俺達は中野の似非自然食品店に急襲を掛けた…そして…。
俺達は入念に準備を進めた。
中田とその側近の悪鬼の顔写真、悪事に首までドップリ漬かった人間の男女一人づつの構成員。
人間2人は討伐の対象ではあるが警告をして降伏を呼び掛ける事にした。
万が一の時の為に警視庁で周辺を固めてもらう事になったが、中田達に警戒されては元も子もないので、機動捜査班員が乗った覆面パトカー数台が店周辺にさりげなく停まり、数ブロック離れた所に警察バスを止め、中に制服警官が待機して監視する事になった。
万が一打ち漏らした奴が逃げ出した場合、速やかに警察が抑えると言う段取りだ。
だが、悪鬼2匹は何としても店の中で仕留めなければならない。
そこで、2階は明石、四郎、喜朗おじ、はなちゃんをリュックに仕込んだ凛の悪鬼メンバー達が急襲して即座に始末する事に、1階の人間の構成員は俺と真鈴、ジンコ、加奈、クラで正面シャッター横の出入り口と裏口から侵入して挟み撃ちにしてオリジン12ショットガンを突きつけて降伏を促し、拒めば射殺すると言ういささか強引な段取りになった。
ある程度住宅が密集していてそれぞれの家の壁が薄く、はなちゃんが音の壁を張り巡らせたとしても貫通力が高い40口径弾使用のUMPサブマシンガンは使えないので俺達は威力はあるが貫通力が低いマグナムオーバック弾使用のオリジン12ショットガンとナイフ、いざと言う時だけに使用するSIGの装備とした。
千葉の産業廃棄物処理センター、東京多摩地区のジャンクヤード、大田区の雑居ビルなども第3騎兵スコルピオと応援の第2騎兵タランテラが急襲を掛ける事になっている。
どこか一か所でも時間がずれると警報を発せられて残りの拠点も警戒に入られるので、一斉に急襲を掛ける必要があった突入時間は午後10時20分と指定された。
その時間が一番スペースエッジであり、蒲鷺組の構成員が各拠点に集まっているのだ。
各構成員の行動は何日も前から把握していて、急襲時に拠点に居ない者は第1騎兵カスカベルが追尾して悪鬼なら速やかに殺害、人間構成員は抵抗しなければ身柄を拘束して警察に引き渡す手順となっていた。
「やれやれ、『加奈・アゼネトレシュ』の出番は無いですぅ~。
それにオリジンショットガンだってスラグ弾使えないし~!
スラグ弾なら一発で仕留められるのにマグナムオーバックのバラ弾だと最低でも2発は撃ち込まないと止められないですよ~!
やっぱり加奈はジャンクヤードか産廃処理場が良かったな~!」
ハイエースの中でオリジンショットガンを抱いた加奈は口を尖らせた。
「まあまあ、加奈、しょうがないよ~。
こんな所でスラグ弾撃ったら薄い壁なんて簡単に貫通してどこまでも飛んでっちゃうわよ。
ましてや『加奈・アゼネトレシュ』なんか撃ったら、家を何件、中の人もろとも貫通しちゃうかね~!」
ジンコが苦笑いを浮かべて加奈に言った。
「そうね~加奈はどちらかというとパワープレイヤーだからね~!
こういうちょっとデリケートなのは…。」
真鈴がそこまで言うとにやにやとした。
「真鈴、酷いですぅ~!
まるで加奈がランボーかターミネータかチャック・ノリスみたいな脳筋野郎みたいじゃないですか~。
あ!凛もクラも…彩斗もにやにやしてるし~!」
「まあまあ加奈、この中では一番ベテランの加奈だから俺達は信頼してるよ。」
俺はそう言って加奈をなだめながら、俺達は余分な緊張をしていないと少し安心した。
みんなリラックスしているようでも、ショットガンを直ぐ撃てるように待機して周りの空気にも注意を払って警戒を怠らなかった。
俺達に油断は無い、大丈夫。
明石がハイエースの運転席と助手席の間に置いたモニターを覗き込んで舌打ちをした。
数日前から店内1階と2階に超小型監視カメラを仕込んであった。
2階では中田と側近の悪鬼が何やらにやにやしながら書類を読んでいた。
1階では人間の男女の構成員ともう1人、やせっぽちの男が消費期限のシールの貼り替えなどをしている。
「ち、今日は1階に予定外の奴が1人いるな。
彩斗達、顔を覚えておけよ。」
明石がモニターを指差し、俺達は予定外の1人の顔を覚えた。
「やれやれ、こいつも警察に引き渡すんでしょ?」
と真鈴。
「そうよ、降伏勧告して大人しくしてればね。」
とジンコ。
「弱っちそうな奴ですね、ショットガンを向ければすぐ手を上げるんじゃないですか?」
とクラ。
「クラ、油断禁物ですよぉ~!
見た目が弱っちくても心がかなりハードに捻じくれてるのもいるですよ~!」
と加奈が言い、俺達の気持ちを引き締めた。
「加奈、その通りだね。
皆、今回は俺達1階で人間相手だけど油断禁物で行こう。
もう一度襲撃手順を確認するよ。」
俺達は1階襲撃メンバーの前で襲撃時のフォーメーションを確認した。
シャッター横の出入り口からは俺とジンコと真鈴、裏口からは加奈とクラが突入。
一気に店奥の作業場に突入して同士討ちにならない様に部屋中央に陣取り奴らを壁際に追い詰めてショットガンを突きつけて降伏させる。
抵抗したり逃亡する時は容赦なく撃つが、射殺が目的ではないので出来るだけ下半身を狙う事とする。
12個の鉄球が内蔵されたマグナムオーバック弾ならシビアに狙わなくとも行動不能に少なくとも歩く事が出来ない位に相手の身体を破壊するだろう。
2階の悪鬼襲撃メンバーは速やかに悪鬼を始末した後で1階に降りて俺達が人間構成員の拘束、連行を支援する。
あとは待機している処理班と警察に任せて速やかにずらかる。
そして死霊屋敷で祝杯でも挙げるかな。
俺は笑顔を浮かべて腕時計を見て、顔を引き締めた。
突入時間10分前だ。
今回は狭い店内の通路などを進む関係で分厚く嵩張る防弾チョッキを着ていない。
お互いの身体が当たって行動に制限が掛かるのを嫌ったからだ。
「皆、事前の調査では1階に武器は無いと言っていたけど油断しない様にね。」
「彩斗、ヘルメットも必要ないんじゃないの?」
「真鈴駄目だよ、頭を守るものだからさ、防弾チョッキだってあんな狭い通路じゃなきゃ絶対皆に着せたんだよ。
ただ、防弾チョッキ着るとあの通路はろくに通れなくなるからね。
でも、油断禁物だぜ!
ワイバーンに幸運を!」
俺達は口々にワイバーンに幸運をと言いながら互いの身体を叩きあいながら装備を点検した。
「彩斗、産廃処理場とジャンクヤード、大田区のビルにも配置完了だそうだぞ。
リリーが速く跳び込みたいそうだ。」
四郎が言うと加奈が爪を噛んだ。
「リリーはエレファントガン撃ち放題だろうな~!」
「加奈、今回は我慢我慢。
さぁ、俺達も配置につこう。」
俺達は似非自然食品店のシャッター横に俺と真鈴とジンコが張り付き、裏口に通じる路地に加奈とクラが入って行った。
喜朗おじは、店前に停めたトラックの影でハルクになり、四郎と明石の服を掴んでいる。
時間になったら四郎と明石を2階の窓に投げ込み、更にはなちゃんを入れたリュックを背負った凛を投げ込んだ後に壁を掴んで昇り2階に飛び込むと言うかなり強引な方法で突入する事になっていた。
インターコムから加奈の押し殺した声が聞こえた。
「加奈とクラ、裏口に着いたよ。
ドアの鍵は開いてる。
突入準備よし。」
「コピー」
俺はそう答えてシャッター横に陣取るジンコを見た。
ジンコはドアノブを握ってゆっくりと動かし、鍵が掛かっていない事を確認して俺に頷いた。
俺はジンコに親指を立ててからトラックの影の喜朗おじを見た。
喜朗おじは俺の視線に気が付いて頷いて見せた。
時間が迫っている。
産廃処理場とジャンクヤード、大田区のビル、秒単位で時間を合わせて突入する事になっている。
俺は喜朗おじとジンコや真鈴に見えるように手を出し、指を伸ばしてからインターコムに秒読みを唱えながら指を折り始めた。
「5,4,3,2…。
ゴー!ワイバーン!ゴー!」
喜朗おじが四郎と明石を2階の窓に放り込み、続いて凛を放り込んでから店の壁を掴んで身体を持ち上げて2階に飛び込んだ。
ジンコがドアを開け、真鈴と先頭に俺達は店内に入り、狭苦しい通路を奥へ走った。
同時に裏の出入り口から加奈とクラが飛び込み、ここも両側にロッカーが並ぶ狭い通路を通り、1階中央の作業場に突入した。
やはり防弾チョッキを着ていなくて良かった。
俺達はただでさえ狭い通路に人の背程も積み上げられた箱や袋に邪魔されずに作業場に突入出来た。
「お前ら動くな!ぶっ放すぞ!」
俺達はそう叫びながら作業場の中央に陣取り、人間構成員の中年の男女と痩せっぽちの若者にショットガンを向けて壁際に追い詰めた。
こうすれば俺達は背中合わせになり同士討ちの心配が無い。
「動くとぶっ放す!」
2階では派手な立ち回りの音が響いている。
「上では俺達の別動隊がお前らのボスを始末している。
手を上げて降伏しろ!」
やがて2階から中田達と思われる断末魔の悲鳴が聞こえ、夥しい血が流れたのか天井に沁みが広がって行った。
並んで立っていた中年の男女が渋々と手を上げた。
「ちょっと!彩斗!
女の方が尻に何か隠したよ!」
痩せっぽちにショットガンを向けている加奈が叫んだ。
真鈴が前に進み出て女を壁に向かせ、尻のポケットに入れた大きなナイフを取り上げた。
「加奈!サンキュー!」
「えへへ、加奈の目は誤魔化され…。」
加奈が真鈴に向けた言葉がとてつもない大きな発射音にかき消された。
加奈が信じられないような顔をして自分の胸を見下ろしていた。
そしてもう一発。
ほぼ同じ場所に着弾して派手に血しぶきを撒き散らし、加奈が膝から崩れ落ちた。
「ああ!このやろう!」
クラが掃除用具入れに隠されたダブルバレルのショットガンを加奈に向けて撃った瘦せっぽちの男に絶叫しながらオリジンショットガンを連射した。
男はショットガンの連射でロッカーに血まみれの身体を貼り付け、ずるずると崩れ落ちた。
俺と真鈴がオリジンショットガンの台尻で中年の男女の頭を殴り付けて失神させ、ジンコが床に倒れた加奈に駆け寄った。
加奈を仰向けにして戦闘服の胸をはだけさせたジンコは口を押えて顔をそむけた。
俺からでもハッキリと判った。
加奈は至近距離から2発のショットガンの弾を受け心臓を吹き飛ばされていた。
皆、声が出なかった。
皆が固まって、じっと加奈を見つめた。
加奈は名前を呼ばれて、え。何?と振りむいたようなごく自然な力が抜けた表情で天井を見つめていた。
2階の片が付いたのか、銃声が聞こえたのか喜朗おじがどたばたと階段を降りて来て加奈に駆け寄った。
喜朗おじは自分の腕を噛んで出血させて加奈の口に押し付けた。
加奈の口に喜朗おじの血が溢れた。
だが、加奈がそれを飲む事は無かった。
加奈は、心臓を吹き飛ばされて即死していた。
喜朗おじは加奈の顔を見つめ、顔の血を拭いてやり、加奈の目を閉じてやり、ゆっくりと崩れ落ちて床に顔を押し付けた。
加奈は…死んだ。
第10部 予兆編 終了
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第11部 地平の彼方編




