いたら、ヒノシシの肉1つで100フローって言われたんだ」


「屋台での肉串が150フロー。粗利率33%か。……良心的過ぎるわね。やっていけるのかしら?」


 サラはわずかに首を傾げた。


 シキはその味を噛みしめた。柔らかく煮込まれた肉は、昼のシチューでも食べた味にも似ている。あれだけ外で狩れるヒノシシがこれほど美味く、味付けも様々なら——。


「……餓死の心配はしなくて良さそうだな」


 ぽつりと漏らした言葉に、わずかな安堵がにじんだ。剣を振るって肉を得て、その肉で腹を満たせる。生きていく算段が一つ立った気がした。


「ああ、それなんだけどね」


 ヒカリがスプーンを止めて言った。


「あたしたちが回った料理屋で聞いたんだけど。ヒノシシの肉ってね、調理するのに、火の魔石の欠片が必須なんだって」


「火の魔石が?」


「うん。なんでもあの肉は、普通に火を通しただけじゃ駄目で、火の魔石の力で調理しないと食べたらお腹を壊しちゃうらしいの」


「……マジか」


 シキは思わず手にしたスプーンを見た。


「じゃあ、外で倒した肉を、適当に焚き火で焼いて食うってわけにはいかないのか」


「そういうことだな」


 ダンが頷く。


「火の魔石の欠片は、料理に必須。武器屋の店主も、そう言っていただろう。あれはそういう意味だったわけだ。――肉が手に入っても火の魔石がなければ安全には食えん」


 シキはその情報の重さを噛みしめた。狩った肉を食うにも魔石がいる。魔石は火おこしにも、飲み水にも、武器のメンテにもいる。この街で生きるということは、つまり――絶えず魔石を確保し続ける必要があるということだ。


   ◇


 食事をしながら、自然と今日一日で得た情報の共有が始まった。


「じゃあ、順番に整理しましょうか」


 サラが場をまとめるように口を開いた。


「まず、お金まわり。素材の買取は、品目で窓口が分かれているわ。魔石は武器屋、肉は料理屋、それ以外の素材は素材屋。今日のところは、実際に売ってはいないけれど――魔石の欠片は、売らずに取っておいたほうがいいという話だったわね。ただ、どうやら開拓者ギルドに所属出来れば一括の買取もしてくれるようだけれど」


「ああ。案内所やギルドで、他の属性の欠片と交換できるんだろ」


 シキが引き取った。


「で、方角ごとに出てくる敵の属性が違うんだよな。南が火、北が土、東が水、西が雷。欲しい属性の魔石があるなら、その方角の門から出る。……ってことは、俺たちが今日行った南は火属性ってわけだ」


 サラが続ける。


「効率を考えるなら、一つの方角に特化したほうが良いということになるわね。あちこちの方角を中途半端に手を出すより、火なら火で、深く探索する。足りない属性は交換で補う。そういう仕組みなのでしょう」


「装備の値段もだいたい掴めたな」


 シキが魔法屋と服屋で見てきた価格を伝えた。耐火の指輪が三〇〇〇、安いシャツが五〇〇、性能のいい防具に替えるなら三〇〇〇。そして――目玉が飛び出るような、五〇万フローのローブ。


「五〇万!?」


 ヒスイが素っ頓狂な声を上げた。


「そんなん誰が買うんだよ!」


「魔法力と魔法耐性に、大きな恩恵があるそうです」


 リアがおずおずと補足する。皆の視線が集まると、びくりと肩をすくめたがそれでも続けた。


「あの、魔法、というものが、この世界にはあるみたいで。私、魔法屋さんで、その教本を読んでいて……」


「そうそう、それな」


 シキが身を乗り出した。


「リアはその魔法にめちゃくちゃ詳しいんだ。さっきもすげぇ情報を教えてくれてさ。――風の魔石って知ってるか?」


「風?」


 ヒスイが眉を寄せる。


「四属性じゃねえのか」


「それが、風はその四つとは別なんだとよ」


 シキは、リアから聞いた話を伝えた。風の魔石は、東西南北の四属性とは別系統で、各地で採れること。そして、癒しの力を持ち、水の魔石と組み合わせれば、衣服を清潔に保てること。他にも多くの組み合わせに使えるらしいこと。


「洗濯できるのか!」


 ヒスイが食いついた。


「そりゃ重要だぞ! これから毎日汗だくになるのに、どうすんだと思ってたんだ!」


「癒しの力というのも気になるな」


 ダンが顎を撫でる。


「使い方次第では、傷の手当てにも使えるかもしれん。……それは相当に大きいぞ」


 一同がリアへと視線を向けた。注目を浴びてリアはますます縮こまる。


「あ、あの、私はただ、本に書いてあったことを……」


 シキがにやりとした。


「その本、一万フローしたんだってよ」


「「「一万!?」」」


 今度は全員の声が揃った。


「ちょ、リアちゃん、初日に本に一万!?」


 ヒカリが目を丸くする。


「だ、だって……最初に五万フローも貰えたので、てっきり安いものかと……」


 リアが消え入りそうな声で弁明する。その天然ぶりに、食堂が一瞬、しん、とした。それからヒスイが噴き出した。


「あっはっは! すげえなリアちゃん! 大物だぜ!」


「でもお手柄だわ」


 サラが感心したように言った。


「その一万フローの本のおかげで、私たちは風の魔石のことを知れた。……結果的には安い買い物だったかもしれないわね。それに教本というくらいだから、他にもいろいろ載っているわよね」


 リアは皆に褒められて、頬を赤くしながら俯いた。だが、その横顔はどこか嬉しそうでもあった。


 シキがリアに尋ねる。


「ここで軽く共有してもらえないか? 魔法力とか、魔法についてさ。説明できるか?」


 リアが恐る恐る頷く。


「はい、なんとか。私も全部は理解できていませんが……」


「大丈夫だよ! 多分今細かく聞いても覚えられないし、ざっくりの方が助かるくらいだよ」


 ヒカリがすかさずフォローを入れる。


「わかりました。私の理解ですが、簡単に……」


 全員が真剣な様子を見せる。


「この世界には、魔法力というものがあるみたいです。これは基本的に全員にあるもので、魔石を使うのにも必要なようです」


 いきなりの重要情報だった。


「ただ、魔法力を使うには魔法具という装備も必要みたいです。魔石の欠片のような日用生活で個人で使うのであれば安いものでもいいみたいですが、えと、戦いに使うくらいのものだと、一万フローはするようです。先ほど魔法屋さんで売っていました」


 しん、と食事屋の一角が静まりかえる。


「魔法力というのも、説明が難しいのですが、これだ、という感覚があるんです。空気とか、体の内側とか、これを使えばいい、力を束ねればいい、そんな風になんとなくわかるんです。私は契約武器が杖でしたから、適正が高いのだと思います。皆さんも触媒になる魔法具を持てば、多分わかるんじゃないかと」


 リアの話を聞いていた全員の口が、ポカーンと開いている。


 そんな様子の一同を見て、リアが恐る恐る話を締める。


「え、えと、こんな感じなのですが、参考になったのでしょうか?」


 たまらず、という感じでヒスイが爆発する。


「参考!? 超絶重要情報じゃねーか!! ヤバイだろこれ!」


 ヒカリも立ち上がって絶賛する。


「凄いよリアちゃん! 外での戦い方の大大大ヒントだよ!」


 サラが制する。


「気持ちはわかるけど落ち着きなさい! 聞き耳を立てられるわよ」


 シキが声を潜めて言う。


「マジでとんでもねぇな。この世界での戦い方がひっくり返るぞ。というか、晩飯奢るくらいじゃ全く釣り合ってねーよ。どうする? 俺らが五万で情報売ったみたいに、五万払ってもいいくらいだと思うけど」


 サラも一瞬考える。


「確かに、初日に一万払ったリスクに報いるべきかもしれないわね。全員で一万ずつ出すか、単純に本の値段をリアも含めて六等分で負担するか……」


 ヒカリも同意する。


「うんうん。私はどっちでもいいよ。だって、この情報のおかげでこれからの動きも決まったようなものだよね? 最初の試行錯誤の時間がまるまるショートカットできるのは大きいよ!」


 と、リアへの情報料について、全員の意見がまとまりかけた 。


 オロオロと推移を見守っていたリアが、遠慮の姿勢を見せる。


「あの、お金はなくても……。それに、皆さんが外で戦って、怪我までしたから魔法の情報が大事だって、気づけたんです。わたし一人ではとてもじゃないですけど……」


 シキが気遣わしげに声をかける。


「そうはいっても重要情報だぞ? こんな晩飯一食分じゃさすがに釣り合いが取れないだろ」


 その言葉を受けて、リアが勇気を振り絞って提案する。


「あ、あの、お金はいいです。代わりに、お願いを聞いてもらえませんか?」


 全員の視線が、もう一度リアに集まる。リアはその視線をぐっと受け止め、言葉に力を入れた。

「わたし、一人で外に出るのは怖いです。でも、魔法のことを知れば知るほど、外に答えがある気がして……」

 だから、とリアは全員の顔を見て、続けた。


「わたしを、仲間に入れて欲しいんです。きっとすごく足を引っ張ると思います。戦いだって、怖くて……。でも街の外を見てみたいんです」


 仲間。


 その言葉が出た時に、また別種の沈黙が降りた。


   ◇


「仲間、か」

 

 シキが複雑さを滲ませる声で呟き、腹を決めたという顔で提案する。


「なぁ、俺たち本当にきちんと仲間としてやっていかないか? ここに来てまだ初日だけど、お前らとならやっていけると思う」


 サラが頷いた。


「同意見ね。シキの無謀な戦いや、リアの無計画な浪費がなければ、ここまでの情報は揃わなかった。何が正解になるかわからないこの世界で、個人で動く方がもっと危ないかもしれないわね」


 ヒスイが口に入れていたパンを飲み込む。


「俺はいいぜ。というか、正直一人になったって何すりゃいいかわかんねぇしな。何より俺はお前ら気に入ったぜ」


「私も賛成! みんな良い人だし、何より楽しいし!」


 ダンが腕を組み、思案気に答える。


「いいだろう。ただし、行動指針や判断など、おかしいと思う事には遠慮なく口を出させてもらうぞ。あくまで対等な付き合いをしたい」


 リアの提案から、全員の合意が取れた。


 おそらく、全員が不安なのだ。この訳のわからない世界にいきなり放り出され、右も左もわからないまま一人で過ごすのはもう難しい。誰もそうは言わなかったが、きっとこの場にいる全員が感じていたことだ。


「というわけでリア。今日この瞬間から俺たちは仲間だ。一緒にやっていこう。お前が戦いは苦手だっていうなら、俺が守ってやる。そんで、帰る手段を見つけるためにも、外に打って出ようぜ」


「は、はい!」


 リアが少し潤んだ目でシキに返事をした。


「ちょっとちょっと、守ってやるですって」


「こいつバトルでも猪突猛進野郎なんだよなぁ。女の子相手にもこんな感じなのかよ」


 ヒカリとヒスイがひそひそと批評を述べる。


 サラはそんなシキを見て、やはりどこか危うさを感じていた。


   


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。