俺と真鈴とクラ夫婦はジャンクヤードの張り込みに…そう言えばクラがかなり太っていた…そして、クラが撃たれた。
奴ら、スペースエッジと看板を出している組織の裏の顔はS会系広域暴力団の傘下にいる蒲鷺組という組だった。
警視丁データによると表向きの組長は谷田季博54歳、恐喝障害等の前科5犯、構成組員8人、千葉に産廃処理場、東京郊外にジャンクヤードを、そして中野区にオーガニック中野とか言う偽物自然食品を扱う店を持っていた。
そして、警視庁以上に細かく調べた岩井テレサの調査部によると千葉の産廃処理場では麻薬取引の中継点と、何かで都合の悪い人間を始末する場所として、東京のジャンクヤードは密輸密造武器の取引を時々行われるとの事だ。
警察はまだその情報を掴んではいなかった。
スペースエッジの主な業務は千葉の産廃処理場と東京のジャンクヤード、中野の似非自然食品店の経営と言うところだろうか。
裏の、と言うか真のボスの中田英雄は、中野の似非自然食品店と東京のジャンクヤードに頻繁に姿を現すとの事だった。
大田区の雑居ビル、中野区の似非自然食品店、千葉の産廃処理場、東京のジャンクヤード、これらを俺達ワイバーンで見張り続けるのはとても無理だし、第一討伐する大前提の殺人か監禁して人身売買などの証拠を見つける事が何より必要だ。
麻薬取引や銃器密売などでいちいち出動して人間込みの集団を全員討伐なんて事をしていたらきりが無くなる。
はなちゃんも四郎も明石も、凛でさえ奴らが時折楽しみながら人間を殺している痕跡は読み取れるとの事だが、それが具体的にどこでいつ行われたのかをはっきりと特定するのが難しいと言う事だった。
奴らがジャンクヤードで密造密輸武器の取引を、産廃処理場で麻薬取り引きをしている証拠はボロボロと出てきたが、その扱いにも困った。
警察や麻取の連中が下手にあそこに踏み込んでも返り討ちで皆殺しにされるか、いやいや、その騒動がどこかのマスコミにでも漏れたら、またあの富士の樹海騒ぎや裁判所騒ぎの二の舞だ。
あの騒ぎのおかげで今の日本は表向きは平静だが、その実お互いが人間なのか悪鬼なのか疑心暗鬼に陥っている。
相変わらず『恐怖』に囚われた警官による一般人への過剰発砲事件は多発しているし、突如ナイフなどの凶器を持って暴れ出し、誰彼構わず攻撃する奴らの理由に『こいつらは実は鬼で俺を殺そうとしている』というセリフを多く見られるようになっている。
検問の数もめっきりと増え、夜などは必ずと言って良いほどどこかで厳しい検問を行っていてその場での過剰発砲事件も増えているのだ。
中には身体検査に応じなかった女子高生2人が取材カメラの目の前で警官達によって2人合計16発もの357マグナム弾を撃ち込まれると言う大惨事まで起きていた。
そして、その話を聞いて非常に胸糞悪くなったが、警官の過剰射撃を賛美して、一般人が射殺される現場を何とかカメラに収めたいと言う、『撃ちヲタ』まで出現した。
そいつらは目の前で誤解を受けた一般人とか、死刑や懲役になるほどでもない犯罪を犯したと思われる人間が無残に射殺されるとカメラを向けながら飛び跳ねて喜ぶと言うのだ。
『撃ちヲタ』の話を聞いた真鈴がとても苦い物を口の中にいれたような表情を浮かべた。
「なによそれ、人間の『クズ』の見本みたい…死ねば良いのに…なんか…うんと惨めに死んでほしいわ…私達はそういう奴らを助けるのやめましょうよ。」
俺達も真鈴に同感だった。
幸いなのは今の所悪鬼が警官の過剰発砲の犠牲になっていないと言う事位だろう。
もしも撃たれた悪鬼がその真の姿になって警官達に逆襲したら…考えただけでも恐ろしい
。
悪鬼の存在が、普通の人間が全然想像出来ないほど大量に、そして巧みに姿を隠しながら人間社会に存在すると言う事が明るみに出たら…その悪鬼が人間の側にいてくれているのか、それとも人間の支配を目論む集団なのか等、全く関係無しに人間対悪鬼の全面的な戦いが起こるかも知れない。
そうなれば人類文明はその混乱で崩壊する可能性が非常に高いだろう。
俺達は車で移動する時は必ず警察庁特別捜査官の身分証を持つ俺かジンコか四郎か明石が同行して検問対策にした。
今日、俺と真鈴、それにクラと凛の夫婦で真鈴のボルボに乗って奴らの東京のジャンクヤードを見張りに来た。
今の所東京のジャンクヤードで殺人が行われたと言う確実な証拠は掴んでいないが、やはりこんな理想的な場所で殺人が行われない訳が無いだろうと言う事で俺達は張込みをして何かしらの証拠を捉えようとしていた。
千葉の産廃処理場には明石夫婦がはなちゃんを連れて出かけている。
四郎はリリーと中野の似非自然食品を見に行くと言う事だった。
まぁ、その後でデートだと言ってたけど。
「クラ、凛、『ひだまり』が休みの日に引っ張り出してごめんなさいね。」
真鈴が運転席から後ろを向いてクラと凛に謝った。
「いえいえ、休みが2日あるし、明日は凛とデートしてくるから問題無いですよ。」
クラが笑顔で答え、ナッツバーを齧った。
「ね~、凛。」
クラが笑顔を凛に向けた。
気のせいか凛の顔が少し引きつっている感じがするし、いま、クラが握っている凛の手を引き抜いて、何か汚い物が点いているように凛が自分のジャケットに擦り付けた。
クラの汗が脂っぽいのだろうか。
「クラ、少し食べ過ぎだよ~。
最近、少し食べ過ぎ、私は悪鬼だから食べないと体が持たないけど、クラまで一緒のペースで食べちゃ駄目だよ~。」
なるほど、ここ最近クラを見た時に何となく感じた違和感が何か判った。
同じくその違和感に気が付いたであろう真鈴と俺の目が合った。
「クラ、少し体を動かそうよ。
彩斗、真鈴、私達、少しあそこに近寄って中を探ってみるわ。
ほらクラ、行くわよ。」
「気を付けてね。」
「何かあったらすぐに戻ってね。
それとヘッドセット…。」
凛が頭のヘッドセットを人差し指でつついて笑顔になり、双眼鏡をp首から下げ、いざと言う時の武器が入っている小さなバッグを肩に下げてクラと共にボルボを出た。
あれなら見つかって何か聞かれてもバードウォッチングだと言い逃れる事が出来るだろう。
凛とクラは藪の中に入っていった。
裏山からジャンクヤードの中を見渡せるところを見つけるだろう。
「…今気が付いたけどさ…クラって…。」
俺はすかさず真鈴の言葉の後を継いだ。
「太ったよね、あんなに太ったのになんで今まで気が付かなかったんだろうか…。」
「だよね~!
もう、結婚式の日のスーツ絶対に入らないわよね!
何?やっぱりコックとかで厨房入ると太るのかな?
今のクラはもう、喜朗おじに近い体形になってるよね!」
「まぁ、凛が悪鬼でさ一緒に暮らしていてバクバク横で食べるからひきずられたのかな?」
「だとしたら悪鬼と結婚するのって…悲劇を招く事も有るって事ね~。」
真鈴がため息をついた。
「ねえ、真鈴てさ、結婚とか考えてるの?」
「なによ、彩斗、ははぁ~ユキちゃんから結婚迫られてるんだね~!
まぁ、彩斗とユキちゃんの歳を考えたら結構良い時期かもね~!」
「いや、そう言うんじゃなくて、真鈴自体の事だよ。」
「私?」
「そう。」
真鈴がハンドルに腕を持たせて前を見た。
「う~ん、どうかな~?」
その時にヘッドセットからクラの声が聞こえた。
「ジャンクヤードの中に見張り台みたいな物が立っていて今そこを3人のぼって来ている。
上等なスーツ姿の男と作業員風の男が2人…作業員風の男が何か長い物が入ったバッグを抱えている…ライフルかも…」
「コピー、クラ、気を付けて。
この辺りだと近くに人家が無いから撃つかも知れないよ。」
「コピー。」
俺と真鈴は少し緊張した。
俺はトランクに行ってUMPとオリジン12ショットガンを持ち出すと運転席と助手席に置いた。
「ライフル相手だとちいと射程距離が心許ないけどしょうがないね。」
真鈴がUMPのスライドを引き動作確認してから足元に置いた。
俺もオリジンショットガンのスライドを引いて動作確認し、UMPの予備マガジンを2本、ダッシュボードの置くと真鈴がマガジンを掴んでジャケットのポケットに突っ込んだ。
そして俺も弁当箱の様な10発入りのデカいマガジンを助手席のお尻の下に置いた。
「これで良しっと…で、何の話だっけ?」
「真鈴が将来誰かを好きになって、もしかしたらもう好きな人がいて結婚したりするのかって話だよ。」
「ああ、そうか…まぁ…好きな人が出来たらね~。
今はまだ…それに昔に会った人が居てね…多分その人以上の…。」
いきなりライフルの独特の甲高く残響音が長く残る銃声が響いた。
「彩斗!真鈴!
クラが撃たれた!
クラが撃たれた!
チキショウ!クラを担いで撤収するから援護して!
クラを遮蔽物に引きずって隠すわ!
私も隠れるから彩斗達が来たら奴らをけん制して!
その隙にクラを担いで逃げるわ!」
「判った凛!
今そっちに向かう!
クラはどうなってる?」
「クラは…今意識が無い!」
凛が答えた瞬間にもう一発銃声が響き渡った。
俺がオリジン12ショットガンを真鈴はUMPサブマシンガンを抱えてボルボを飛び出して互いにカバーしながらも走って裏山に突入した。
凛からも撃ち返したのか、SIGの銃声が聞こえた。
続く




