カルチャーショック
店というよりは仮設テントのような場所で適当に食事をする。
みんな大好きカレー(具なし)を食べようとしたら何故かサイカに断固拒否されたので、仕方なくホットドッグを頼んだ。パッサパサのパンとでかいだけで臭みの強いソーセージだが、ジャンクな食事には謎の満足感がある。
モミジがりんご風味ジュースを啜るのはいいとして、隣でザイルが食べているのはチキンステーキだ。
チキンと言っても本物の鶏肉ではなく、鳥型の魔獣の肉を使っている。硬くて単調な味だが、量があって何より安い。まあそんなことより……
「……お前、鳥の雛助けてなかったっけ?」
なのに鶏肉食べるのはいいのだろうか。
ホットドッグ……こちらは何と犬型魔獣の肉を使用している本物(?)へマスタードをドバドバかけながらジト目を向ける。
ザイルはハサミに挟んだフォークを器用に使って食べていたチキンステーキを置いた。
すると両ハサミで何もない空間を掴んだ後、持ち上げて横にどかすジェスチャーをしてみせた。”それはそれ、これはこれ”という事らしい。
「硬そうな見た目の割に、なんとも柔軟なことで……」
「ディンゴ、マスタードの掛け過ぎは体によくないぞ」
少々物足りないが、サイカに咎められたので黄色いボトルを握る手を止める。
申し訳程度のケチャップとマスタードでまっ黄色に染まったホットドッグへかぶりついた。ジャンクな味わいを堪能していると、サイカが狭いテーブルに一枚の書類を滑らせる。
「さっき仕事の募集があったから、一枚貰っておいたんだ」
「おう、話が早いな」
「食べながらしゃべらない……君に任せてまた汚れ仕事を受けられたら堪らない」
サイカは今日の仕事を思い出してげんなりしたのか、食事の手が一瞬止まる。
ライスボールを食べた彼女はカッと目を見開くと、信じがたいといった表情で食べかけのそれに視線を落とした。
「何故、具にチーズとベーコンが……?」
サイカの地方ではない食べ方だったのだろう。カルチャーショックを受けた彼女はわなわなと震えていたが、気を取り直して仕事へ話を戻した。
「私たちは西区、ナルサワ重工の影響下にある。だから受けられる仕事も自然とそれに関係する物が多い」
「ま、そりゃそうだわな。具体的には?」
「重工業、つまりインフラだったり巨大施設だったりなんだけど……この分野は幅広い分、雇用の循環が激しくてね」
話がちんぷんかんぷんだ。
とりあえずデカい施設を作るのが仕事という事だけは分かったが、それが循環とどう関係するのだろうか。ズコズコとバケツサイズのピンク色した炭酸飲料を啜りながら手を上げる。
「サイカ先生、スラム育ちの俺にも分かり易く言ってくれや」
「簡単に言うと、仕事の奪い合いで水面下の暗闘が多い。大企業からの下請けのさらに下の下……末端企業同士が仕事を奪い合うため、日夜争い合っているんだ」
「世知辛いことで。そのみみっちい争いに、俺らも参加しようってのかい?」
どうにも格好がつかない……が、死体漁りに糞漁りをした今となっては今更だ。
現に今のディンゴたちはそのみみっちい仕事しかない駆け出しハンターをやっている。
「今回は直接ぶつかり合うようなことにはならないと思うけどね。どちらかと言えば競争かな?」
そう言ってサイカは仕事内容を説明した。
近頃は都市の地価が上がってきたため、薄利多売の工場が建てられなくなってきた。
なので安い土地を求める必要がある。しかし外縁部は権利関係がややこしいため、土地の権利者を探すだけでも一苦労。建てた後から文句を言われると非常に面倒だ。
という訳で白羽の矢が立てられたのが荒野……は流石に難しいので、放棄された小さな街の跡地だ。
街といってもかなり規模が小さく、田舎集落に近い様なものだった。
記録によると工場がいくつかあり、経過年数から推測すれば機材は死んでいても施設はまだ生きている可能性が高いらしい。
物資輸送バスのルート上にない上に、劣化コピーの粗悪品を大量生産していたようなグレーな街だったためにこれまで誰も調べてこなかった。
だが今回は場所と施設だけがあればいい。当時の粗悪品……とまではいかなくとも、安かろう悪かろうの大量生産工場を復活させようという訳だ。
「使える工場を発見、確保したハンターに報酬が出る。複数見つければそれだけ多く貰えるし、見つけた物は多少なら懐に入れても怒られない」
「宝探しって訳か……企業同士の争いって割には面白そうだな」
「こういう探索はハンターの質より数が大事だから、募集も幅広い。街の規模も小さいし、食い詰めて放棄されたから魔獣の危険度もそこまで高くはない」
よく考えられている。雑に”リスク低めで稼げそうなの”という条件で検索したディンゴとは雲泥の差だ。工場警備とか言われたらどうしようと思っていたが、これなら腕試しにもなりそうだ。
「この依頼、受けようぜ」
「そう来なくちゃ」
サイカとディンゴは次なる仕事に意気を揚げ、拳を突き合わせた。
もぐもぐしながら見ていたモミジとザイルは顔を見合わせた後、真似をしてハサミと脚をくっつける。
「そういえばディンゴ、君の師はあのビーストか?」
「あ?」
話がついた二人は食事に戻ると、ふと思い出したサイカが尋ねて来た。
なんとなく咥えたストローをガジガジしながら疑問符を浮かべる。しばらくして彼女の言うビーストが狐先輩ことベニーのことを言っていることに気づいた。
「ああ、ちげぇよ。ありゃただの先輩だ。色々教えてくれる頼れるアニキだが、マスターじゃない」
「そう、か。残念だ……あのビースト、相当できるのに」
「なに、有名人?」
指についたマスタードを舐めとりながらもう一つ食べるか考えていると、サイカは深く頷いた。
「赤毛のベニー……ウォリアーでも指折りの実力者だ。突撃兵としてあの男ほど優れた者は他に居ない、と聞いている」
「へぇ。強いんだろうなとは思ってたけど、そんなにすげぇのか……あんまり褒めると調子乗りそうだし黙っとこ」
「君はまた……」
彼女の言わんとするところは分かる。
ベニーとディンゴは本来であればまともに相手もしてくれないだろうほどに離れている。彼がその気になれば瞬きの間に殺せるだろうし、実際に殺しても誰も咎めない。
それほどまでに力も金も地位も離れている。
彼がディンゴに良くしてくれるのは趣味や気まぐれ、おせっかい……その類のものだ。決してディンゴが特別な訳ではない。そこを勘違いすれば、いつかきっと痛い目に遭うだろう。
「俺からすりゃ並ハンだろうがハンターとしてやっていけてるなら十分すげぇよ。どこの誰それが強いってのより、まずは自分が強くならねぇとな」
「ディンゴ、君はなんというか……私の周囲には居なかったタイプだな」
「褒め言葉と受け取っておくぜ?」
ゴミを丸めたディンゴが立ち上がる。
もう一つ持ち帰りでホットドッグを買うと、ザイルの脚を軽く蹴って促す。
「先行くぜ。おら、DIY本買ってきたから池作るぞ」
万歳して喜ぶザイルとディンゴが先に帰る。
「……度し難い」
残されたサイカは無言で手元のライスボールと睨めっこしている。
中から覗くチーズと冷めた油で白くなったベーコンは、目下彼女にとっての一番の強敵であった。




