父と母
翌日、新聞社の襲撃事件は大きな見出しとなっていた。
大使館では、その新聞を読むマタリとディンブラの前で、ロルロージュがずっと何かに怯えていた。
「新聞社で惨殺事件、みんな刺し傷や切り傷があり、凶器はナイフのような刃物か・・・」
「ロルロージュ、君、昨日からずっと何かに怯えてるけど、どうしたの?」
するとディンブラにすがり、小声で懇願する。
「ディンブラさん!・・・2人だけでお話させて下さい!!」
「別にいいけど・・・」と不思議そうにロルロージュを見た。
「新聞社で惨殺事件」
「社員全員皆殺し?えらく物騒だな・・・」
またベットとクラインが新聞を見ていた。
新聞をずらして向かい側のソファーを見ると、そこには小麦はいなかった。
「小麦、いないな・・・」
「・・・何か嫌な予感がするな」
ベットのケータイに電話がかかってきた。
「ディンブラからだ・・・はい、ベットだ」
しばらく話を聞き、ベットの顔つきが変わった。
小麦はジュエの部屋にいた。
「本当にすごいよ!ナイフ一本で新聞社の社員を全滅させるなんて!しかも一晩で!!」
嬉々として言うジュエに何も反応しない。
「小麦は真の英雄だよ!」
「・・・英雄?」とやっと反応を示す。
「そうだ!きっと小麦の両親も今頃は喜んでいるさ!何てったって、家族の中を切り裂いた悪党を倒したんだからな!!」
「父さん!・・・母さん!!」
両親のことを思い出して小麦が顔に手を当てて涙を流す。
「小麦、お前が落ち込む事は何も無い。あとは胸を張って両親に会おう。俺が今夜、会わせてやるよ」
優しい口調のジュエが耳元で囁く。
「・・・本当?父さんも母さんも・・・仲直りするかな?俺の事、家族にしてくれるかな?」
「勿論するさ!沢山甘えるといい。ここまでよく頑張ったな」
ジュエは背を撫でてやったが、小麦は泣いていた。
その日の夕方、小麦の父と母はジュエに手を縛られて誘拐され、町外れの廃屋に眠らせていた。
眠りから覚め、気がつき辺りを見ると、かつての妻が隣で寝ている。
「・・・おい、ムギ!起きろ!」
声をかけると目を覚ました。
「・・・んん。・・・ここは?」
相手の顔を見て驚く。
「あ、あなた!どうして・・・」
「わからない。急に背後から襲われて、目覚めたらここにいたんだ!」
すると見知らぬ男性が入ってきた。
「よぉ、ここは南区の廃屋だ。・・・と言っても、南区は廃屋だらけか」
2人が警戒する。
「誰?」
「そう怯えんなよ。俺はある組織の者だ。今から家族水入らずにしてやるから、安心しな」
組織と聞いて更に怯える。
すると、また別の男性が入ってきた。
「それじゃあな、家族で楽しめよ」
そう言って肩を1つ叩くと1人は出ていった。
後から入ってきた男性が近づいて背後に回り、縄を解く。
「あの・・・」と発した時、父がその顔を見て何かを思い出し、驚いていた。
「お前・・・見た事がある・・・。元魔王軍のうどんだろ?生きていたのか?」
その言葉に母のムギも「えぇ!?」と目を見開いて驚く。
「生きてるよ・・・俺は!2人の子どもだ!・・・小麦だよ。覚えてるだろ?」
手を伸ばすと怯えながら退がられた。
「なあ!俺、頑張ったんだ!父さんと母さんに見つけてもらう為に、有名になって、迎えに来てほしくて、必死に毎日頑張ったんだ!!魔王軍で!!」
何を言っても2人はただひたすら怯えている。
そんな2人に自分の髪を引っ張って指差す。
「見てくれよ!この髪のクセ、父さんそっくり!このタレ目、母さんそっくりだろ?・・・なぁ、この福耳・・・2人と同じだろ?・・・他の兄弟は福耳じゃないだろ?こんなにも2人に似てるんだよ・・・?」
ずっと強張って黙り続ける2人に「何か言えよ!!」と怒鳴ると、父が母を庇うように前に出た。
その光景を見た瞬間、小麦は我慢が出来なくなり、そんな行動を取った父の胸倉を掴む。
「拒否するくらいなら!初めから作んなよ!!」
そして思い切り頬を殴った。
何発も何発も怒りに任せて殴った。
その内、横から母が止めに入る。
「やめて!!」
そこでやっと小麦が手を離した。
父はもう動かなくなっている。
母が父を心配して声をかける。
「あなた!あなた!!イヤ!!・・・起きて!!」
小麦はそんな母を見て思考が止まっていた。
そこにジュエがやって来た。
「小麦、一体どうしたんだ?」
「父さんを・・・殴ったら、動かなくなったんだ・・・」
「父親を殴ったのか?・・・それは父親なのか?」
小麦は黙って倒れる父を見た。
そんな小麦の手に銃を渡す。
「勝手に作って、勝手に捨てて、今度は拒否した。そんな奴が小麦の父親なのか?」
「・・・違う。俺の父さんは・・・俺の父さんは、俺を拾って育ててくれたあの人だけだ!!」
ジュエが銃を構える小麦の手を上から持ち、撃鉄を下げた。
「2人もいらない・・・」
そして、小麦が銃を引こうとした瞬間に、「やめろ!!」とディンブラが飛び込んだ。
とっさに飛び込み、手元を掴んだものだから、ディンブラは左腹を撃たれてしまった。
苦しそうにするが、傷口を手で押さえながら小麦を見上げる。
苦しそうなディンブラを見て小麦はたちまち現実に戻った。
周囲に背景ができ、目の前のディンブラが目に入る。
「・・・あ・・・ディンブラ・・・・・」
「小麦・・・君が親を殺す必要なんて無いじゃないか・・・」
手から銃を落としてディンブラを茫然と見ていた。
「あんなにも・・・親に会いたがってただろ?」
「俺は・・・もう一度、家族になれると思ってた・・・。父さんも・・・母さんもいて・・・他に兄弟がいたっていい。いなくなった俺を探してくれて、家族に迎えてくれると思ってた・・・そうなって欲しかった・・・ずっと・・・」
涙を流して呟くように言う小麦を母が見る。
「母さんに・・・撫でてもらいたかった・・・抱きしめてほしかった・・・。また家族になれた時に、2人の自慢になる息子に・・・なりたかった・・・」
顔を手で覆う小麦をディンブラが抱きしめてやった。
「魔王軍でだって!見つけて迎えに来てくれるようにって!沢山頑張った!2人が探してくれてると思った!!見つからないのはまだまだ頑張りが足りないからだと思ってた!!」
「よく頑張ったよ・・・小麦。ちょっと頑張りすぎたね。疲れたよね・・・」
荒く呼吸をして動く、熱い小麦の背中を撫でてやる。
思ってもいない展開になってしまい、ジュエは銃を拾ってつまらなさそうに出ていった。
「ごめんね、小麦。・・・一緒に帰ろうか、エディブルに」
小麦は黙って頷いた。




