俺達は行李に飲み込まれた『種子の人』達と『再会』を果たした…そして岩井テレサや惟任教授からの仮説を聞き、不吉な予兆を感じた。
岩井テレサと榊とノリッピー、そして、ジンコが月観測所で色々とお世話になった惟任教授という初老の男がやって来た。
「彩斗君達いらっしゃい。
あなた達もあの人に会うのが待ちきれないんじゃない?」
「岩井テレサさん、こんにちわ。
ええ、その通りなんです。
おっしゃる通り、待ちきれません。」
俺達は岩井テレサの言葉に頷くと岩井テレサは笑顔を浮かべた。
「ああ、やっぱりね!
時間がもったいないからあの人達の所に案内しながら、今までで判った事を話すわね。
もっともたくさん発見があって、すべて言い切れないと思うけど…。」
岩井テレサ達が先頭に立ち歩き始め、俺やリリー達が後からぞろぞろ付いていった。
「あの飲み込まれた人達…神隠し事件の被害者と言うか…近年姿を消して地下の行李に飲み込まれた人達の殆どは身元が判ったのよ。
そしてね、飲み込まれた人達の中で、興味深いケースがあるのよ。
例えば、昭和62年に長野で行方不明になった41歳の女性はね、かなりステージが進んだすい臓がんだったのだけど…今は完治しているのよ。
他にも生活習慣病だったり、遺伝子系統のちょっと難しい難病指定の人もいたけれど…全員今は全くの健康体よ。
もっとも視力が弱かったりとか命に別状が無い人達はそのままだったけどね。」
「え…それって…。」
「そうね、あの、行李の中で一種の治療をされたのかも知れないし…あのとても臭い粘液を今色々と調べているけれどね、とても興味深い物質なのよ。
もっとあの粘液の解明が進めばね、医薬品や各種の保存料、耐衝撃性や耐火性に優れた素材や、既存のコンクリートや鋼鉄以上の建築素材とか…物凄い役に立つ事になるかも知れないわ。」
「…。」
「そして飲み込まれた人達、私達は『種子の人』と呼ぶ事にしたけど…あら、あなた達もそうかもね。
皆それぞれ色々と違う環境ながらとてもその人その人が落ち着く落ち着く平安な状態にいたと証言しているのよ…あなた達と同じでね。
出来れば行李に戻りたいとまで言っているわ…あなた達もそう思っているんじゃない?」
「…。」
「そして『種子の人』達はとても強い連帯感、共有感と言うのか…とても仲が良いのよ老若男女を問わず…今日ははなちゃんも来ているでしょ?
これからあなた達は『種子の人』達と面会してもらうわ。
集会室でお茶とお菓子も用意してある。
その代わり会話と映像は目立たないようにとらせてもらうわ。
あなた達は自由に会話をして、後でその印象を私達に教えて欲しいの。
そして一番心を読み取る力が強いはなちゃん、あなたに期待しているわ。
何か読み取ったら後で私達に教えてね。
とても役に立つヒントを得られるかも知れないわ。
…そして…もしも私達の仮説が当たっていたら…。
まぁ、それはあとでね。」
岩井テレサと俺達は長い廊下を通り、大きなエレベーターで地下に降りた。
地下5階。
エレバーターの扉が開くと、俺達には『種子の人』達がいる部屋がすぐに判った。
走り出したいような思いを押さえながら岩井テレサについて行き、集会室のドアを岩井テレサが開けると、俺達は立ち上がり拍手や歓声を送る『種子の人』達に迎えられた。
何だろうこの懐かしさは…俺はワイバーンメンバーに匹敵するような、いや、それ以上に絆を感じる人達を見て思わず涙ぐんでしまい、俺達に近寄って来た『種子の人』達のハグを受け入れた。
みんなそれぞれ名も名乗らないしどんな素性なのかも言わない。
しかし、事情を知らない人達が俺達を見たら、とても長い年月、何かの事情で引き裂かれた仲が良い人達が再会を果たしたように見えるだろう。
『種子の人』の中には人間以外の悪鬼も混ざっていたが、それは全く関係なかった。
全員が互いに人なのか悪鬼なのか知ったうえで、全然その事を気にしなかった。
俺達はそれぞれ集会室のあちこちに固まって時々メンバーを入れ替えながらお茶とお菓子を楽しみながら大した事は無い世間話に興じたが、時々感極まって泣きながら握手をしたり抱き合ったりした。
行李に飲み込まれていた時にそれぞれが見ていた景色が俺達の頭に流れ込み。その人その人の色々な好みなどがすぐに判り、深く理解しあった。
もう、言葉さえいらない位に俺達は互いに知り合っていて、お茶とお菓子を楽しみながらお互いを親愛の目で見つめ合いながら笑顔を浮かべていた。
それはジンコや凛も、リリー達も同じだった。
用意された3時間があっと言う間に過ぎた。
俺達は『種子の人』達との名残を惜しみながら集会室を後にした。
別室では岩井テレサ達が俺達を待っていた。
「う~ん、どうやらあなた達は感動の再会を果たしたようね~とても興味深いわ…。」
その通り、俺達は『種子の人』達と感動の再会をした気分だった。
「テレサ、今日はありがとう。
私達はテレサ達が立てたその…仮説と言う者に非常に興味があるわ。」
リリーが岩井テレサに尋ね、俺達も同意を示した。
リリーは先ほどの再会の感動の余韻で、まだ目を赤くしていた。
「そうね、その件については惟任教授から説明して頂こうかしら?」
岩井テレサが言うと、横に座っていた惟任教授が話し出した。
「ごほん、今日の君達の様子を観察してね、どうやら私があの人達を『種子の人』と名付けた根拠に補強が加わったように思えるんだ。」
俺達はじっと惟任教授の言葉を待った。
「あの、行李と呼ばれる存在は、例えで言うと一種のタイムカプセル、収容した時以上に完璧な状態にして見事に保存され、どんな外的要因にも、至近距離での核爆発にでも耐えられる頑丈極まりないタイムカプセルと言えるものかも知れないんだ。」
「…。」
「その証拠の一つが行李に収容された人達はステージが進んで余命宣告をされたガンや現代医学では完治が望めない難病もすべて完璧に治療されている。
そして収容された人達は身体年齢が一切進んでいない。
…まさにフレッシュな『種子』と呼べるような状態だった。」
「…。」
「そして更に興味深い事なんだが…あの中で一番古い時代、昭和25年に行李に収容された人でも、スマホやインターネットなど現代のテクノロジーの存在を知っていたと言う事なんだよ…。」
ジンコが息を呑んで尋ねた。
「あの…惟任教授、それって…。」
「うん、ジンコさんが思ったようにね、あの行李は新たに飲み込んだ、いや、収容した人の時代の科学などの知識を今までに収容した人達に一種のインストールのような事をしたのだと思う…。」
「…。」
「そしてあの粘液に守られて時間の流れさえ食い止めてあらゆる過酷な外的要因にさえ耐えて中の『種子』を保存している完璧な、完璧以上のタイムカプセルと言ったところかな?」
「惟任教授、どうしてそんな…。」
俺は惟任教授に尋ねたが薄々答えを知った気がする。
「そうだね彩斗君。
リリーの証言を信用すると、あの行李の中では1000人以上の人間や悪鬼が収容されているとの事だが、この人数はね、全くゼロから、まぁ、時間が掛かるかも知れないが、全くゼロからの状態で文明を築く事が出来る人数だと思う。
そして先ほど君達が私達に見せた強力な親愛の情と連帯感を、さらに取り入れた科学知識なども考慮に入れると、かなりスムーズに文明を立ち上げる事が出来るかも知れんね。
これだけの人数が居れば近親交配などでの遺伝子の劣化や不都合が起こる可能性は限りなくゼロに近いんだよ。」
「…。」
「そんな存在の行李が日本だけでも数体、地球規模で考えたらかなりの数がいると言う事だね。
私が立てた仮説ではね…もしも地球に救いようが無い大規模な災害で人類が死滅しても、また地球の自然が生き物を養える状態に戻った時にあの行李は地球のあちこちで地上に姿を現し、中身を、収容された人達を放出するかも知れないと言う事だね。
もう少し飛躍する考えを述べるとねあの行李は地球から飛び出して恒星間飛行を成し遂げて、新たな生存に適した星を見つけてそこに中身の種子を送り届けるかも知れないんだ。」
「…。」
惟任教授の言葉に俺達は押し黙った。
薄々は気が付いていたとは言え改めて人から言われるとショックを受ける。
岩井テレサが後を引き継いだ。
「皆、あの行李はいつから存在しているのか全く判らないの。
…もしかしたら…過去にも同じような人類文明が滅びるような事が起きてね、あの行李がそれまでに収容した人間や悪鬼を生存可能な世界に戻った地上に排出した事が有ったのかも…私達はその『種子の人』達の末裔かも知れないわね…。」
ジンコが誰ともなく呟いた。
「確かにそう考えればシュメール文明やアトランティス文明などの古代文明の謎についての答えになるかも知れないわ…まがい物で無いオーパーツの事だって…正体が解明されていない謎の遺跡だって…そして、月の秘密にも通じるような…。
古い文明を一掃した後で月が姿を見せたと言うあの…なんか恐ろしいわ。」
岩井テレサがじっとジンコを見つめた。
「そうね、ジンコ、そうかも知れないわ。
でも、そうなると…月の運航が関与しているとなると、今現在の私達の文明が滅びる時が確実に迫って来ているかも知れない。」
惟任教授が岩井テレサの後を継いだ。
「月の裏側は既に5・74パーセントが姿を見せている。
私が算出したルナ・カーブの値は増加しているんだよ…。
微量だが月の自転速度が上昇しているんだ。
このまま進めば10年どころか、7年以内に月はその裏側を全て地球に見せることになるが、それが何かの引き金になるかも知れん…。
人類の気が付いた人達は躍起になって月探査のスケジュールを推し進めてはいるが…果たした間に合うのか…。」
続く




