美味い弁当は魅力的
「次はどれがいいかな?」
「じゃあ、これで」
「はい、どうぞ」
美涼が楽しそうに、アスパラの肉巻きを開けている俺の口に運んでくれる。
うん、これも上手い。
美涼の弁当は、和風な感じだった。
梅とツナマヨ、二種類のおにぎりを主として、卵焼き、肉じゃが、生姜焼き、焼き魚、ほうれん草のごま和え、そして今食べたアスパラの肉巻き。
そのどれもが美味しくて、口が止まらない。
食べさせてもらっているという事実はもう深く考えないようにしている。まるで餌づけされてるみたいだが、そこを考えると美味しく食べることができないからな。
無心だ。無心が一番だ。俺はそれを速攻で悟った。
「玲旺くん、次は何がいいかしら?」
「じゃあ、これで」
「わかったわ」
望愛がニコニコ笑いながら、コロッケを開けている俺の口に運んでくれる。
うん、これも上手い。
望愛の弁当は、洋風と言えばいいのだろうか。
今回は量を少なくしたと本人が言っていたとおり、メインはなく、小さなグラタン、唐揚げ、コールスロー、ミニハンバーグ、そして今食べたコロッケ。
こちらも、すべて美味しい。
どちらの弁当も過去に食べたことがないレベルだ。
美涼も望愛も、自分の弁当を食べながら、交互に俺の口にも運び、さらに会話もするという器用なことをしていた。
「そう言えば、父が言っていたんだが、もしかして玲旺君は一人暮らしなのか?」
「そうだぞ」
「玲旺くんは一人暮らしで、夜はカップラーメンばかり食べてるんですよ。だから私、この間、夕飯を作りに行ったんです」
なぜか胸を張ってドヤ顔になる望愛。
お前、そんなキャラだったか?
……夏服のボタン、弾けそうになってるぞ?
「む、……そうか。それで昼はコンビニ弁当が多いのか?」
「まあ、楽だし、美味いからな。パンを食うこともあるぞ?」
「なるほど……」
「どした?」
美涼が何やら考え込み始めてしまったため、俺は首を傾げた。
「なぜかしら?何かダメな方向に進んでる気がするわ」
望愛は訳のわからないことを言い始めるし。
すると、意外と早く美涼は、うん、と一つ頷き顔を上げた。
「玲旺君、コンビニ弁当も悪い訳じゃないけど、やっぱり栄養が偏ると思うんだ。だから、これからは私が毎日お弁当を作ってきてあげようと思うんだが、どうだろうか?」
「え、マジで!?そりゃこんな美味い弁当、毎日食べれるなら嬉しい……、いや、ダメだ。さすがに迷惑かけ過ぎだ」
俺はつい美涼の提案に飛びつきそうになったが、すぐに思い直した。
そこまで美涼に甘えていい理由は一つもない。
そう思ったのに―――。
「あ、手間とかは考えなくていいよ?私は普段から自分のお弁当は自分で作っているから、少し作る量を増やすだけなんだ」
言いながら美涼がツナマヨのおにぎりを差し出すので、俺はぱくりと食いつく。
うん、美味い。
「そおなのか?」
美涼の負担は大きくない?
それなのに、こんな弁当が毎日食べられる?
気持ちがめちゃくちゃ揺れる。というか、傾く。
「食べる場所も生徒会室を使おう。昼休みに使う役員はいないからね。そろそろ屋上は暑くて食事なんてしてられないだろう?」
これまた魅力的な提案だった。
だから……。
「……美涼の言い値を払うんで、ぜひおねっしゃす!」
おにぎりを飲み込んだ俺は、そのまま頭を下げていた。
考えた。ちゃんと考えたぞ?でも、こんなの断れる訳がねえ。
「ふふっ、ああ、任せたまえ。生徒会長として、先輩として、可愛い後輩の食生活が心配だからな」
美涼が満面の笑みで胸を叩く。
視線が勝手に吸い寄せられてしまった。
すげー。胸ってあんな程度の衝撃でも揺れるんだな。初めて知ったわ。
さすが望愛よりも大きいだけあるな。
「……可愛いってのはやめてくれ」
スッと視線を外して、俺は誤魔化すようにツッコんだ。
「それなら私も作ってくるわ!クラスメイトとして玲旺くんが心配だから」
美涼に対抗するかのように、望愛が力強く言い放ったが、俺が何か言う前に美涼が口を開いた。
「いいや、今はまだ、それはよくないと思う。望愛にはその前にすべきことがあるだろう?次に進むのは、ちゃんと終わらせてからだよ」
「うっ……。そう言われると何も言い返せないわね……」
美涼の言葉を受け、望愛がわかりやすく肩を落とす。
「んな、落ち込むなよ、望愛」
俺は深く考えることもなく、そんな望愛の頭を撫でていた。
やったことに自分で驚く。
けど、手のひらに伝わるサラサラとした髪の感触が心地いい。
「玲旺くん……」
望愛が擽ったそうに目を細める。
美涼、そして望愛。
二人を見ていたら、確認せずにはいられなくなった。
美涼は今回、慎也によって破滅させられるという漫画で定められた運命を打ち破った。
折角未来が切り開けたんだ。なら、慎也と同じ悪役である俺となんて関わってちゃいけない。
それは美涼だけでなく、当然望愛にも言える。
それなのに、俺は今を楽しいと思っている。
だからこれが最後だ―――。
「……自分でお願いしといてなんだが、美涼は本当にいいのか?望愛にも言えることだが、俺は、久住が自分の同類だと思って、今回の件に誘ってくるような奴だぞ?スマホ越しに聞いてただろうが、女遊びも実際してた。そんな奴にそこまで優しくすんのは―――」
「玲旺くんと久住くんじゃ全然違うわ。いくら玲旺くんの言葉でもその言い方は許せないわね」
望愛が瞳に怒りの色を浮かべて、俺の言葉を遮った。
「望愛……」
「玲旺君は無理やり女性と関係を持ったのかい?そしてそれを今も続けてると?」
「いや、無理やりなんてしたことねえし、今は遊びの関係なんて持ってねえけどよ……」
「なら、望愛の言うとおり自分を貶めるような、そんな言い方はするべきじゃないな」
美涼からも怒りが伝わってくる。
「美涼……」
俺は、所詮寝取り役だから、ヒロイン達を破滅から救えるならそれだけでいいと思っていたんだけどな。
それだけじゃ足りなくなっちまった。
こんなことで思い悩むのはもう止めだ。
完全に吹っ切れた。
「そっか。ははっ、変なこと言ってわりい。二人ともいいヤツだな」
漫画での俺が、最悪の寝取りクズ男だとしても、今の俺はそうじゃないんだから、ヒロイン達を遠ざけることも、自分から遠ざかることも、もうしない。
気づけば笑みがこぼれていた。
「「…………」」
「どうした二人とも?ボーっとして」
「っ、い、いや、何でもないぞ?うん。なあ、望愛?」
「っ、え、ええ。何でもないわよ?ですよね?美涼さん」
「あん?」
何でもないって何がだよ?
顔を赤くしながらなぜか慌てる二人に、俺は首を傾げることしかできなかった。
それから程なくして、三人とも弁当を食べ終えた。
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