今回の討伐のケースは色々と厄介だった…岩井テレサの組織でさえ国相手では弱小組織なのだ…上手く立ち回らなければならないようだ。
真鈴のボルボが新しく防弾ガラス仕様になって戻って来たのは4日後だった。
余程急がせたのだろう。
スぺースエッジについては、岩井テレサの調査部に後を任せ、俺達は色々なコンビネーション訓練を続け、討伐の準備を進めた。
そんな中ノリッピーが死霊屋敷に調査部の男女を連れてやって来た。
地味なスーツを着た男女は男が今井、女は田所とだけ名乗り、スペースエッジの背後にいた政治家を突き止めた事を伝えた。
ある千葉県会議員が奴らからかなりの資金援助を得ていて、産廃処理場がある市の市議会議員を何人か買収して『汚染』させ、便宜を図らせている。
そしてその県会議員の師匠格の国会の与党議員にも『汚染』が広がっているようだ。
県会議員がかなりの上納金を収めて問題の与党議員はどっぷりと県会議員からの『援助』にはまっているとの事だ。
議員と言う奴らは驚く程、金に転ぶな~と、今井と田所から話を聞いた俺達はビックリした。
「まぁ、古今東西、一番お金にがめつい人種だからね、そういう訳で少し討伐に取り掛かるのに時間が掛かりそうなんだよ。
今、岩井テレサが政府の主立つ者と話してどういう言う対策をとるのか話し合ってるよ。
勿論これ以上人命が失われそうなら緊急に動くしか無いけどね、今の所は様子見かな~。」
ノリッピーが渋い顔をした。
「それって…まさかノリッピー達は議員に遠慮して奴らを見逃すとか…」
圭子さんがそう言いかけるとノリッピーは慌ててかぶりを振った。
「いやいや圭子さん、そんな事で悪事を見逃がしたりはしないよ~!
ただね、議員が絡んでいる時は問答無用で討伐する前に、政府の方に事前通告が必要だと言う事さ。
政府が対象の討伐は困ると、政府で処理する言い張っても過去にはこちらが無理に討伐を実行した時があってね、それで結構社会的に大きな騒ぎになって一般人にも死傷者が出たりしてね、今は事前に通告をして対処を話し合う取り決めになっているんだ、政府の方で闇から闇で問題の人物を消さざるを得ない時もあるようだしね。」
「なんか…結構ドロドロなんですね。」
俺が苦い顔をするとノリッピーも苦笑いを浮かべた。
「彩斗君、まぁ、どの国も闇を抱えているよ。
そして、私達も政府もお互いに最小限の配慮が必要と言う事さ。
慎重な腹の探り合いのような、デリケートな駆け引きも必要なんだよ。
余り強引に討伐を進めて政府を激怒させるわけにもいかないからね。
私達の戦力一つとってもさ、彩斗君達同盟チーム全部が味方になってくれてもせいぜい数個軽歩兵大隊と言うところだね。
国レベルの軍隊の規模からみると比べ物にならない位弱小なのさ。
人間だけの兵隊と比べたら随分手強いとはいえ、政府が被害に構わず全力で私達をつぶしに掛かれば絶対に殲滅されてしまうからね。
しかしそんな事をすれば自衛隊の戦力も随分失うだろうし、そんな事態になれば日本の評判も地に堕ちるし、戦闘の復興一つとっても大変な時間が掛かるだろうからね…アジアの軍事バランスも大幅に崩れて何が起こるか判らない状態になってしまうだろう?
無用な内戦になるような事態は避けようと言う事さ。」
「…うわぁ…なんか面倒くさいわねぇ~。」
「うふふ、圭子さん、悪い奴を見つけ次第討伐って行ければ楽なんだけどね~。」
「まぁ、俺達は公にとはいかないが、今の日本国内でかなり便宜を図ってもらっているのだからな~。
それくらいは政府に気を使わないとあかんのだろう。
岩井テレサもノリッピーも結構裏で苦労していると思うな。
お疲れ様です。」
明石がそう言ってノリッピーに頭を下げた。
「どうもありがとう。
まぁ、我々のような弱小勢力は頭を使って色々と切り抜けないとね~。
だが、強い者に忖度して主義を変える事はしないよ。
悪い奴を討伐して一般人を、平和を守る。
これだけは揺るがないから安心して欲しいな。
悪い奴は見逃さないよ。」
と言う事で、裏で便宜を図っている議員どもの処分などを政府で検討する間、討伐に待ったがかかった。
そして2日後に国会議員が心臓の発作で急遽入院、病状が深刻なので議員辞職する事になり、4日後に千葉県会議員がスペースエッジと別件の汚職疑惑が発覚して議員辞職をする羽目になった。
その翌日、県会議員に逮捕状が発行され、国会議員は死亡した。
『汚染』した市会議員達は次々と様々な利用で辞職して補欠選挙が忙しく行われるそうだ。
政府が裏で対処したのであろう。
死亡した『汚染』国会議員は余程、別に隠していた悪事が出て来たのかも知れない。
それとも悪事に加担した者が口封じに…恐ろしいな…。
この4日間の間に岩井テレサの調査部は千葉の産廃処理場と大田区の雑居ビル、そしてクラが狙撃されたジャンクヤードで殺人が行われたハッキリした証拠を掴み、スペースエッジの全面的な討伐計画が進められた。
今回の討伐で厄介な事は悪鬼だけでなくかなりの人間がスペースエッジの構成員と言う事だが調査部が事前に細かく調べ上げ、顔写真付きで人間と悪鬼を識別できる資料を作った。
雑居ビル、ジャンクヤードと産廃処理場の人間構成員は、全ての悪事を知ったうえで、また、上層部が悪鬼である事を承知で殺人、麻薬や武器の取引等に加担している事で討伐の対象と決まり、抵抗した場合は容赦なく殺害、降伏は受け入れて警察に引き渡す、抵抗せずに逃亡した者については殺すまでの事はせず周囲に待機した別動班が身柄を確保した後に警察に突き出す事になっている。
その場合、かなり悪鬼に関する情報が制限される状態での裁判が行われるだろう。
特に中野の似非自然食品の扱いに俺達は悩んだ。
中田英雄と店長代理の悪鬼は当然討伐するとして、人間の店員たちをどうするのか…中にはでたらめな製品を取り扱っている事を充分知りながら勤務している奴もいれば、中田が恥知らずに高らかに述べた表向きの白々しい自然食品の売り言葉を信じて勤務するようになって実情を知り、それでもこのご時世でやめる事も出来ずにいやいや働いている者もいた。
中野の似非自然食品店の始末には困った。
俺達は頭を抱えてしまった。
「どうする?
店員たちも悪いと言ったら悪い奴だけど討伐して命を奪う程の悪事と言えるかな?」
俺が言うとジンコが悩ましい顔になった。
「彩斗、確かにそうだね~!
でも、あそこが降ろしている偽の食品を食べて保育園児が2人死にかけているんだよ。
アレルギーでさ。
大豆アレルギーの子に大豆が入っていないと歌ったビスケットを食べさせて死にそうにしているしね~!
表沙汰にならない範囲で何人か死んでるかも知れないしさ~!
それに消費期限のシールの貼り替えなんて日常的にしているじゃないのよ。
まともな神経をしていたら普通働けないわよね~!」
真鈴が口を尖らせた。
「戦争中にさ、ユダヤ人の絶滅収容所の看守として就職してさ、いざ就職してからからその業務の中身を知っても働き続けるかって感じよね。」
加奈や凛やクラがうんうんと頷いた。
圭子さんが苦虫をかみつぶした顔で言う。
「ナチの頃と違って今だったら辞めると言って自分も収容所に入れられるって訳でも無いしね~!
そんなに職を失うのが怖いのかしら?
アレルギーがある子供が死にそうなものを思い切り嘘ついて食べさせてるんだよ!
ある意味殺人に加担しているのにね!
子供を持つ私としては許せないわ~!」
「うん、圭子が言う気持ちが痛いほど判るがな、ただ、それで死ぬほどの罪になるか?という所だな~。
俺自身が司や忍がそこの似非食品食べて死んだりしたら全員地獄行きにするけどな…。
だが、しかしな~。」
中野の似非自然食品店の討伐を担当している俺達は悩んでしまった。
「ふわぁ!なんかめんどくさい~!
ジャンクヤードか産廃処理場の討伐に変更して思い切り暴れたいですぅ~!」
加奈が口を尖らせた。
「うむ、われもそっちの方が気が楽だな。」
「俺も悪い奴をバンバン討伐する方が気が楽ですよ。」
「私もだよ~!」
「俺もデリケートな仕事よりはそっちの方が良いな~。」
「わらわも慈悲の欠片も無く奴らを懲らしめる方が好みじゃの!」
四郎、クラ、凛、喜朗おじ、はなちゃんが口々に不満を述べた。
全くその通りだと俺も思った。
俺達ワイバーンは単純な荒事の方が得意だ。
しかし、今回俺達の人数ではジャンクヤードも産廃処理場も大田区の雑居ビルも単独での討伐は無理があったのだ。
いっその事岩井テレサやノリッピーに言ってジャンクヤードか産廃処理場か大田区の雑居ビルの討伐に変更させてもらうかとも思った位だが、それは諦めた。
どちらにしろ営業中の店を襲撃討伐する訳にも行かないだろう。
今回俺達は仕事人スタイルで中田を含む悪鬼2匹と、首までドップリと似非食品販売に浸かっていて上司が悪鬼と知ったうえで仕えている外道の人間2人を討伐の対象にする事に決め、個別に、しかも同時期に襲撃してなるべく静かに始末する事に決めた。
続く




