望愛の笑った顔が好き
「いいよ。それだけ望愛のことで頭がいっぱいだったんだろうしね。それで、この男はどうする?」
言い訳せず、すぐに謝罪したのが功を奏したのか、美涼はしょうがないとでもいうような笑み一つで引きずることなく、話を進めてくれた。
「美涼、そいつを離してやってくれないか?俺がぶちのめすからよ。もう二度とこんなことしないように徹底的にな」
「望愛を抱きしめたままで何を言ってるんだか……。それに今の玲旺君にはちょっと任せられないかな。自分では気づいてないかもしれないけど、殺してしまいそうな目をしてるよ?」
「あん?そこまでじゃねえだろ」
「れ、玲旺くん。ちょっとだけ苦しい……」
「っ、わりい」
美涼に答えながら、無意識に抱きしめる腕の力を強めちまってたみたいだ。
俺はすぐに謝って、入り過ぎていた腕の力を弱めた。
「ううん。嫌ではないから」
「お、おう」
頬を染める望愛にこっちまで照れちまった。
「ほら。もう怒りを抑えきれなくなってるじゃないか。私のときでもあんな惨状だったのに、今だと本気でこの男の命が心配になるレベルだよ。それから、望愛が可哀そうだから痛くしないようにね」
「うす……」
「お、おい!さっきから殺すとか、命が心配とか、冗談ばっかいい加減にしろよ!?そんなのどうせ、俺を怖がらせようっていう嘘だろ!?俺は騙されないからな!」
俺達がそんな話をしていたら、美涼に拘束されている昇が唾を飛ばす勢いで割り込んできた。
「おや?怖くなったのか?だが、騙すつもりなんてないし、冗談でも嘘でもないぞ?私が貴様を押さえていなければ今頃どうなっていたことか、本当は自分でもわかってるんじゃないのか?」
美涼の冷たい視線が昇に突き刺さる。
「な、何を―――――ヒイッ!?」
昇が恐る恐るといった感じで首を動かし俺の顔を見た瞬間、短い悲鳴を上げて、すぐに視線を美涼に戻した。
まるで助けを求めてるみたいだ。
そんな昇にちょっとイラっとする。確かに今でもぶっ飛ばしてやりてえが、さすがにこんなヤバいことするような男が悲鳴を上げるほどの顔はしてねえと思うんだよ。
現実で今回みたいなことできちまう、こいつの神経の方がよっぽど怖いっての。
「ああ、思い込みの激しそうな貴様に一つだけ言っておくが、私は貴様を守るためにこうしてる訳じゃないからな?私が守りたいのは玲旺君だから」
切って捨てるような美涼の言葉を聞いた昇は項垂れて黙ってしまった。
「さて、大人しくなったことだし、ここは望愛に決めてもらうのがいいと思うんだけど、どうかな?望愛はどうしたい?このまま先生に突き出す?……というか、その前に君達、いつまでそうして抱き合ってるつもりなの?」
優しく望愛に問いかけた美涼だったが、俺達の姿を見て呆れたような表情になった。
「玲旺くん」
望愛が上目遣いで俺の名を呼ぶ。
「ああ」
望愛の意を汲み、俺達はここでようやく離れたのだが、つい自分に対して苦笑が漏れてしまった。
ダメだな。
こんなことくらいで、めちゃくちゃ名残惜しい。
「私は、彼がもう二度と関わってこないなら、それ以上は望みません」
望愛の目にもう涙はなかった。
「そっか」
美涼が微笑みながら頷く。
「……あなたとはもう話したくないし、近づいてほしくもないの。それを約束してくれるなら謝罪はいらないし、今日のことを誰にも言ったりしないわ」
望愛は蔑むような目で昇を見据え、自分の意思を示した。
うわ~。当たり前だけど、望愛めちゃくちゃ怒ってんな。
ここまでの望愛は初めて見たわ。
これも新たな一面、と言えなくもないが、決してプラスのもんじゃないし、もうこんな風にはさせたくねえな。
「くっ……」
「どうなんだ?約束するのか?」
悔しそうに顔を歪める昇に、美涼が冷徹な目を向けて問う。
「……約束、する」
昇は絞り出すような声で答えた。
「言っておくが、もし破ればただじゃおかないからな?」
美涼が念押しする。
そういうことなら、俺からも一言言わせてもらおう。
「俺もだ。望愛をこんなにも傷つけやがって。俺はお前を絶対に許さねえ。俺はな、望愛に笑顔でいてほしいんだよ。望愛の笑った顔が好きなんだ。だから、もしまた望愛にこんな顔させるようなことをしたら――――」
俺は昇の目の前まで歩いていき、しゃがんで視線を合わせる。
「俺はてめえを本気で潰す。わかったな?」
そして、殺気をぶつけるように昇を睨みつけ、低く重い声で本気の意思を伝えた。
「わ、わかった。もう十分わかったから」
昇は今にも泣きだしそうだ。
玲旺としての経験から、昇の心が完全に折れていることがわかった。
お読みくださりありがとうございます。
これにて昇の未遂事件は終わりとなります。慎也のように即退場を期待していた皆様すみませんm(__)m
ただ、事件は終わりましたが、この日はまだ終わりません。玲旺くん頑張ると思います!
次話もお楽しみいただけたら幸いです。
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