恐怖になんか負けない
「チッ、よりによってあいつと会長にメッセージなんか送ろうとしてたのかよ」
「あ……」
奪った私のスマホの画面を見て、彼は忌々しそうに顔を歪める。
けれど、すぐに私を見てニヤニヤと嫌らしく笑った。
「まさかとは思うが、助けて、とでも送るつもりだったのか?彼氏といるってのに、随分なことをするじゃないか。けど、残念だったな。送れたのは『た』だけだったみたいだぞ?これじゃ意味がわかんないなぁ」
そこにいるのはもう、私の知っている幼馴染ではなかった。
「……スマホを、返してくれないかしら?」
「お?ははっ、あいつから電話がかかってきたぞ?まあ、突然変なメッセージが来れば気にはなるか」
私を煽るようにスマホを軽く振りながら、玲旺くんの名前が表示された画面を見せてくる。
そこで初めて電話という手段があったことに気づいた。
どうしてさっき思い至らなかったのか。
後悔が押し寄せるけれど、もう遅かった。
「あ、切れた。イタズラだと思われたかな?」
「玲旺くん……」
胸が締め付けられる。
この男の言うように、イタズラだと思われてしまった?
そうかもしれない。でも、もしかしたら。玲旺くんなら……。
淡い期待に縋っているだけかもしれないけれど、少しだけ勇気が出てきた気がした。
「イラつくなぁ。何あいつの名前呼んでんだよ!?……けど、ま、これで邪魔が入る心配もなくなったな。この辺りはさ、何もないから、元々生徒会のやつら以外、滅多に人が来ないんだよ。その生徒会も、終業式の今日は来ない。だから、ちょっとくらい騒いでも全然平気ってワケ」
「……元から、話をする気なんてなかったのね」
初めから、話す気なんてなく、私を抱くなんていう常軌を逸してるとしか思えない理由でこの場所を指定したのだと、今の言葉ではっきりした。
今さらそんなことがわかっても意味はないけれど、気持ちを弄ばれたようで悔しかった。
こんな男だとも気づかずに、一度は付き合ってしまった自分が愚かだったんだ。
「ようやく。ようやくだ。俺を好きだった頃の望愛に戻してやるからな」
彼がじりじりと迫ってくる。
「戻るも何も、私は私のままよ」
女性としての根源的な恐怖がとめどなく襲ってくる。
力では到底敵わないから。
それでも私は、少しだけ湧いた勇気を振り絞って、内心、恐怖にすくみ上がりながらも、決して面には出さず、視線に力をこめて睨み上げた。
そして、意を決して、逃げ出すために、出入口に向かって足を動かして―――。
「お、っと。どこに行くつもりだよ?」
けれど、簡単に腕を掴まれてしまった。
「嫌!離して!――――痛っ」
必死に振り解こうとしたけれど、彼の手はびくともしなくて、それどころか、力を強められて腕に痛みが走った。
「そういうのはいいから……、大人しくしてろ、って!」
そのまま引っ張られ、端に寄せられている机の上に寝かされる形で押さえつけられてしまった。
恐怖が喉元までせり上がる。
目の前の男は、私を好きにできてしまうから。
この状況で、私は抗いきることができるのか。
目を閉じて懸命に呼吸を整える。
恐怖に負けてはいけない。
涙なんて流してやらない。
私は、キッと目を開き、蔑むように見据えた。
「離して!こんなことをして、どうなるかわってるの!?」
「何言ってんだ?付き合ってれば誰もが普通にしてることだし、俺達だって一度はしようとしたってのに。まあ、学校の空き教室ってのはちょっとだけ普通じゃないかもしれないけどさ。それも背徳感があってむしろ興奮するだろ?」
「ふざけたこと言わないで。こんな無理やり押さえつけられて、ただただ気持ち悪いだけよ!それに、私が望む相手はあなたじゃないわ!」
「っ、のあああ!ふざけたこと言ってんのはどっちだ!?それ以上喋ったら、殴っててでもその口閉じさせるからな!」
「っ……!?」
あまりの剣幕に、声にもならない音が漏れた。
「そうそう、それでいいんだよ」
私の様子を見て気を良くしたのか、この男は下卑た笑みを浮かべながら、私の胸元に手を伸ばしてきた。
そのまま、制服のシャツのボタンを上からゆっくりと外していく。
一つ……、二つ……。
その間も、私は怒りもこめた軽蔑の眼差しを向け続けた。
耐えるために、心の中でずっと玲旺くんの名前を呼びながら。
でも、それもとうとう限界が訪れる。
四つ目が外されそうになり、私は思わずギュッと目を瞑ってしまった。
玲旺くん!
バーーーーンッッッ!!!!
そのとき、とんでもなく大きな音が教室内に響いた。
お読みくださりありがとうございます。
やっと、やっと、ヤバい奴のターンが終わりました。
会話の成立しないとんでもないモンスターでしたね……。
ということで、次話主人公視点に戻ります!
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