廃墟の山で宝探しを
依頼を受けたディンゴたちは準備を整え、二日後の昼頃には現地へ到着していた。
明確な期間は設けられていない。だが使える施設などを見つけた数だけ金になるという都合上、早く動くに越したことはない。
「荷物持ちサンキュな」
ザイルの背中に荷物を括り付けられたのは有難かった。
彼は移動速度こそ人間と同じくらいだが、馬力と持久力があるので運搬能力が高い。
紅い鎧のイケメンへ礼を言うと、彼はご機嫌な様子で尾を振って応えた。
DIY本を参考に作った人工池が大変お気に召したらしく、貧弱な人間の荷物持ちも快く引き受けてくれた。
放棄された街に辿り着いたディンゴたち一行は周囲を見渡しながら、どこから調べるか相談する。
「思ったよりも見通しが悪いな……」
兜の奥からくぐもった声でサイカが唸る。
放棄された街……かつてターロンと呼ばれていた街は面積こそ大きくはないが、所狭しと詰め込まれた建築物によって雑然としていた。
薄利多売のデッドコピー品を作っていただけあり、安い労働力を効率よくこき使うために建てられた社員寮という名の飼育小屋が多い。似たようなデザインの建物にびっちりと空いた小さな窓は蟻塚を思わせる不気味さを漂わせている。
バルドシティとは違った寂れた風景にザイルが首を傾げている。
ディンゴはリボルバーの弾倉を確認すると、人気のない街並みを見やった。ぱっと見で魔獣の気配はないが、植物の類が擬態している可能性もある。その場合必要なのは勘の良さではなく知識の多さだ。
「どこから探す?」
「社員寮には大したものはないはずだ。私たちが狙うのは工場だが……これでは辿り着くまでが大変だな」
「ここで唸ってても仕方ねぇや。あてがないならとにかく歩くか」
「……だな。どうしても見つからないときは高い建物に登って探そう」
とりあえずの方針を決めたディンゴたちは、終わった街へ向かって足を踏み入れる。
街の中はところどころ緑が芽吹き、放棄されてからそこそこの年数が経っていることを感じさせた。元々ろくに整備されていなかっただろう道はさらに荒れ果て、車両などが侵入するのは難しいと思われた。
それでも不思議と崩落などはあまり起こっておらず、当時のままの面影を残している。
「意外と崩れてないんだな」
魔獣への警戒と物珍しさから周囲を見渡したディンゴが疑問を口にする。
サイカがARのストックを肩に当てて銃口を下げた待機状態……ローレディポジションでそれに答えた。
「まだそこまで魔獣が居ついていないからな。今なら有益な工場だけを残して整備すれば再生できる」
「でも魔獣が湧いてしばらくしないと魔力資源は回復しないんだろ?」
「ターロンぐらいの土地じゃ回復しても嵩が知れているからね。おそらく当面は粗悪な魔石なんかを使って賄うつもりだろう。今回はあくまで安い土地と施設の再利用に焦点が置かれているのさ」
安い土地に安い人件費、燃料までケチると来た。
極限まで費用を削減して利益を最大化しようという企業側の執念……もとい工夫が感じられる。
利用価値がなくなって放棄された街が、再び価値を見出され残さず絞りつくされる。
忘れられて人知れず朽ちるのと最後の最後まで使い倒されることのどちらがいいのか、ディンゴには分からなかった。
ふと足に触れたものへ視線を向けると、劣化して文字すら読み取れない社員証が落ちていた。
「世知辛いねぇ……」
「世の中金だよディンゴ。社員証か……生きていればどこかの工場に入れるかもしれない」
身も蓋もないことを口にしたサイカが社員証を拾い上げて裏返す。
ディンゴには分からないが、判で押されたように正確な魔術刻印が刻まれている。
「G-180548……何かの管理番号か?」
ぶつぶつと呟いていたサイカが社員証を懐に入れたと同時、遠くで乾いた音が木霊した。
「銃声か」
「近くはないが、先客がいるみたいだな」
二人は特に驚きもせず聞こえた方角を確認している。
この依頼に人数制限は定められていない、先に見つけた者が報酬を貰える先着式だ。
だからディンゴたち以外が居ても別に不思議はない。
先に来ていたハンターが調査中に魔獣と遭遇して戦闘が始まったのだろう。
「銃声が聞こえたということは、もう他のハンターが調べた後ってことになる。わざわざ行く意味はないな」
「だな」
ディンゴとサイカは音の聞こえた方を避けて進行方向を変える。
基本的に街の外でハンター同士が出会ってもいいことはない。
荒事に関わるハンターは気性の荒い者が多く、特に底辺層は犯罪者一歩手前……バレなければ多少の悪事はOKな者もいる。ひよっこハンターから身ぐるみ剥いで魔獣の餌にしてしまえば証拠も残らない。
そして何の実績もないハンターが数人消えたところで誰も気にはしない。
ギルドからも人目の少ないところでハンター同士が出会うのは極力避けるよう説明を受けるほどだ。人の命が安い昨今、自分の身は自分で守るのが当然であった。
ディンゴたちは進行方向を変えると、足早にその場を離れた。
しばらく進むと空き地のような場所に出た。
ぎっちり詰められた建築物の間に不意に出来た空き地……空の一坪のような不思議な空間だ。
ディンゴたちはそこで休憩を取ると、モミジに上から偵察させる。
多少大きくても蜘蛛は蜘蛛。音もなく平地のように壁を登って行く。
一番高い場所の風見鶏に乗り、脚でくるくると回して周囲を観察するモミジを水分補給しながら眺める。しばらくして糸を垂らし降りてきた彼女は、ぶら下がりながらチョイチョイと前脚を動かしてディンゴを呼んだ。
「おう、ご苦労さん」
彼女を労い野菜ジュースと木の実を渡すと、わしゃわしゃと牙を動かして喜んでいる。
モミジからの報告を聞いたディンゴはふんふんと頷くと、兜の隙間からストローで水を飲んでいたサイカを振り向いた。
「この先に工場っぽい建物を見つけたとよ。ぱっと見じゃ敵はいなさそうだが、風上だから詳しくは分からんとさ」
「……そ、そうか」
サイカは紫の眼にどこか釈然としない色を滲ませていた。
モミジが何も否定しないので間違いはないのだろうが、なぜここまで虫畜生のことが理解できるのかが分からなかった。
「おいおい大丈夫か?」
「ああ、うん……モミジの休憩が終わったらすぐに動こう。ほんの少しだが、さっきの戦闘音が近づいてきている」
「あ? まだやってたのかよ」
ディンゴはサイカの耳の良さに驚いたが、それ以上に先の戦闘がまだ終わっていないことに呆れていた。現代の戦闘が長引かないわけではないが、今この街に来ているのは探索が主のはずだ。
戦闘は短期決戦を心掛け、無用な消耗を避けるのが常道というもの。勝てないと分かったならさっさと逃げるのが利口のはずだ。こうも長引いては本末転倒もいいところ。
「別の奴らって可能性は?」
「この銃声はLMGだが、弾が残り少ないから大分発射レートを下げている。分隊支援火器をこんな撃ち方する意味はあまりないと思う」
「いい耳してんな。にしてもLMGね……弾代きついだろうによくやるぜ」
あれから一時間は経っている。
その間も撃ち続けていたのなら弾も問題だが、なにより銃が持たない。
魔導銃の銃身は耐久力のある素材で作られているのが主だが、魔弾の余波を絶え間なく浴び続ければ多少なりとも変質してしまう。
こんな依頼で替えの銃身などそう何本も持ち合わせている訳もないし、音の主はかなり追い詰められているようだ。
「……ま、こういう仕事だからな」
顔も知らぬ誰かさんのために命を張れるほどディンゴもお人好しではない。
ハンターになる者など大なり小なり命の危険を受け入れて生きている。同情はするが、自身の食い扶持を放り出してまで助けないのが普通だ。
「行こう。後で寄れば装備と、ついでにハンターカードが回収できるかもしれない」
「お、言うねぇ。死体漁りが板についてきたじゃないの」
「新鮮な死体ならまあいいかなって……」
二人は現代っ子らしい会話をしながら腰を上げ、お宝があるという方向へ歩を進めた。




