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はなちゃんのおかげで、俺達は戻って来た…はなちゃんはいささか幾つかの手順をすっ飛ばしたようだが…俺たち全員が行李から戻った。


……………





俺はゆっくりと目を開いた。

目の前に明石の顔があった。

その後ろをヘリコプターが飛んで行く。


「おお!気が付いた!

 彩斗も気が付いたぞ!」


俺はゆっくりと体を起こして顔をしかめた。

体中を緑色の凄まじい臭いを発する粘液が覆っていた。


「誰か!早くここから下ろすじゃの!」


近くの木の梢にはなちゃんがやはり緑色の粘液にまみれて引っ掛かり、じたばたともがいていた。

周りを見回した。


あちこちに緑色の粘液に覆われた人間が横たわり、何かの疫病対策の防護服を着た作業員が右往左往して回収をしていた。


倒れている人々は呼吸が出来るフィルターが付いた袋に入れられ、担架に乗せられて近くに駐機しているヘリコプターに乗せられている。


「お前、随分な無茶をしたな。

 だが、その無茶のおかげでジンコやリリーや凛や美々や小三郎達が、それにかなり昔に飲み込まれたと思える人達も帰って来たぞ。」

「…皆…生きて…いる?」

「ああ、今の所大丈夫そうだ。

 だがな…そのお前がかぶっている臭い粘液の正体が判らん。

 用心の為にお前達と粘液に触れた俺達、全ての者がしばらく安全確認の為に隔離だそうだ。

 小田原の施設に運ばれるぞ。」


明石がそう言った途端に俺は袋に入れられて顔の前をジッパーが走った。

そして、どこからか酸素が送り込まれているらしい。

俺は袋ごと担架に乗せられて、また目を閉じた。

何かとてつもない長い夢を見たような、とっても懐かしいような光景を見たような…そしてまたあの場所に戻りたいと強く思い、涙が零れた。

そしてまた眠りについた。


次に気が付いた時は病院のベッドだった。

洗濯をしたのだろうが微かに緑色にくすんでいるはなちゃんを抱いて真鈴が座っていた。


「気が付いた彩斗リーダー?」


真鈴が笑顔で尋ねた。


「俺、どれくらい寝ていた?」


はなちゃんが手を上げて代わりに答えた。


「彩斗、もう4日は寝ていたじゃの!

 まだしばらく観察期間と言う事じゃが、隔離したカフェには行けるじゃの!

 腹が減ってないか?」


そう言われて俺は物凄く空腹な事に気が付いた。

俺は真鈴に手を貸してもらってベッドから降りカフェに向かった。


道々真鈴からあの時の状況を教えてくれた。

俺が呑み込まれてから3分も掛からない位に行李が地面から顔と言うか、口を出したそうだ。

そして最初にはなちゃんを空高く噴き出した。

はなちゃんが悲鳴をあげながら空を飛んで行き、そして高い木の梢に引っかかった。

次に行李はまたもっと体を地面から突き出して、次々と飲み込んだ俺やリリーやジンコや凛達を緑色の粘液とともに吐き出したそうだ。

一通り吐き出すと行李は大きなげっぷのような音を立てて再び地中に姿を消した。


リリー達以外に合計で48人(そのうち7人が悪鬼)の老若男女を吐き出し、収容されて気が付いた者達から事情を聞くと一番古い者は昭和25年に飲み込まれた、いや、神隠しになったらしい。

だが、その者は当時22歳で何十年も経った今でもその姿は22歳のままだった。


岩井テレサ達はリリー達以外に飲み込まれた者達をどうすれば良いかかなり悩んだそうで、今、政府と協議中らしい。


「彩斗、わらわは何か細かい手順をすっ飛ばしたようじゃの。

 普通、神隠しから戻った者はあの気持ち悪い粘液まみれになっていないと言うからの。

 いささか乱暴に吐き出させたらしいじゃの! 

 じゃが、戻ってこれたからには文句は言わさぬじゃの!」

「そうだねはなちゃん、命の恩人だよ…ありがとう。」


俺は微かに緑色のくすんだはなちゃんのぬいぐるみの頭を撫でた。

戻っては来れた…しかし、たった3分しかあの中に居なかった俺だが、とても懐かしいあの場所に戻りたいと心のどこかで願っていた。

カフェではリリー達が飯を食べていた。

あの時飲み込まれた皆が揃っていて、俺は改めて嬉し涙が零れそうになった。


「あら!彩斗!こっちこっち!」


ジンコ達が食事を頬張りながら俺に手を振った。

皆は口々に俺とはなちゃんにお礼を言ってくれた。

俺はお礼に答えながら食事を注文して、いつも以上の食欲で食事を平らげた。


食後にコーヒー。

俺は飲み込まれたメンバーとなぜかひそひそと話し合った。

やはり、ジンコ達も、出来ればあの深い安らぎを覚える場所に戻りたいと思っている事が判った。

しかし、行李の中でのイメージはそれぞれ別で何一つ統一していなかった。

ある者は生まれ故郷の田園地帯だとかどこかの海沿いの街だとか、中には妙に居心地よく感じたどこかの都市のスラム街だとか…俺の場合は近くを清流が流れて水草を揺らす静かな質素な別荘が一番近い印象だった。


あの行李は身体的な保存と同時に俺達の精神を平常に平穏に保つ保存もしていたのだろうか…。


そして、乾が言っていたやがて訪れる清算の日。

あの行李は種子として取り込んだ者達をどこへ運んでゆくのだろうか…。

謎は尽きなかったが、俺達は生還した。

とりあえずはそれを喜ぼう。

ジンコはまだ月探査の宇宙飛行士の募集に間に合う事を真鈴と抱き合って喜び、あとからやって来た四郎やクラが涙が駄々洩れ状態でリリーと凛の手を握っていた。


「ああ!そう言えば思い出した!

 あの時!この野郎!」


リリーがいきなり叫んで四郎の頬をつねり上げた。


「何をする!リリー!痛い痛い痛いぞ!」

「マイケル!いや!四郎!あんた私が目を覚ました時に泣きながら私にキスをしたけど、その後思い切りゲロ吐いてたでしょ!失礼な奴!」

「うう!すまん!あまりにもリリーがかぶっていた粘液が臭くて不味くて!

 許してくれぇええええ!」

「そんな簡単に許せるかボケェ!

 クラは凛とチューしてたがゲロ吐かなかったぞ!

 お前も見習えやゴルァ!」


クラが俺の横に身を寄せて周りを見回した後で小声で言った。


「彩斗リーダー、俺も我慢できずに吐いたけど、凛から見えないところまで走って吐きましたけどね…。」


…ま、まぁ、全員が元に戻って良かった。


俺達はその後一週間隔離され、血液検査や色々な検査をされて体に異常が見られないと言う事で何とか解放された。

司と忍が大喜びで俺達を出迎えてくれた。






続く




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