俺はユキにナイフトレーニングと射撃の基礎を教えた…あくまで自衛の為に…そして俺達は行李に飲み込まれた他の人達と面会をする事になった。
俺とユキが死霊屋敷に戻ると四郎達が総出で雪かきをしていた。
「おお!彩斗!ユキ!
手伝ってくれるか?
昨日の夜も少し雪かきをしたんだが、また元の木阿弥なんだ。」
俺とユキもスコップを持って雪かきを手伝った。
何とか入り口ゲートまで、そして、ゲートから道路に出るまでの部分の雪かきを済ませ、俺と明石と四郎、真鈴、ジンコは朝食の準備を圭子さんとユキに頼んでハイエースに乗って『ひだまり』に行き、喜朗おじと加奈、ナナツーやクラや凛たちが先行して雪かきをしているのを手伝った。
あらかた雪かきが終わり、ついでに隣の中華料理屋の雪かきもして、早めに店に来た大将がとても喜んでくれた。
隣近所の付き合いは大事だからね。
俺達は死霊屋敷に戻り、朝食を済ませ、真鈴は大学に、ジンコは『ひだまり』に行き、さすがに学校は休校になったらしい司と忍ははなちゃんとアニメを見始めた。
俺はさすがに体を動かしたくなり、屋根裏で四郎とナイフトレーニングをする事にしてユキは見物したいと言ってついてきた。
四郎相手に紙の棒を使って汗を流していると、ユキが私もやってみたいと言い出した。
俺と四郎は顔を見合わせた。
四郎は俺の複雑な表情を読み取ったのだろうか。
「まぁ、彩斗、悪鬼の討伐はともかく、日常の護身術には役に立つとわれは思うな。」
という訳で俺はユキに基礎中の基礎のナイフトレーニングの相手をした。
やはりこれと言ってトレーニングをしていないユキの動きはスローモーションに見えた。
俺の体に向かって伸びてくるユキの持った紙の棒が非常に遅く見えてじれったくなるような感覚だった。
俺はユキの紙の棒を余裕で躱し、ユキを散々に踊らせた。
俺はユキの紙の棒を紙一重ぎりぎりにかわす事さえ易々とできるようになっていた。
結局ユキは一度も俺に紙の棒を当てられなかった。
やがてユキは汗だくになって床に寝ころんだ。
ハアハア息を切らせている。
「やっぱりいきなりはきついよね。」
俺が言うとユキは頭を振った。
「いや、ド素人の私でも彩斗の動きは人間離れしていると思うよ~。」
そうか…俺はユキから見ると人間離れした動きをするようになったのか…まだトレーニングを初めて1年も経っていないのだが。
まぁ、実戦もかなり積んだしな。
「彩斗、ユキは射撃の腕も磨きたいんじゃないか?」
四郎が余計な事を言い、俺はユキにガレージ地下でピストルの射撃練習もする事になった。
身を守る事…それから少し入り込み過ぎている気もするが、俺達の死霊屋敷でもいつ何かの襲撃を受けるかも知れないのだ。
その時はユキに武器を渡さざるを得ない状況もあるかも知れない。
俺はユキをガレージ地下に連れて行き、最初は反動が小さい南部小型拳銃の射撃を教えた。
ジンコが最初に射撃練習をした時の様にユキも顔を上気させてストレス解消には良いね!と、無邪気な笑顔を浮かべた。
そう、ストレス解消には良いかもな。
自分を殺そうと襲い掛かってくる奴相手に戦う以外では。
ユキの射撃の素質は良い方だと思う。
100発近く撃ち込んで、10メートル先の標的の中心部にかなり弾着を集められるようになったし、ピストルを扱う安全基準の動作をユキは出来るようになった。
「さぁ、銃の手入れをして後片付けしたらシャワーでも浴びようか?」
俺がそう言うとユキは俺の脇のSIGを見つめた。
「ねえ、彩斗、それってどれだけの反動があるの?」
「え…ユキ、これは40口径と言ってね弾の直径が10ミリあるし、火薬の量だって今撃ったそれと比べ物にならないんだよ。
威力だって倍以上あるし、反動だって…ユキにはきついと思うけどね。」
ユキは無邪気な笑顔を浮かべた。
「撃ってみたいわ!
試しに撃ちたい!
お願い、彩斗!」
やれやれと思いながら、俺はSIGを抜き、40口径弾を一発だけ入れたマガジンをユキに渡した。
そしてマガジンを抜いて薬室から弾を抜いたSIGをユキに渡した。
これなら一発撃てばもう撃てないから安全だろう。
俺はユキの背後に立って構え方や狙いの付け方を再度チェックしてユキにSIGを撃たせた。
SIGを撃ったユキは反動の強さと火薬の吹き戻しに悲鳴を上げてSIGを取り落としそうになった。
落ちそうになったSIGを掴んで俺は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫?」
「…大丈夫じゃない…でも、ジンコや真鈴や…加奈や凛もこれを撃てるんでしょ?
凄いわ~。
私にはとても無理かも…。」
ユキの感想を聞いて俺は少しほっとするような複雑な気持ちだった。
そう、将来ユキがこのSIGや、それどころかオリジンショットガンやUMPを悪鬼相手に使う羽目になる事も有り得るのだから。
ユキは何とか危険から遠ざけておきたい。
その後シャワーを浴び、昼食を食べたユキは今夜『みーちゃん』に出ると言う事で家まで送って行った。
ユキを家に送り届け、そこでまた俺とユキは愛し合い、俺は死霊屋敷に戻って来た。
戻ってくると明石が俺に声を掛けた。
「彩斗、明日は岩井テレサの施設に行くぞ。
彩斗とジンコと凛だな。
あの行李に飲み込まれたほかの人達と面会だ。」
願っても無い事だ。
前にジンコに言われて俺から岩井テレサにお願いしようと思っていたところだ。
「わかった、行くよ。
でもなぜ他の飲み込まれた人達と面会をする事になったんだろう?
俺もジンコも…たぶん凛も会いたがっていると思うのだけれどね。」
「なるほど、彩斗達もそう思っているんだな。」
「この前リリーと話した時にリリーも他の人達と会いたいと言っていたな。」
四郎と明石が言った言葉に俺は頷いた。
どうやらあの行李に飲み込まれた事で何か俺達の間で絆のような物が出来ているのだろうか?
ともかく、翌日俺達は岩井テレサの施設に向かった。
俺もジンコも凛も何か待ちきれない思いをしていて車の中でも落ち着かなかった。
行李に飲み込まれた人達と会いたい話したいと言う思いが俺の心の中に溢れている。
施設ではリリーや小三郎、美々、その他に飲み込まれた新人隊員の日下と今井が待ちきれない様子で俺達を待っていた。
その時に俺は、いや、ジンコも凛も施設のどの辺りに他の飲み込まれた人達がいるのか
大体判った。
続く




