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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
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母さんと過ごす1日

写真館の中では、髪にも口元にも同じ白髪混じりの毛を蓄えたベテランカメラマンに案内され、壁紙の前に立つ。

指示された通りに小麦が母の隣に立って腰に手を添えて寄り添う。

何度かシャッターを切り、母が会計前に写真のサイズと焼き増しの注文をする。

「六切の写真と、焼増しでL版一枚でお願いします!仕上がりはできるだけ早くで!」

「かしこまりました。仕上がりの最短は明日となっております。お会計が・・・」

スタッフが計算をしている内に小麦がお金を払おうと財布を出したが、母に止められる。

「小麦、いいわよ!」

「そんな!払わせてくれ!親孝行がしたいんだ!」

「いいの!私が撮りたいって言ったんだから、私に払わせて!」

困った顔をしたのだが、結局、母が払ってくれた。


それから近くのカフェでコーヒーを飲みながら母と話す。

「小麦はあのディンブラさんとはお友達なの?」

「友達・・・だけど、家に住ませてもらってるよ!だから家族でもあるかな!魔王軍が無くなったから、住む場所も居場所も無くて・・・」

小麦がうつむいて落ち込む。

「いた時は全然何も思わなかったけど・・・俺が魔王軍でしてきた事は人を助ける正義じゃなくて、人を苦しめる悪だったのかなって最近よく思うんだ。無くなった瞬間に、命狙われ始めて、俺を見る目が怖くて・・・必要とされるのは全部裏の組織からだ。俺は何をやってたんだろうって今更思う事が多いんだ」

そんな小麦に母が手を握ってやった。

「あなたは確かに一部に嫌われていたわ。でも、一部からはとても好かれていた。正義なんてわからないものよ。誰かにとっての好都合でしかないの。みんなから共感を得る事はできない。だから、自分が守れるものだけでいいの。手に持っているものを全力で守りなさい」

小麦が一つうなずく。

「・・・うん。その中に、俺は母さんがずっといたけど、母さんの中に俺はいた?」

「当たり前でしょ。いくら手放そうとも、小麦のことをずっと思っていたわ。なかなか探せなくてごめんなさいね」

小麦は嬉しくなって、勇気を出して思っている事を伝えた。

「お、俺!ずっと母さんに会ったら甘えたかったんだ!褒めてほしくて、撫でてほしくて、思い切り抱きしめてもらいたかった!だけど、もう大人だし・・・そんなの無理だよな・・・」

自信無さ気に言う小麦に母は微笑みながら立ち上がって近づき、顔をそらす息子を抱きしめて撫でてあげた。

「小麦、よく頑張ったわね。今までごめんなさいね。ずっと諦めずに探してくれたこと、ありがとう」

「母さん・・・」

母を抱き返す。

「母さん!俺、ずっと母さんといたい!母さんの息子になりたい!!今の全部を捨ててもいい!部屋なんていらない!外でもいい!お金も払う!家族全員の生活費だって出す!沢山働くよ!兄弟にだってお小遣いやる!家事もする!掃除だって、何だって・・・。だから・・・お願いします。母さん家の子にして下さい・・・」

小麦は涙を流して懇願した。

しかし、母は悲しそうに顔をそらした。

「・・・ごめんなさい。本当はあなたのお願いを全て受け入れるべきなんでしょうけど、みんなが同じ気持ちじゃないの」

「・・・何だよ。ずっと待ってたんだよ・・・?」

母の腕を握って見上げる。

「母さん!俺はずっと見つけてもらうために必死で頑張った!厳しい訓練も耐えた!死にそうな任務も、何度も乗り越えた!学歴は無いけど、高い教養だって身に付けた!他のどの兄弟にだって負けない!勉強も!運動も!!」

「ごめんなさい・・・」

手の力が抜ける。

「どうして・・・?他の兄弟は母さんといるために、こんなにも頑張ってないだろ?自分で稼いだ事も無いだろ?どうして俺はダメなの?ずっと母さんの息子になる為にただひたすら頑張ってきたのに、何が足りないの?」

力なく母を見た。

「それとも・・・捨てたくらいだから、本当にいらなかったの?」

「そんな事ない!!」

母も泣きながら小麦を見る。

「いらなかったんじゃない!私だって小麦を育てたかった・・・。あなたが生まれた時は、私もあの人も心の底から喜んで祝福したわ!だけど、私達は若すぎたの。親からの反対を押切って小麦を生んだ。でも、自分達だけで生きていけるだけのお金も生活力もなかった。仕方なくあなたを捨てた時から、私達も仲が悪くなって、結局離婚した。それからはお互い、全く違う道を歩んだの・・・」

母が涙をこぼした。

「あなたからすれば、これ以上になく理不尽な事はわかってる。だけど・・・私達にはできなかった・・・。小麦は何も悪くない。何も足りてなくない。十分すぎるくらい、私達の為に頑張ってくれたわ」

「母さん・・・・・俺もわがまま言いすぎた。母さんにも新しい家族がいるんだ。配慮が足りなかった。・・・でも、もう少しだけわがまま言わせて下さい」

そして母の手を握った。

「母さんと月に一度でも・・・無理なら半年、いや、年に一度でもいい!・・・どうか、2人で会って下さい」

「ええ、ありがとう。月に一度、2人で会いましょう!」

そして母が小麦の手を握った時に気づいた。

「小麦・・・結婚してたの?」

目を丸くして左手の薬指に付いた指輪を見る。

「これは違うんだ。今、お世話になってる場所に月下美人って子がいるんだけど、その子が病弱で今までやりたい事をやれなかったんだ。その子が結婚式に出てみたいって言うから、偽物だけど俺が新郎役で挙式したんだよ。・・・結局、新婦じゃなくて参列者になりたかったそうなんだけど、俺の早とちりで挙げたんだ。これはその時の指輪。守護の魔法がかかってるんだ!」

母が微笑みながら指輪を見る。

「素敵じゃない。とても友達思いなのね!」

「そうだ!母さん、いつかエディブルの花園に来てよ!月下美人にも、他の仲間にも会わせたいんだ!綺麗な花園で、いい場所なんだよ!母さんもきっと気に入るよ!!」

「そうね、いつか行けたらいいわね!」と母が笑ってくれた。

「母さん、今夜は俺から母さんに親孝行させて下さい!俺の友達がシェフをしている店で、特別メニューを出してくれるんだ!ケーキだって用意したよ!ケーキは俺が作ったから、友達の料理ほど美味しくないかもしれないけど・・・でも、精一杯作ったんだ!母さんに食べてほしくて!」

「ありがとう。きっと、世界一のケーキね!」

小麦の顔が晴れて喜ぶ。

「小麦の話をもっと聞かせて!もっと知りたいの!何が好きで、何が得意で、どんな人と出会ってきたのか、全て知りたい!」

「うん!!」

それから沢山の話をした。

今までの事を、嬉しかったこと、辛かったこと、仲間のことなど沢山話した。

気付けば夕方になっていた。

「そろそろビストートの店に行こう!丁度いい時間だよ!」

「ええ!行きましょう!!」

そしてサンスベリアに向かって母と歩いていると、目の前に男性が立ちはだかった。

「止まれ!」

男は小麦を強く睨んでいた。

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