焦る気持ちを必死に抑えながら
「ど、どうしたの、玲旺君!?そんな怖い顔して!?」
美涼が俺の変化に気づいて驚きの声を上げるが、今の俺にはそれに答える余裕がなかった。
我に返った俺は、すぐにスマホを操作し、望愛に電話する。
だが、コール音はしても、一向に繋がらない。
「チッ!出ねえ!」
俺は、無意識に屋上の床面をドンッと思い切り右足で踏みつけていた。
焦りが増し、イライラを抑えることができない。
どうして俺達にあのメッセージが来た?
なんで俺が漫画の昇と同じ状況になってんだよ!?
そもそも俺は何もしてねえだろ!?
「クソッ!何がどうなってやがんだ!?」
何が起こってるのか全くわからない。
漫画と同じように望愛が今にも襲われそうだとでもいうのか?
漫画とは違い、俺ではない誰かに?
今日という日付を含め、状況が俺に悪い想像ばかりさせやがる!
どうする?どうすればいい?
連絡もつかないってのに、俺に何ができる……?
クソが!違う!そうじゃねえ!!!考えろ!考えろ、俺―――!
「落ち着くんだ、玲旺君!」
一人勝手に追い詰められていたそのとき、美涼の一喝が屋上に響いた。
「っ、美涼……」
「本当にいったいどうしたの?急に血相を変えて。望愛のメッセージを見てからだよね?でもあれは、きっと何か間違えたか、誤作動で送っちゃっただけじゃないのかな?」
「それならいいんだけどな……。だが―――!」
美涼の言うとおりならどれほどいいか。
だが、それにしては漫画との一致が多すぎるんだ。
漫画のことなんて言えるはずもないのに、思わず反論しようとしたのだが、続けられた美涼の言葉で俺は目を見開くことになった。
「それに、電話に出れないのも仕方ないと思うよ?だって望愛は今、浅野と話してるはずだから」
「なっ!?浅野と?あいつとの話し合いってのは今日だったのか!?」
「うん。昨日望愛から連絡があって、そう聞いたんだ。だから、あれだけ浅野と話をしようとしていた望愛が、その最中にスマホを触るとはとても思えないんだよ」
話し合いをするために昇と一緒にいる望愛。
そんな望愛が漫画と同じ、『た』だけという普通なら不可解としか思えないメッセージを送った。
望愛の置かれている状況がもしも漫画と同じなら……。
それは、つまり……。
瞬間、今日見た、昇の醜く歪んだ笑みが思い出された。
「……望愛が危ねえ」
望愛は、俺ではなく、昇に襲われかけているのかもしれない。
「え?」
「どこだ?二人はどこで話し合ってる!?」
俺は美涼の両肩を掴んでいた。
「そ、そこまでは聞いてないからわからないよ。でも、望愛が危ないってどういうこと?」
このとき、俺の中でパズルのピースがはまるような感覚があった。
もしかしたら場所も漫画と同じなのではないか、と。
「……空き教室だ。美涼!生徒や教師がほとんど来なくて、ちょっとした音を出しても誰も気づかない、そんなところに空き教室はないか!?」
漫画で玲旺が、望愛を騙して来させた空き教室。
玲旺がセリフで言っていたことは覚えているが、それが校内のどこなのか、正確な場所がわからねえ。
「空き教室?玲旺君、ちゃんと説明してくれないかな?望愛があの浅野に何かされるってこと?どうしてそんな風に思ったの?」
俺だって、今日という日じゃなかったら、あのメッセージが来なかったら、漫画と結びつけて考えたりしなかったかもしれない。
言っちゃ悪いが、昇にそんな度胸があるようにはとても思えねえしな。
だが、もしかしたら望愛には、漫画のとおりに今日無理やり初めてを奪われるっていう運命が……、強制力が働いているのかもしれねえんだ。
「詳しく説明してる時間はねえんだよ!ただ、その可能性があるってだけだ。なあ美涼、俺が言ったような空き教室があるはずなんだ。わからねえか!?」
たぶん相当必死な顔をしていたんだろう。
美涼は折れてくれた。
「……生徒会室のすぐ近くに椅子と机があるだけで、使われていない教室があるよ。そこなら生徒はもちろん、先生もほとんど来ないと思う」
そうか!完全に盲点だったぜ。生徒会室の辺りは、他に特別何かある訳じゃないから、役員以外は滅多に行く場所じゃない。教師も生徒会役員が使うだけのような場所だから見回りなんてほぼしないだろう。
そして、今日はその生徒会の活動がない。
だが、漫画の玲旺はよくそんな空き教室のこと知ってたな。
ま、どうでもいいんだけどよ。
「サンキュー美涼。今から行ってくる!」
「そこに二人がいるとは限らないよ!?」
「いや、俺の予想どおりなら、そこにいるのはほぼ間違いねえ。それに、恐らく鍵をかけてるはずだからな。蹴破ってでも中を確認してくるぜ!」
漫画の玲旺は誰にも邪魔されないよう、鍵をかけていたからな。
「ちょ、確証はないんでしょう!?そんなことをしたら注意じゃ済まなくなるかもしれないんだよ!?」
「もし、美涼の言うように俺の予想が外れて、ただの杞憂に終わったら、甘んじて処分でも何でも受けるさ」
とにかく望愛の無事を確認する。ピンチに陥っていたら絶対に助ける!
今の俺にはそれしか頭になかった。
無事さえわかれば、停学だろうが、それこそ退学だろうが、心底どうでもよかったんだ。
「まったく、玲旺君は……。本当敵わないな」
そんな俺の気持ちが伝わったのか、美涼が困ったような笑みを浮かべる。
ただ、気のせいだろうか。なんだか俺にはどこか陰があるように映った。
「けど、その必要はないよ。前に、望愛のことは自分でなんとかしろって言うために、浅野とそこで話したことがあってね。そのとき鍵がついていることに気づいて、人目につきにくい場所だし、生徒達が変な使い方をすると困ると思ったから、先生に言って鍵は外してもらったんだよ」
「マジかよ!?」
そんな偶然があるなんてな。
いや、偶然なんかじゃないか。漫画どおりなら美涼はそんなことをしてられる状況じゃなかった。
だが、この世界では、俺が動き、望愛の協力のおかげもあって、美涼は久住に破滅させられることなく、今もこうして元気な姿でいてくれている。
その結果が、些細なことかもしれないが、こうして繋がっているんだ。
俺は胸が熱くなるのを感じた。
「さすが美涼。いい仕事してくれたぜ!それなら、余計な手間が省けるな!じゃあ、俺はもう行くから美涼は―――」
「私も一緒に行くよ。当然だけど、望愛が本当に危ない目に遭ってるなら私だって助けたい。それに、玲旺君が暴走しないように見張っておく必要もありそうだからね」
俺を見張るという部分は冗談っぽく言っていたが、美涼の目はずっと真剣そのものだった。
美涼らしい、強い意志のこもった瞳だ。
「……わかった。けど、久住みたいに凶器を持ってる可能性だってある。絶対無理はするなよ?俺は美涼にだって危ない目に遭ってほしくなんかねえんだからよ。いざとなったら望愛と逃げろ。いいな?」
「っ、うん。わかったよ」
こうして俺は、焦る気持ちを必死に抑えながら、美涼と一緒に急ぎ屋上を後にしたのだった。
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