372.春になって
でも、気に入っているのは間違いない。そうでなければガネットもあんなに構ったりはしないだろう。
「……気に入ってる、ね」
「あなたはそれじゃ、嫌?」
「嫌じゃない。けど……」
キャレシーはうむむーっとなっていた。
(かわいいなぁ)
本来の年齢は自分と大差ないのだけれど、でもそう思ってしまう。
恋する乙女はいつの日も美しいものなのだ。
「誰かを思い切り好きになるのはエネルギーがいるわ。でも、そういうエネルギーは素晴らしいと思う」
「そうかな……」
「傷つくかもしれないけれど、ガネットはあれでいて真面目でしょ?」
「……まぁ、ね」
「もっと心をさらけ出してみるのも、いいかもしれないわ」
キャレシーはふぅっと息を吐いた。
「考えてみる。騎士も……目指してみようかな」
「うん。焦る必要はないわ」
「ありがとう、センセー。参考になった」
キャレシーは頭を下げて、そこで話し合いは解散になった。
去っていくキャレシーの背はなんとなく色々と吹っ切れた感がある。
(ちょっとはプラスになったかしら……?)
それならばいいのだけれど。
◆
そして2月も過ぎ、3月になった。
いよいよイセルナーレも春であり、ぐっと暖かくなってくる。
合わせて春の食べ物が少しずつ増えてきた。
やはり水産物はとても多く、タイやヒラメ、サワラ、アサリなどなど……。
春の幸は新たな喜びを運んでくれる。新学期も慣れてきた頃、エミリアはロダンに誘われて大学終わりに会うことになった。
場所は大学からちょっと離れたレストラン。ふたりきり、ということでフォードとルルはセリスに見てもらう……ちょいちょい会ってはいるが、これもまたシャレス関係だとエミリアは察した。
春は夕方になっても暖かく、心地良い。
待ち合わせ場所のレストランは川沿いにある静かで個室だけのレストランであった。
レストランに到着すると、すぐに席へと案内される。
円形のテーブルにはロダンと外務大臣のシャレスが先に待っていた。
「久しいな。息災であったか?」
「シャレス殿、お陰様で何の問題もなく健やかに過ごせております」
エミリアが挨拶すると、シャレスがグラスを掲げる。
ただ、グラスの中身はワインやレモネードの色ではなかった。
なんだか粒が浮かんで、濃い赤色だ。イチゴのような……。
エミリアのわずかな視線に気付いたシャレスが微笑んだ。
「ああ、先に飲ませてもらっているよ。もっともこれはストロベリージュースだがね」
「ワインぽくはないと思っておりました」
3人掛けのテーブルで、エミリアは空いている一角に着席した。
ストロベリージュースをシャレスが飲んでいるのを、エミリアは奇妙とは思わなかった。
「胃腸のお加減が?」
「ふっ、君は察しがよいな。いいや、至って健康だよ。しかし今日は昼の会合でワインを飲んだ。夜は飲みたくない」
やはり。
貴族外交に酒精は欠かせない。
それゆえ機会があるごとに酒を飲む人もいれば、そういう場でなければ飲まない人もいる。シャレスは後者ということだ。
「今日はやや込み入った話になるのでな」
「承知いたしました。では、私も――アルコールはなしで」
気を引き締めてシャレスに向き直る。今日は恐らく魔術交流会についてだろう。
開催日は刻々と近付いている。
今夜はその話をするのだ。
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