さととまりあを呼んで、悪鬼と人間の集団の討伐の心構えをレクチャーしてもらった。
「さと、まりあ。
という訳で、俺達は今後悪鬼と行動を共にする人間相手の討伐も増えて行くと思うし、人間を殺害しなきゃならない状況も出てくると思うんだよ。
その時に真鈴達が、まぁ死霊が見える俺や凛もそうなんだけど、四郎や明石や喜朗おじの様に経験を積んでいない者達に何と言うか…何か助言が欲しいんだけど。」
俺が説明すると、さととまりあは紅茶のカップを手に持って口につけ、暖炉の間に集まったワイバーンメンバーを見回した。
「そうか、討伐する対象に人間が入ると…成る程ね~その辺りの事にあまり知識が無いといざと言う時に戸惑うか躊躇する事も有り得ると…。」
「そう、その通りなんだ、さと。
俺は死霊が見えるようになってから、それまで死んだら終りっていう感覚から随分抜け出たと思うんだけど、やっぱり死んだり殺したり、それが強い悪鬼相手に必死に身を守ると言う事と少しニュアンスが変わる時に、同じ人間相手にって時に…上手く言えないんだけど…人間と悪鬼で差別している訳じゃないんだけどね…。」
「う~ん。
彩斗君が言いたい事は感覚として判るわ~!
まぁ、悪鬼相手だとそもそも人間の法律が適用できないしね~。
また、人間相手だと、逮捕だけというよりも起訴して裁判して判決を下して刑の執行まであなた達個人個人でやらなきゃいけなくなる場合もあるしね~。」
さとが腕を組んで唸った。
まりあが俺に尋ねた。
「彩斗君、やっぱり悪鬼を討伐するのと人間を討伐するのって感覚が違うの?」
まりあに尋ねられて俺は考え込んだ。
「う~ん。
俺が初めて人間を討伐したのは確か富士樹海で創始者を名乗る集団と戦った時かな?
真鈴達もそうだよね?」
俺の問いに真鈴とジンコ、加奈が頷いた。
「その時に、倒した相手の中人間が混じっていた事に少なからずのショックを受けたよ。
武器を持って襲い掛かって来たとは言え、やはり俺達と同じ人間だったからね。
真鈴達だってそうだろ?」
「そうね、彩斗が言う通り、私達が倒した中に人間が混ざっていた時にやっぱりショックを受けたわ。
まぁ、正当防衛だと自分に言い聞かせたけど…やはり気分は沈んだわ。
でも、その前に子供殺しの外道を始末せずに警察に引き渡してあんな結果になったし…今はとても複雑な気分…。」
と真鈴。
「そうね、差別という訳じゃないけど…やっぱり差別なのかな?
人間と別種になった悪鬼を倒すのと同じ人間を殺すのとでは…違ったわね…。
私はやはり人間なら取り押さえて人間の法の裁きに任せたいと今でも思うもの。」
とジンコ。
「加奈はぁ、悪鬼と言えども無抵抗の者は殺せませんでしたぁ~。
なんか卑怯ですぅ~。
それに人間は加奈が見た限りじゃ悪鬼より遥かに弱いですぅ~。
なんか言う事が変だけど、」
加奈がそう答えると
隣に座って凛が加奈の手を握って小声でありがとうねと言っていた。
加奈は凛の手を握り返して微笑んだ。
さとが真鈴達の顔を見て言った。
「そうかぁ、真鈴達が戸惑うし、いざ始末しなきゃいけない時に躊躇うかも知れないと言う事は判るわね。
確かに一分一秒を争う時にそれは命取りになるかも知れないわね~。
う~ん、これを聞いて真鈴達が気が楽になるか判らないけど…死後の存在がある事は真鈴達はもう判っているわよね?」
真鈴達は顔を見合わせた。
「え、ええ、はなちゃんもいるし。
死後にも存在が続くと言う事は頭に入ってるけど…実際に見ていないし、実感として湧かないわね。」
「そうね、真鈴が言うように私も加奈もやっぱり死んだら終りと言う気持ちはあります。」
「加奈もやっぱり死んだらそこで試合終了だと心のどこかで思っていますぅ~。」
さととまりあが深く頷いた。
「そうね~!
死んだらそこで終わりだと考えると、『殺害』すると言う行為は重大極まりないわよね~!
相手を殺害すると言う事はとても責任重大だと思うわよやっぱり!」
さとがそこまで言って紅茶を飲んだ。
まりあが真鈴達に質問した。
「じゃあ、何で真鈴達は悪鬼相手でも人間相手でもそんな責任重大な『殺害』すると言う行為をするの?」
真鈴達は顔を見合わせた。
「え…それは勿論、私達の身を守る為でもあるし…。」
「それと、相手に酷い行い、殺人などを止めさせるためであるし…。」
「今始末しないと将来もっと犠牲になる人が出るかも知れないし~。」
「そうよね。
あなた達、私利私欲で殺す訳じゃないでしょ?
もしくは自分の基準で勝手に生き死にを決めている訳じゃないし。」
「その通りよ。
好き嫌いなんかで好き勝手に殺す訳じゃ無いわ。」
「それで良いのよ。
あなた達の行いには愛と平和をそして人の命を守る為と言う立派な理由が有るわ。
ただ、私にもそれが完璧な正解、殺害する事が完璧な正解だとは判らないわ。
神じゃないんだからね~。
でも、人間や悪鬼のあなた達は非常に考えた上で慎重に調べ上げた上で世界に仇名す存在を討伐してるんでしょ?
警察並みに、いや、それ以上に調べ上げて確固たる証拠を掴んだうえで討伐しているんでしょ?
現にあなた達は私達が人の死に力を貸していると言う証拠を掴んでもいきなり襲撃を掛ける事はしなかったじゃない。
その思慮深い行動のおかげで今私達とあなた達はこうしているわ。」
「そうね、冤罪で関係ない者を殺害したなんてしたら目も当てられないわ。
私達はとても厳密に証拠固めをしてから討伐しているわ。」
「それで良いのよ。
あなた達は可能な限り以上の努力をして調査したうえで討伐を決めた対象を討伐している…殺す、殺害すると言うよりもね、この世界から排除したと思った方が良いわね。」
「排除…?」
「そう、排除よ。
彩斗君や凛たちは判ると思うけど死んで全て終わりじゃないでしょ?」
俺達はさとの問いに頷いた。
「そうだね、確かに死んで全て終わりじゃない…。」
「そうよ、死んで全てが消失する訳じゃないのよ。
ただ、誤解して欲しくないのはね。
人間の人生なんてコンピューターのゲームなんかと違ってセーブやリセットが全然効かないのよ。
人生にそんな便利な機能は付いてないわ。
だからね、今の辛い境遇から抜け出そうと自殺したりするのは余計に状況を悪化させる事だけは覚えておいてね。
辛いからやめる逃げると言う気持ちで新しい境遇に入ろうとして命を絶って死霊になってもね、そのネガティブな考えが固定されて、酷いケースだと何百年何千年も苦しみ続ける羽目になるからね。
まぁ、それは置いておいて、この世界にいると他の人間に不幸を及ぼすと言う事で他の世界にはじき出したとでも思えば、この世界から排除したと思えば少しは気が楽になるかしら?
死んで全てが終わった訳じゃないわ。
死霊になってもまだ意識が有るから、もしかしたらそこから更生して立ち直る事だって無い訳じゃないのよ。
まぁ、スタート時点、この世界から排除されたと言う時点で恵まれたスタートとは言えないけどね…それは自業自得と言う事ね。」
真鈴達が俯いて考え込んだが、やがて笑顔になって顔を上げた。
「ありがとう、さと、まりあ。
少し気が楽になったわ。」
「そうね、真鈴が言うように気が楽になった。
あくまでこの世界から排除するけど奴らには悪事を行った罪を清算するチャンスもあると言う事だもんね。」
「加奈も気が楽になりました~!
あくまでもこの世界からの排除ですぅ!」
「俺もさとさんとまりあさんの話を聞いて少し楽になりました。」
「さと、まりあ、ありがとう。
待て皆でコーラスしましょうね。」
「さすがにさととまりあじゃの!
わらわも話を聞いて腑に落ちたじゃの!」
「そう、皆のお役に立てて良かったわ。
何よりもあなた達が迷ったり戸惑ったりしないように気を付けてね。
それこそ無益な死を呼び込まないようにね。
ワイバーンに幸運を、と私達はいつも願っているわ。」
さととまりあは、圭子さんが温室のイチゴで作った大きなストロベリーパイを持って黒田が運転する濃いグリーンのジャガーで去って行った。
「さて、少し気が楽になっただろう?」
俺が言うと皆が頷いた。
幾分晴れやかな顔になっていて俺はホッとした。
そして、俺達は中野の悪鬼達の討伐の計画を練った。
これでワイバーンのコンディションも心身ともに完璧だと思った。
続く




