利き腕は無事なんだから、その必要はない
翌日の昼休み。
「ふわあぁぁ~~」
手ぶらで廊下を歩きながら、我慢しきれず欠伸が出た。
昨日は、病院に行ってからも……、いや、精神的には病院に行ってからの方が色々大変だったんだよな。
正直今日は学校を休みたい気分だった。
まあ、約束があるから来たんだけど。
「ふふっ、おっきな欠伸ね。随分眠そうだけど……あ、もしかして痛みで眠れなかった?縫合までしたんだものね」
望愛が心配そうな顔で訊いてきた。
ちなみにだが、望愛の手には弁当の入っている袋がある。
「いや、そんなんじゃねえよ。桃瀬が帰った後、ちょっとあってな」
「そうなの?昨日は私の後、龍賀くんも美涼さんのご両親に送ってもらえたんでしょう?」
昨日、俺が病院で治療を受け、望愛のところに戻ると、そこには勤務を終えた美涼の母親がいた。
そして、俺が合流したところで、美涼の母親は、もう暗いからと旦那を呼び、俺達は美涼の父親の運転する車で家に送ってもらうことになったのだ。
まあ、車の中には美涼もいたんだけどな。
「まあ、そうなんだけどな……、っと着いたな」
俺と望愛は生徒会室の前に辿り着いた。
一応ノックをしてから、扉を開ける。
「失礼しまーす」
「失礼します」
「二人ともよく来てくれたね。さ、ここに座ってくれ」
生徒会室に入ると、一番奥の席に座っていた美涼が立ち上がり、小さめのローテーブルを挟んで置かれている二つのソファ、その一つを俺達に勧めた。
俺と望愛が一つのソファに並んで座り、美涼は対面のソファに座る―――ことはせず、俺側のいわゆるお誕生日席の位置に椅子を持ってきて、そこに座った。
その手に、一人分の弁当が入ってるにしては大きく膨らんでいる袋を持って。
俺は左側を望愛、右側を美涼に挟まれたような形だ。
「まずは龍賀君、昨日は父がすまなかった」
美涼は言いながら頭を下げる。
「会長が謝ることじゃないっすよ。別に気にしてねえっすから」
「何かあったんですか?」
望愛の疑問は尤もだな。
「ああ。望愛には昨日、私の父が警察官だと伝えたよな?望愛を家に送った後、父は龍賀君を私の家に連れてきて、私達家族の前で事情聴取みたいなことをしたんだ」
「え!?龍賀くんは怪我してたのにですか?」
「うん。私もそう言ったんだが、聞き入れてもらえなくてな」
「だから俺は何とも思ってねえし、会長の親父さんが言ってたことにも納得してるから、もう気にすんのはやめてくれ。ってか、久住達をあれだけぶん殴った俺が、正当防衛ってことになって、今日の放課後、会長と警察に行って事情話すだけで済むのは、間違いなく会長の親父さんのおかげだろ?多分だけど、昨日俺が見逃されたのもそういうことなんじゃねえのか?」
「……ちょっと私にはわからないな」
だから、本当に誤魔化したいなら、そうやって目線逸らすのをやめろ。バレバレなんだよ。
「そうかよ。じゃあ俺は、会長が親父さんに頼んでくれたって勝手に思い込んで、勝手に感謝しとくわ。……ありがとな」
「う、うん。って、私にはわからないんだから、感謝されても困るぞ!?」
「へいへい」
「む、むぅ。……今回のこと、感謝しているのは本当に私の方なんだ。龍賀君、望愛も、昨日はありがとう」
「恥ずかしいからやめてくれ。結局、最後の締めは会長が自分でしたんだし、色々助けられたのは俺の方なんだからよ」
本心だ。望愛と情報共有して、美涼があの現場に来たって時点で、俺が色々動いていたことは全部バレてるんだろうからな。
「私は本当に何もしてませんから」
「ありがとう……。一応、現時点でわかってることを二人には伝えておくよ。久住だけど、今朝、親が学校に来て、退学届を出したと先生から聞いた。彼の親は今回の事件を隠したいみたいでね、退学の理由を全然説明しなかったそうだ。でも、たぶんすぐに転校とかってことにはなれない。これは父が言っていたんだけど、スマホの証拠があるから、警察は捕まった三人に対して次々と余罪を追及していくことになるから長い時間がかかるだろう、って」
「そうか。ま、これで被害者の気持ちが晴れることはないだろうが、新たな被害が出なくなるのはよかったと思うぜ」
「そうね……。私もそう思うわ」
「うん。ここで終わらせることができて本当によかった」
少しだけ、湿っぽい空気が流れるが、それはすぐに霧散することになった。
「さ、それじゃあ、休み時間もそんなに長くないし、ここからはお昼を食べながらにしようか。龍賀君には、感謝の気持ちを込めて、お弁当を作ってきたから食べてくれると嬉しい」
美涼が、二つの弁当箱を袋から出し、大きい方を持ちながら言った。
まあ、廃倉庫での最後の発言は、やっぱこういうことだよな。
「そういうことなら、ありがたく―――」
「でも、龍賀君は今、腕を怪我してるからな。私が食べさせてあげよう」
「あん?利き腕は動くんだから自分で―――」
この女、何言っちゃってんだ?
「無理はよくないぞ?うん、だから今日のところは私が食べさせるのがいいと思うんだ」
あ、ダメだ。話が通じてねえ。おかしくなってやがる。
「おい―――」
「やっぱりそういうつもりだったんですね、美涼さん!」
「……桃瀬?」
望愛までいったい何だってんだ?
「美涼さんがどれくらいの量作ってくるかわからなかったら、小さめだけど……、龍賀くん、私のお弁当も食べてほしいわ。もちろん、私も食べさせてあげるから!」
「じゃあ、一緒に食べさせようか、望愛。龍賀君なら両方食べられるだろう」
二人とも、なんでそんなに食べさせることに拘る!?
「いや、弁当はありがたいが、そういうことじゃなくてだな。会長も桃瀬も―――」
「龍賀君。ずっと気になっていたんだが、どうして私のことをまた会長と呼ぶようになったのかな?」
「あん?いきなりだな。またも何も、最初から会長って呼んでるだろ?」
「君こそ何言ってるんだい?昨日私のこと、美涼って呼び捨てにしたじゃないか」
自分から言っておいて、美涼の頬がほんのりと赤くなっているのがわかった。
「え!?龍賀くん?」
望愛が目を大きくして俺を見つめてくる。
「おいおい、何言って……」
美涼、なんて呼んだ覚えは…………、あ、思い切り名前叫んだわ。
「……あれはだな、咄嗟に出てきただけで、他意はない。っつか、今日の放課後、警察に行ったら久住の件はお終いなんだ。もう俺から会長に関わったりしねえから、呼び方なんてどうでもいいだろ。それに、浅野の言ってたことも、もう桃瀬本人に確認してんだろ?」
「ああ。浅野君の件もちゃんと君に謝らなければと思っていたんだ。久住の友人ということで、話を聞くことになったけど、一方の意見だけで君を問い詰めたりして本当に申し訳なかった」
「それも気にしちゃいねえよ。確かにちょっとイラっとしたのは事実だが、それは、浅野が人に頼って、自分では動かないってことにだからよ。そうやって人を信じやすいのも会長のいいところではあるんだろうしな。ただ、まあ、最後に一つだけ言わせてもらうと、信じる相手はもっと選んだ方がいいってことくらいか」
「……望愛の言ってたとおりだな」
「何だって?」
「いや……、ただ、君が私を助けてくれたのは、まごうことなき真実なんだよ。それなのに、もう私とは関わらないなんて言うのは酷いじゃないか。昨日、父が訊いたよね?どうして娘を助けてくれたのかって。それに対して、君は、真面目にたくさん努力して、人のために頑張ってるヤツが、幸せになるならともかく、あんなクズに人生壊されるのを見たくなかった、って言ってくれた。……なら、これからの私が幸せになれるか、ちゃんと見ててくれてもいいんじゃないかな?」
「……美涼さんのご両親にそんなこと言ったんだ。どうせ、すっごく真剣な顔してたんでしょうね……」
望愛、聞こえてんぞ?そんなのヘラヘラしながら言える空気じゃなかったんだから当たり前だろ。
ってか、そもそも―――。
「……どんな理屈だよ」
「変かな?けど、私の正直な気持ちだよ。だから、これからは、美涼って名前で呼ぶように。会長は役職だし、他人行儀な感じがするからね。ただし、他の生徒がいるところで、今みたいなため口とか呼び捨てとかは駄目だよ?」
何が、だから、なんだか……。
なんで、美涼といい、望愛といい、俺みたいな奴に自分から関わってこようとするんだろうな……。
…………でも、嫌じゃない。
「はぁ……、わかったよ、美涼。……腹が減ったし、俺としては早く弁当が食いたいんだが?」
自分でもただの照れ隠しだってわかるくらい、続けた言葉は言い訳じみていた。
「っ、うん!玲旺君の食べたいものちゃんと言ってね?食べさせてあげるから」
「……おう」
可愛い笑顔だった。
漫画のような絶望一色ではなく、美涼の色々な面を見ることができている。それだけでも、俺がここまで頑張った甲斐はあったのかもしれない―――。
「ちょ、ちょっ~と待ってくれないかしら!?二人だけでいい感じに終わりっぽい雰囲気出さないで!私のことも名前で呼んで?私も玲旺くんって呼ぶから。ね?いいでしょう?」
「くくっ、んだよ、それ。ほら、そんなことよりさっさと飯にしようぜ?望愛の弁当も食っていいんだろ?」
「っ、ええ!もちろんよ。玲旺くんのために用意したんだもの」
望愛の笑顔もやっぱり可愛かった。
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