親孝行
サンスベリアに向かう途中、男性が立ちはだかる。
母を後ろに隠して睨み返すと、背中から「あなた!」と呼ぶ声が聞こえた。
「え?」
「私の今の夫よ!」
驚く小麦に返すと、相手が困惑した様子で聞き返す。
「ムギ、夕方なのに帰って来ないから探していたんだ。そしたら若い男と2人で・・・」
「違うの!ちゃんと今日のことは伝えていたでしょ?この子は以前にも言った前の夫との子どもなの!」
その言葉にも驚いて小麦を見ながら、見たことのある顔に戸惑っていた。
「それは聞いた事があったけど・・・。でもそいつ、死んだはずの元魔王軍のうどんだろ!!」
そして、こちらに近寄り母の腕を引っ張って、小麦から離れた。
「こんなの聞いてないぞ!ムギの子どもが犯罪者だなんてな!!話を聞かせろ!!」
「は、犯罪者なんかじゃないわ!あの子は必死で頑張ってきたの!それを犯罪呼ばわりしないで!!それに、魔王軍があった時は犯罪者なんて言われてなかったわ!!なくなったからってそんな掌返すような言い方ないでしょ!!」
小麦は拳を握って奥歯を噛み締めながら下を向いたが、顔を上げて大きく笑って見せた。
「あーあ、残念だよ。息子のフリしてあんたん家を襲ってやろうとしたのに。魔王軍が潰れてから家を探していたんだよ。丁度いい奴見つけて、襲って奪おうとしたってのに。邪魔されたよ」
「小麦・・・!」
「どういう事だ!?お前は何者なんだ!?ムギの息子じゃないのか!?」
母が心配そうに小麦を見ていたが、そのまま続けた。
「俺は小麦なんて名前じゃない。うどんだ。あんたの息子なわけないだろ。計画を邪魔されたんだ。さっさと行け。二度と俺の前に顔出すな」
男性が母を連れて走り去ったが、母は「小麦!!」と振り返って叫んだ。
小麦は悲しそうに母を見たが、すぐに目をそらした。
その後、1人でサンスベリアに行った。
「いらっしゃい!・・・って、小麦1人か?」
たった1人で来店した小麦を見て目を丸くする。
そんなビストートに何も答えず、用意されたテーブルのソファー席に座った。
「そう・・・なんか母さん・・・用事みたいで・・・」
小麦が無理に笑って見せる。
「母さんには今日突然言ったんだ!もっと前から言わなかった俺の失敗だよ!あ、ちゃんと2人分食べるよ!腹減ったな〜!!」
気づけば涙がテーブルに落ちていた。
「あ、あれ?おかしいな・・・腹減りすぎたかな?ははは・・・」
一生懸命涙を拭くが、全然止まらない。
ビストートが料理を運んで、隣のテーブルをひっつけて横に座った。
「俺も食うよ」
もう涙を拭くのをやめた。
「母さん・・・一緒にご飯・・・食べたかった。ケーキだって・・・食べて欲しかった。結局、親孝行できなかった・・・俺が元魔王軍うどんだったから、母さんとまた離れ離れになった。俺は母さんの自慢なんかなれない、犯罪者のろくでなし息子だ・・・」
ビストートが肩を抱いてやる。
「何言ってんだよ。一生懸命頑張ってきた事じゃないか。そう自分のことを否定するなよ」
「俺・・・正義のヒーローになれると思ってた・・・。ヒーローになって、みんなから好かれて、母さんと父さんの自慢の息子になりたかった。でも、実際は真逆だ。俺を見ただけで生きてた事を疎まれたり、命を狙われるんだ。こんな奴といれば、家族まで危険に晒される。別れ際に嫌われてきた。母さんとはもう二度と会えなくなってきた・・・」
ビストートは小麦の背中を黙って摩ってあげた。
翌日、小麦は写真館に写真を取りに行った。
小麦が写真館を出ると、そこには同じく写真を受け取りに来た母がいた。
「小麦!」
「母さん・・・」
母が近づいてきたが顔をそらす。
小麦の手元から封筒を受け取り、L版の写真が入った封筒を取り出した。
「もう俺には近寄らない方がいいよ・・・」
「どうしてあの時あんな嘘を吐いたの?」
元気なく、目を逸らして言うが、必死に聞き返す。
「俺はあの人が言う通り、魔王軍が無くなった今では犯罪者だ」
「それは小麦が私達に見つけてほしくて、一生懸命やってきた事でしょ?」
母が小麦の腕を掴んで見上げる。
「もっと胸を張って、私の息子だと言ってほしかった!自分のやってきた事を誇らしく思って欲しかった!!」
「俺は・・・そんな立派な人間じゃないよ・・・」
「他所から見て立派じゃなくたっていい!あなたは私の自慢の息子なの!!」
「母さん・・・」
涙を零す小麦を母が抱きしめた。
小麦も優しく抱き返す。
「母さん、ありがとう。俺・・・探してくれて嬉しかった・・・会えて嬉しかった・・・。でも・・・もう会えないよ・・・。母さんには母さんの人生がある。そこに俺が入る事はもうできない・・・遅すぎたんだ」
「小麦・・・」
小麦が体を離す。
「母さん、もう俺の事は死んだと思って、今日で忘れて」
「何て事を言うの!私に小麦を二度も捨てろって言うの!?」
戸惑う母からゆっくり体を離していく。
「母さん、これが俺が出来る、最初で最後の親孝行だ・・・。さよなら・・・ずっと愛してるよ。幸せになって」
そう言って離れながら母が持っていた写真を取って走った。
「小麦!・・・小麦ーーー!!」
母が泣き崩れながら呼んだが、立ち止まらずに走って行った。




