表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

討伐の計画を進める中で俺達も心のケアが必要だと気が付いた…殺す事のストレス…かなり重いんだよ。

首領格の中田はほぼ毎晩店を閉店した後も遅くまで店の2階にいて、お供の悪鬼と何やら色々と悪事を相談しているらしい。

時折、大田区のスペースエッジから不定期に2~3匹の悪鬼がやって来て色々と報告会を開いているとの事だ。

そして閉店後シャッターを下ろした1階店の奥では人間でいながら悪鬼の所業にどっぷりつかった中年の男と女1人づつがほぼ毎晩遅くまで賞味期限や消費期限の貼り替えや、中国産の劣悪な食材を、正規の日本産と表示された小袋に入れる作業をしていた。


この2人の男女はいくつかの殺人にも関与しているし、定期的に悪鬼達が人間をかどわかして殺人を行う事も知ったうえで隠ぺい工作に手を貸している。

俺達の基準では充分討伐の対象だ。


およそ反省、更生、まともな社会復帰など望めない奴らで降伏の勧告に従わなければ殺す事になる。


だがしかし、俺達、俺や真鈴、ジンコや加奈、クラや凛や圭子さんでもこの2人の人間の討伐に手を下すのにあまり乗り気と言う訳でも無いようだ。

隠し取りした写真、名前や年齢などの所をなるべく見ないようにし、互いの顔を盗み見て表情を読み合っている。


今まで、俺達は事前に人間とはっきり判る対象を人間と認識したうえで『殺した』事は無い。


樹海地下の戦闘で悪鬼に紛れ込んだ人間から攻撃を受けて反撃してその結果として殺したと言う事は経験がある。

それでさえ、しっかりと正当防衛と己に言いきれる状態でさえ、その後暫くは心にとげが刺さったみたいで、事あるごとのそれが引っ掛かったような感触を覚えていた。


廃ボーリング場で若いとはいえ悪鬼となった奴らを大量にこの手で始末したのとは断然違うのだ。


はなちゃんが俺達の気分を察したのだろうか、手を上げて言った。


「景行、四郎、喜朗おじ、どうやら彩斗達はの…まぁ、人間と言うのは面倒くさい物じゃが…。」

「まて、はなちゃん、われも景行も喜朗おじも感づいているぞ。」


四郎がはなちゃんを制してため息をついた。


「やれやれ、彩斗と真鈴はあの子供殺しの外道でさえ殺さずに警察にと言っていたのを思い出したぞ。」


明石と喜朗おじがソファの背もたれに体を預けた。


「やれやれ、凛も躊躇ってるのか…。

 まぁ、加奈があの晩に殺すのを躊躇ってくれたから凛もここに居るんだがな…。」


喜朗おじがそう言って煙草に火を点け、また続けた。


「あの時にな、加奈は非常に危険な状態だったんだぞ。

 加奈、俺が何度も言っていた事を覚えているか?

 耳にタコができるほど言ったよな。」

「うん、喜朗父…覚えているよ…殺る時は、絶対に躊躇うな…加奈はしっかり覚えているよ。

 迷って殺されるより、殺ってから後悔する方が何倍も良いと…。」

「そう、その通りだ、加奈。

 あの土砂降りの晩、俺も景行もな、ずっとうなだれた凛の頭に狙いを付けていたぞ。

 もしも、凛が…凛、済まないな。

 あの時は凛がどういう境遇だかはっきりとは判らなかったんだ、1000分の1の確率で凛が演技をしていたらとな。

 俺も景行も何かあったら即座に凛の頭を吹き飛ばせるか斬り飛ばせる準備をしていたんだ。

 正直あの時は肝が冷えたぞ…まぁ、良い結果になってな…良かったが。

 …だがな、次にああいう時になったら…どうなるかな?」


明石が煙草を吸いながら俺や真鈴やジンコ、加奈や凛やクラと圭子さんの顔を見回した。


「まぁ、圭子も含めて君らが考えている事は判るさ。

 圭子だって悪鬼は何体か始末したが人間は始末した事が無いもんな。

 やはり人間が人間を殺すと言うのは大変な事だ。」


真鈴がぽつりぽつりと話し始めた。


「景行…私はね、悪い奴と言っても人間相手だと…これは最近訓練を積んだ奢りかもしれないけど…明らかに人間より強い悪鬼相手と、ただの人間相手じゃね…それに私は法律を勉強しているからなのかもしれないけど…討伐すると言う事はね、その場で警察も検察も弁護もすべて行ったうえで判事の様に判決を下して、そして極刑も含めて執行するのよ…私自身がよ。

 相手が悪鬼で人間の法率の範疇を越えている存在でちょっとの油断でこちらも殺されると言うのとはね…何と言うか…ニュアンス的な物なんだけど…。」


そこまで言って黙ってしまった真鈴の肩をジンコが抱いた。


「景行達、誤解しないでね。

 真鈴は人間と悪鬼を差別する気なんて全然無いの。

 でも…しかしね…やはり悪鬼との戦いで生きるか死ぬか、いや、殺すか殺されるか、ぎりぎりの所とね…やっぱり私達は悪鬼相手に戦ってきたから少し驕りが出ているかも知れないけれど…やはり人間相手だとは…。」


そこまで言ってジンコが俯き、明石は再び俺達を見回して頭を掻いた。


「やれやれ、その気持ちは判らんでも無いな。

 何百年も修羅場をくぐった俺でもそう言う気分になる事は未だにあるぜ。

 今の戦争でも激戦を潜り抜けた兵隊どもがどんどん心の病に侵されているしな…。」

「うむ、景行が言う通りかも知れん。

 われが生きていた160年前と比べてもな、あの頃の命の価値観と今の価値観とは比べ物にならないし、彩斗達が誰かの命を奪う時の心の衝撃と言うか、ダメージもな…ずいぶん大きいと言うか実は大きかった事が判り始めて来たと言う所かな。

 われでも全くダメージを感じないわけでは無いが…。

 しかし…皮肉と言えばそれまでだが、誰かの命を守る為に脅威となる奴の命を奪わなければならんのがまぁ、われ達の仕事なんだがな…。」


「景行、四郎、喜朗おじ…これは…俺たち一人一人が納得しなきゃいけない事だとは思うんだ。

 しかし、無理やり自分に言い聞かせてこれからも続けて行くのは少しきついと思うんだよ。

 俺や凛は死霊が見えるし話せるから真鈴やジンコ、加奈やクラよりは少しは理解が出来るかも知れないけど。」


凛が俺の顔を見て小さく頷いた。

そう、人や悪鬼が死ぬとどうなるのか大体判る俺と凛だった。

死霊を見る事が出来ない真鈴、ジンコ、加奈、クラにとっては人間や悪鬼の生き死にの理解度が少し違うような気がする。

何か必要以上に深刻にとらえてしまうのじゃないか…。


そこまで考えた時、俺は随分と真鈴達、普通の人間と随分考え方が違ってしまったような気がして苦笑いを浮かべてしまった。


「うん、でも、このままもやもやした気分で討伐を行う訳にもいかないし、俺達人間メンバーは悪鬼だけの討伐を行うと言ってもそれは無理と言うものだし、どうだろう?さととまりあに話を聞きに行ったらどうだろうか?」


俺の提案に真鈴達は顔を見合わせた。


「真鈴、俺はいつごろからか死霊が見えるようになった。」

「うん、それは知ってるよ彩斗。」

「だからさ、俺と真鈴達とか少しばかり死生観が違うかも知れない。

 富士の樹海で小次郎が天に昇って行く時に挨拶もしたし、ここが襲撃された時に護衛の人達とも挨拶をしたし、だから俺は何と言うか…。

 真鈴達よりも少しだけ冷静に生きる死ぬと言う事を理解できているかも知れない。

 人や悪鬼が死後も存在する事を知ってしまったからね…そこでさ。」


言葉に詰まった俺に凛が助け舟を出してくれた。


「そうよ、真鈴。

 私や彩斗は死霊が見えるからね、あなた達よりは深刻過ぎて捉えないかも知れないけれど、上手く説明できないわ。

 そこでさととまりあなら、私や彩斗よりも上手に死と生について説明できるかもしれない。

 さととまりあの経験上の事からね。

 少しは真鈴達の心の重荷を軽く出来るかもね。

 真鈴達が悪い奴らの命を奪う行為にも何か大きな理由があるかも知れないと思うわ。」


圭子さんが大きく頷いた。


「そうね、さととまりあだったら私達がやってる事の意義を上手く説明してくれるかも知れないわね。

 真鈴やジンコや加奈やクラだってなんかもやもやした気分のまま討伐を続けられないんじゃないの?

 なんか時代が変わって来たのかな?

 昔は悪鬼と人間の組み合わせなんてあまり見なかった気がする。」

「うむ、圭子さんが言う通りだな。

 われもあの市民戦争が始まる前には悪鬼と人間がお互いの素性を知ったうえで共に悪事を働くのを見た事は無かったぞ。」


明石がため息をついた。


「ふ~ん、言われてみれば確かに…戦国が終わり江戸時代と言うものの中頃か終わりごろまでは人間と悪鬼のコンビなどあまり聞かなかったような気がするな…まぁ、しかし、今後はこういう奴らも増えて行くだろうしな。

 真鈴達が悪鬼と共に人間をも討伐しなければならん状況だって増えるかも知れんから、今のうちに心の準備を固めるべきかもな。

 体の筋肉の疲れなどより、精神の疲れの方がよっぽど厄介だからな。」






続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ